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私が着られなかったロリータ服を、異世界で広めます。  ―転生令嬢のドレス革命―  作者: 烏斗
第5章:黒という美

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第39話 黒の価値

数日後。

王都の社交界。


黒いドレスは、もはや珍しいものではなくなりつつあった。

だが――


同じ“黒”でも、どこかが違う。


ある令嬢が小さく呟く。

「……やっぱり、違いますわね」


視線の先。

ヴィオレッタが歩いている。


長いスカート。

控えめなフリル。

白いレース。


形は広まり始めている。

それでも、同じには見えない。


別の令嬢が言った。

「真似はできても……あの雰囲気は出ませんわ」


「ええ」

「なんだか、近づきにくいのに……目が離せない」


評価は分かれていた。


「綺麗だけれど、少し強すぎる気がする」

「私は好きですわ。ああいう落ち着いた感じ」

「でも、可愛さとは違いますわよね」


肯定と戸惑い。

どちらも混ざる。


その中で、ひとつの言葉が残った。


「これは“可愛い”ではありませんわ」


短い沈黙。


「……“美しい”です」


誰も否定しなかった。


――基準が、変わり始めている。


ヴィオレッタはその会話に加わらない。

ただ、歩く。


視線は集まる。

だが、それを受け止めるような仕草もしない。


作られた印象ではない。

立っているだけで成立している。


一人の令嬢が、少しだけ勇気を出して声をかけた。

「そのドレス……素敵です」


ヴィオレッタは足を止める。


「ありがとう」


それだけ。


余計な言葉はない。


令嬢は少し戸惑う。

褒め言葉の続きを探すように、口を開く。


「可愛い、というより……」


「美しい、と言われることが多いわ」


先に言われた。


令嬢が驚く。

ヴィオレッタは続けた。


「それでいいと思っているの」


言い切る。


その一言で、空気が変わった。


迷いがない。

だから、否定しにくい。


別の令嬢がぽつりと漏らす。

「……選べる、ということですわね」


「可愛いか、美しいか」


「どちらかではなく」


その言葉に、何人かが頷いた。


ヴィオレッタは小さく視線を落とす。

黒いスカートの裾が揺れる。


「好きなものを着ればいいのよ」


それは押し付けではない。

ただの事実のように響く。


誰かが笑った。

「それが一番、難しいのですけれど」


少しだけ、空気がやわらぐ。


だが、流れは変わらない。


その場にいた令嬢たちは理解していた。


黒は、特別な色ではなくなった。

だが――


誰にでも似合うわけではない。


誰でも着られるが、

同じにはならない。


だからこそ、価値になる。


ヴィオレッタは再び歩き出す。


黒。

白。

まっすぐな線。


その姿は、もう説明を必要としなかった。


――可愛いドレス。

――美しいドレス。


二つは、競っていない。


並んでいる。


王都の中で、はっきりと。


黒の価値は、ここで定まった。

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