第41話 広がりの予感
カップに紅茶が注がれる。
細い音だけが、部屋に落ちた。
クラリスは手を止めないまま、二人の様子をうかがう。
向かい合うフェリシアとミレーユ。
どちらも、すでに話を始める準備ができている。
「先ほどのお願いですが――」
「はい」
間を挟まず返す。
ミレーユは視線を外さない。
「お姫様のようなドレスを作っていただけないでしょうか」
注いでいた紅茶が、わずかに揺れた。
「お姫様、ですか」
「ええ」
即答。
フェリシアは首を傾ける。
「“可愛い”ドレスなら、もうありますよ」
「ありますね」
ミレーユは否定しない。
「だからこそです」
言葉を重ねる。
「私は——それでは足りない」
フェリシアの目が細くなる。
「何が、足りないと?」
「夢です」
短く言い切った。
「現実の延長ではなく、別の世界に見えるもの」
クラリスは思わず手元を見る。
(それは……作れるのでしょうか)
フェリシアは視線を落としたまま口を開く。
「豪華なドレス、とは違いますね」
「ええ。豪華なだけでは弱い」
間髪入れず返る。
「見た人が、自分もそうなりたいと思う形がいい」
フェリシアの指先がわずかに動く。
「……難しいですね」
「ええ」
ミレーユはあっさり認めた。
「ですが、今のままでは止まります」
一歩踏み込む。
「可愛いも、美しいも、すでに広がった」
「その先がない」
クラリスは息を呑む。
(否定ではない。でも……止まる、と言った)
フェリシアはしばらく黙る。
すぐには答えない。
やがて顔を上げた。
「面白いです」
短い言葉だった。
「やったことがないから、難しい」
「でも、それでいい」
ミレーユの視線がわずかに強くなる。
フェリシアは続けた。
「やってみます」
はっきりと言い切る。
クラリスの手が止まる。
ミレーユは小さく息を吐き、頷いた。
「ありがとうございます」
フェリシアは背もたれに軽く寄りかかる。
「“お姫様”ですか」
今度は独り言ではない。
確認するような声だった。
「条件があります」
ミレーユが顔を上げる。
「ただ豪華なだけのものは作りません」
「“見た人が憧れる形”——そこは外さないでください」
ミレーユはすぐに頷いた。
「もちろんです」
フェリシアの目がわずかに細まる。
方向が決まった。
「では、考えます」
それは開始の合図だった。




