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私が着られなかったロリータ服を、異世界で広めます。  ―転生令嬢のドレス革命―  作者: 烏斗
第5章:黒という美

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第37話 噂は形を変える

数日後。


社交界では、奇妙な噂が広がっていた。


「聞きました?」


声がひそまる。


「黒いドレスの方がいたそうです」


「黒……?」


「ええ。フェリシアドレスの形で」


ざわめき。


「喪服みたいだったとか」

「でも、とても綺麗だったって」


評価が割れる。


「怖くなかったのかしら」

「近づけなかったそうよ」


「でも……忘れられないって」


言葉が揃わない。


ただ一つだけ、共通していた。


――印象が強すぎる。


数日で、話は少し変わる。


「黒いドレスの令嬢が、人を寄せ付けなかったらしいわ」

「誰も話しかけられなかったとか」


「逆よ。みんな見ていたって」

「目が離せなかったって聞いたわ」


噂は形を変える。


事実よりも、強く。


やがてその話は街へ落ちる。


仕立て屋街。


「黒いドレスを」


若い令嬢が言った。


店主が眉を上げる。

「フェリシアドレスで?」


「……ええ」


少し迷いがある。


「でも、同じにはしたくなくて」


「どう違うんです?」


令嬢は言葉に詰まる。


「分かりません。でも……」


視線を落とす。


「綺麗だったと聞いて」


店主は小さく笑う。


「一番困る注文ですね」


だが布を取り出す。


黒い反物。


「試しにやってみましょう」


別の店。


「黒、増えてきましたね」

「でも売れるかは別だ」


「着る勇気がいるでしょう」


「それでも頼まれる。変な話だ」


興味と警戒が混ざる。


まだ“流行”ではない。


だが、無視もできない。


その噂は、やがて侯爵邸にも届く。


庭。


フェリシアが話を聞いていた。


「黒いドレス、ですか」


「はい。少し……怖いという話も」


フェリシアはすぐには答えなかった。


「怖い、ですか」


一度、言葉をなぞる。


「ですが、綺麗だとも」

「近づけないのに、目が離せないと」


矛盾した評判。


フェリシアは少しだけ目を細めた。


(……ああ、なるほど)


一度だけ、納得する。


だが、それ以上は口にしない。


「面白いですね」


侍女が戸惑う。

「驚かれないのですか?」


「ええ」


短く返す。


「同じ形でも、違うものになりますから」


少しだけ視線を上げる。


「ただ――」


言いかけて、やめる。


「いえ」


微笑む。


「見てみたいです」


それ以上は語らない。


王都では今、黒が話題になっている。


可愛いドレスの中に混じる、異質な色。


受け入れる者。

距離を取る者。

真似しようとする者。


噂は広がりながら、形を変えていく。


それはまだ流行ではない。


名前もない。


だが――


誰も、この話を無視できなくなっていた。

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