第33話 仕立て屋探し
王都の仕立て屋街は、布と色であふれていた。
店先には反物が垂れ、窓には仕立て上がったドレスが並ぶ。職人たちは中で針を走らせている。
その通りに、一台の馬車が止まった。
侯爵家の紋章。
扉が開き、ヴィオレッタが降りる。
侍女が眉を寄せた。
「本当にこちらで?」
「ドレスは職人が作るものよ。なら、ここで探す」
短く答え、歩き出す。
一軒目。
年配の仕立て屋が応対に出た。
「どのようなドレスでしょう?」
ヴィオレッタは紙を差し出す。
黒を基調にしたデザイン。
縦に落ちるラインと、白いレースの輪郭。
職人は目を細め――首を傾げた。
「……黒、ですか」
「ええ。フェリシアドレスの形で」
沈黙。
「申し訳ありません」
「可愛い型に黒を合わせる理由が、分かりません」
ヴィオレッタは紙を引いた。
「そう」
店を出る。
侍女が声を落とす。
「やはり、難しいのでは……」
「“分からない”だけよ」
即答だった。
二軒目、三軒目。
反応は変わらない。
「珍しいですね」
「暗く見えませんか?」
「可愛いのに、もったいない」
――可愛いのに。
ヴィオレッタは足を止めた。
「可愛いだけでは、足りないのよ」
侍女が息を呑む。
「光があるなら、影も必要でしょう?」
言い切り、再び歩き出す。
通りの奥。
小さな店の前で、若い男が腕を組んで立っていた。
視線が合う。
男の目が、ヴィオレッタの手元――デザイン画を捉える。
「それ」
一歩近づく。
「黒いフェリシアドレスですか?」
「ええ」
「見せていただけますか」
差し出された手に、迷いなく紙を乗せる。
男は黙って見た。
線を追い、余白まで確かめるように。
やがて、口元がわずかに歪む。
「いいですね、これ」
侍女が顔を上げた。
「え?」
「甘さを削ってる」
「でも形は残してる。……面白そうです」
紙を軽く叩く。
「これ、流行るかもしれないですよ」
ヴィオレッタが問う。
「作れる?」
「作れる」
即答。
そして、少しだけ笑う。
「というか、やらせてください」
依頼ではなく、挑戦の声だった。
ヴィオレッタはわずかに口元を緩める。
「いいわ。任せる」
風が通りを抜け、布を揺らす。
理解されなかったデザインは、この瞬間――
初めて“作り手”を得た。




