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私が着られなかったロリータ服を、異世界で広めます。  ―転生令嬢のドレス革命―  作者: 烏斗
第5章:黒という美

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第30話 黒と白が描く新たなドレス

ヴィオレッタ邸のサロン。

大きな窓から午後の光が差し込み、室内を静かに照らしていた。


ヴィオレッタは窓辺に立ち、王都の通りを見下ろす。

石畳の道を歩く少女たち。

ふんわり広がるスカート。

揺れるフリル。

胸元の大きなリボン。

淡いピンク。

ミントグリーン。

クリーム色。


パステルカラーのドレスが、通りを華やかに彩っていた。

頭には大きなリボンカチューシャ。

王都で今、一番流行しているドレス――フェリシアのデザイン。


侍女が穏やかな声で言う。

「とても可愛らしいですわね」

「最近は、どこの令嬢もあのドレスを着ているそうです」


ヴィオレッタは黙ってその光景を見つめる。

少女がくるりと回る。

スカートがふわりと広がり、フリルがひらひらと舞う。

可愛い世界。

明るくて、柔らかい。


ヴィオレッタは小さく呟いた。

「……可愛い」


しばらく沈黙が続く。

そして静かに続けた。

「ですが――」


ゆっくりと椅子に腰掛ける。

長い黒髪が肩に流れた。

「可愛いだけでは、少し物足りませんわね」


侍女が首を傾げる。

「物足りない……ですか?」


ヴィオレッタは窓の外を見つめたまま言った。

「可愛いは素敵です」

「ですが――」


指先で紅茶のカップをなぞる。

「美しさには、もっと色々な形があります」


侍女は静かに耳を傾ける。

ヴィオレッタの視線は遠くの空に向けられていた。

「例えば――静かな美しさ」

「強い存在感」

「夜のようなドレス」


侍女が少し驚く。

「夜……ですか?」


ヴィオレッタは小さく微笑んだ。

「ええ」

「光の可愛さがあるなら」

「影の美しさもあるべきです」


窓の外では、パステルカラーのドレスの少女たちが笑っている。

明るい色。

可愛らしいリボン。

ふんわりしたフリル。


それとは対照的に、ヴィオレッタのドレスは深い黒。

落ち着いた色。

静かな存在感。


ヴィオレッタはゆっくり立ち上がる。

そして言った。

「新しいドレスを作りましょう」


侍女が目を丸くする。

「ヴィオレッタ様が?」


ヴィオレッタは頷いた。

「ええ」

窓の外の景色をもう一度見る。

可愛いドレスの世界。

だが、その中にまだ存在しない色がある。


ヴィオレッタは静かに言った。

「黒で作りましょう」


侍女は驚いたまま呟く。

「黒の……ドレス?」


ヴィオレッタは小さく笑う。

「可愛いだけではない、夜の美しさを持つドレスです」


その声は静かだったが、はっきりしていた。

ヴィオレッタは窓の外を見つめながら呟く。

「次は――」

「私の番ですわ」


こうして、王都に新しいドレスが生まれようとしていた。


黒。

レース。

静かな美しさ。


それはやがて、王都に広がることになるもう一つの潮流――

ゴシックの美しさの始まりである。

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