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私が着られなかったロリータ服を、異世界で広めます。  ―転生令嬢のドレス革命―  作者: 烏斗
第5章:黒という美

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第34話 黒の線、白の輪郭

王都の仕立て屋街、その奥にある小さな店。

布と糸、使い込まれた作業台が並んでいる。


ヴィオレッタはデザイン画を広げた。


若い職人が腕を組み、視線を落とす。


黒を基調にしたドレス。

長いスカート、白いレース、そして縦に流れる線。


「なるほど」


短く呟く。


「形はフェリシアドレスですね」


「ええ。ただし、そのままではないわ」


「分かります」


即答だった。


「甘さを残して、削ってる」

「騒がしくない」


ヴィオレッタはわずかに頷く。

「落ち着いた美しさを出したいの」


職人は黒い生地を取り出した。

深い色。光を受けると、わずかに艶が走る。


「まずは骨組みからいきます」


布を断ち、仮縫いを始める。

手は速い。迷いがない。


侍女が思わず声を漏らす。

「もう形が……」


「線が決まってますから」


スカートが立ち上がる。

パニエの上で、しっかりと広がる。


だが、従来より長い。

足首を隠す丈。


「重心を下げてるんですね」


「ええ。軽く見せないために」


「なるほど」


職人の手が止まる。


「でもこれ、可愛い寄りの型ですよね」

「長くしても、印象が中途半端になりませんか?」


一歩踏み込んだ指摘だった。


侍女が息を呑む。


ヴィオレッタは視線を上げる。


「だから削るのよ」


間を置かずに続ける。


「フリルは控えめに。量で見せない」


職人はすぐに理解した。


「動きだけ残す、か」


裾に黒いフリルを重ねる。

量は抑え、波のような起伏だけを作る。


「これなら騒がしくならない」


次に袖。


白いレースを取り出し、黒の上に重ねる。

模様が輪郭として浮かび上がる。


侍女が小さく息を吸う。

「……はっきり見える」


「黒は背景になりますから」


袖は長めに。

手元でレースが揺れる。


職人が全体を見渡す。


「縦、ですね」


胸元から裾へ、視線が流れる。


「装飾で横に広げない。線で落とす」


「ええ。それでいいわ」


縫い目が整えられていく。

形が締まり、印象が変わる。


可愛い型のはずなのに、軽さが消えていく。


そのとき、ヴィオレッタが白いレースを手に取った。


折り、重ね、形を作る。


侍女が首を傾げる。

「それは……?」


「頭にも合わせる」


横長の小さなヘッドドレス。

白いレースに、黒いリボンを一つ。


職人が目を細めた。


「統一するんですね」


「ええ。同じ素材で輪郭を作る」


黒のドレス。

白い袖。

そして白いヘッドドレス。


侍女が言葉を失う。


やがて、ぽつりとこぼした。


「可愛いのに……」


言い切れず、視線が揺れる。


「……少し、怖いです」


職人が笑う。


「いいですね、それ」


ヴィオレッタは答える。


「綺麗なだけでは、残らないもの」


窓の外、光が落ちていく。


黒い布は暗がりの中で輪郭を強め、

白いレースだけが浮かび上がった。


昼のドレスではない。


その形はすでに――夜に属していた。

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