第48話 落ち着いた装いの人気
王都の書店。
紙の匂いが残る静かな店内で、二人の令嬢が棚を見ていた。
「そのドレス、素敵ですわ」
声をかけられた令嬢は振り返る。
深い紺のドレス。
広がりはあるが、装飾は抑えられている。
胸元のレースが、線を整えていた。
「ありがとうございます」
短く返す。
「最近は、こういうものばかり選んでしまって」
相手は一歩近づき、改めて眺める。
「落ち着いて見えますね」
「ええ。着ていて楽です」
即答だった。
「目立ちすぎませんし」
その一言に、少しだけ間ができる。
「……それ、わかります」
友人は小さく笑った。
「可愛いドレスは素敵ですけれど、視線が集まりすぎて」
「落ち着かないときがありますわ」
頷きが返る。
「ええ」
言葉は短い。
だが共通している。
棚の間をゆっくり進む。
すれ違う令嬢の装いにも、同じ傾向が見える。
色は深く。
装飾は控えめ。
広がりだけが、きちんと残っている。
「増えましたね」
「ええ。最近は特に」
窓の外に目を向ける。
通りにも、同じ雰囲気のドレスが混じっていた。
華やかなものとは違う。
だが、埋もれない。
「地味、ではありませんね」
ぽつりと漏れる。
すぐに返る。
「整っている、という感じですわ」
言い換えに、納得するように頷く。
一人の令嬢が本を手に取りながら言った。
「場を選ばないのも良いところです」
「ええ」
「お茶会でも、外出でも」
「少しだけ装飾を足せば、そのまま社交の場にも」
使い方の話になる。
流行ではなく、定着の話。
別の声が入る。
「でも、少し物足りなくありません?」
振り向く。
そこには、淡い色のドレスを着た令嬢。
フリルは多め。
リボンも揺れている。
「もう少し華やかでも良い気がします」
率直な言い方だった。
紺のドレスの令嬢は否定しない。
「そういう日もありますわ」
やわらかく受ける。
「ただ——」
一拍。
「何も足さなくても整っている、というのも安心します」
言い切る。
強くはないが、芯がある。
相手は少しだけ考え、笑った。
「確かに」
完全な否定にはならない。
好みの違いとして落ち着く。
書店の静けさが戻る。
それぞれが本に視線を落とす。
だが、装いの選び方ははっきりしていた。
可愛らしさ。
華やかさ。
そのどちらでもない選択。
落ち着いた装いは、主張しない。
だが——
着る者に、余裕を残す。
王都では今、さまざまな装いが見られるようになっていた。
その中で、静かに選ばれているものがある。
派手さはない。
けれど、長く愛される整った美しさ。
落ち着いた装いは、
品を大切にする令嬢たちの間で、
ゆっくりと根を下ろし始めていた。




