第43話 フェリシアの発想
「フェリシア様……?」
作業室の扉を開けたクラリスは、足を止めた。
机の上に紙が広がっている。
中央で、フェリシアの手だけが止まらない。
ペン先が、迷いなく線を重ねていく。
「もう描いていらっしゃるのですか」
「ええ」
短く返る。
フェリシアは顔を上げない。
「形が見えているうちに、残しておきたいので」
クラリスは机の横に立つ。
一枚の紙に目を落とし、息を止めた。
「……大きいですね」
スカートの線が、これまでよりも外へ張り出している。
「もっと広げます」
即答だった。
フェリシアはそのまま線を引き足す。
「これくらいは必要です」
クラリスは眉を寄せる。
「歩けますか?」
「ぎりぎりで調整します」
迷いがない。
「広がりを優先します」
線が確定する。
そこで一度、ペンが止まる。
「これだけでは弱いですね」
次の瞬間、スカートの上に新しい線が重なった。
波打つ縁。
「フリルですか」
「はい」
「段を増やします」
さらさらと、連続した線が走る。
一段、二段——止まらない。
クラリスの視線が上がる。
「……多くありませんか」
「多いですね」
否定しない。
「でも、このくらいでやっと“別のもの”に見える」
ペン先が止まる。
紙の上のシルエットが、明らかに変わっていた。
クラリスは少し黙る。
(可愛い……ですが、これは——)
言葉を選ぶ。
「かなり目立ちます」
「そのためのドレスです」
即答。
フェリシアは次の線を引く。
スカートの脇に、小さな印をいくつも打つ。
「ここにリボンを配置します」
「すべてに?」
「いいえ」
首を振る。
「視線が流れる位置だけ」
点と点を繋ぐように、位置を整える。
「上から下へ落とす」
クラリスは小さく息を吐く。
フェリシアはそのまま上半身に移る。
線は一気に減る。
装飾も抑えられる。
クラリスが口を開く。
「こちらは控えめですね」
「バランスです」
即答だった。
「下が強い分、上は整える」
胸元に細い線を入れる。
「ここだけで十分です」
描き終え、ペンが止まる。
フェリシアは紙全体を見下ろした。
広がるシルエット。
重なるフリル。
流れるリボン。
抑えた上半身。
クラリスは一歩引く。
「……本当に着るのですか、これを」
正直な言葉だった。
フェリシアは小さく笑う。
「着てもらいます」
言い切る。
「主役になるためのドレスですから」
クラリスは紙に視線を戻す。
もう“少し豪華”ではない。
明らかに、別の領域に入っている。
フェリシアはペンを置いた。
「これでいきます」
迷いはなかった。




