第42話 特別な一着のために
カップの片付けが終わる。
広間に残ったのは、わずかな紅茶の香りだけだった。
フェリシアは椅子に座ったまま、指先でテーブルを軽く叩く。
「お姫様のドレス……」
言葉に出して、確かめる。
クラリスが布を畳みながら顔を上げた。
「どのような形になりますか」
「まだ曖昧です」
即答だった。
フェリシアは立ち上がる。
数歩進み、何もない空間に視線を置く。
「ただ——条件ははっきりしています」
クラリスは動きを止める。
「可愛いだけでは足りない」
「美しいだけでも弱い」
振り返る。
「“別のもの”に見えないといけない」
クラリスは小さく息を吐く。
(簡単ではありませんね)
フェリシアは両手を軽く広げた。
「スカートは大きく取ります」
「今よりも、さらに外へ」
動きで示す。
「それだけで印象は変わります」
クラリスは頷きかけて、止まる。
「ですが、それでは今までと大きくは……」
「ええ」
被せる。
「だから足りない」
フェリシアは視線を落とす。
一瞬だけ思考が沈む。
次の瞬間、顔を上げた。
「重ねましょう」
「……重ねる?」
「フリルです」
短く言い切る。
「一段では足りない。二段でも弱い」
「もっと増やす」
クラリスの目がわずかに開く。
「それは……かなり重くなりませんか」
「なります」
即答。
「でも、重さよりも見た目を優先します」
間を置かず続ける。
「軽さは後で調整すればいい」
クラリスは言葉を飲み込む。
(発想が逆ですね……)
フェリシアはさらに続ける。
「リボンも使います」
「ただ飾るのではなく、視線を動かすために」
「上から下へ、流れるように配置する」
そこまで言って、動きを止めた。
ふと、何かが繋がる。
前世で見た装い。
可愛さを極端に押し広げた形。
その上に、さらに“見せるための華やかさ”を重ねたもの。
(……これです)
フェリシアの目がわずかに細まる。
クラリスが声をかける。
「形は見えてきましたか」
「ええ」
今度は迷いがない。
「可愛いを、限界まで広げます」
「その上で——主役になるための華やかさを足す」
クラリスはゆっくりと頷く。
(確かに、それなら……)
フェリシアは空間を見据える。
そこにはもう、何もないわけではない。
輪郭だけが、浮かび始めている。
「いけますね」
短く言った。
「これで、“お姫様”になります」
方向は決まった。




