第31話 夜に映える美しさのかたち
ヴィオレッタ邸の書斎。
大きな机の上には、いくつもの布見本と紙が広げられていた。
黒い布。
深い色の生地。
細いリボン。
そして一枚の、白いレース。
ヴィオレッタは椅子に腰掛け、静かにペンを動かしている。
紙の上にはドレスの線が描かれていた。
侍女が少し離れた場所から、その様子を見守る。
「新しいドレスのデザインですか?」
ヴィオレッタは手を止めずに答える。
「ええ」
机の上の紙には、フェリシアドレスとは少し違う形のスカートが描かれていた。
ふんわり広がる形ではあるが、丈は長く、足首まで届く。
「まず、スカートは長めにしましょう」
ヴィオレッタは線をなぞりながら言う。
侍女は少し驚いた。
「長いのですね」
ヴィオレッタは頷く。
「可愛いドレスは軽やかです。ですが、私のドレスは――落ち着いた美しさを持たせたいのです」
次に描いたのはフリル。
しかし、その量は控えめだった。
「フリルは少なめに」
侍女が首を傾げる。
「最近は、フリルが多いものが流行っていますよね」
ヴィオレッタは静かに微笑む。
「それも一つの形です。ですが、フリルを減らすことで縦のラインが際立ち、スカート全体が静かに広がります」
ヴィオレッタはスカートの下にパニエを重ねることを思い浮かべる。
「パニエを使い、裾の広がりは抑えめに。静かに、しかし確かに形を整えます」
さらにヴィオレッタは布を手に取る。
柔らかな黒い布の上に白いレースを重ねる。
光を受けて、繊細な模様が静かに浮かび上がる。
「そして――」
「レースは飾りではなく、輪郭として使いましょう」
袖、襟元、スカートの裾――白い線が黒い布の上で立体的に形を際立たせる。
侍女は息をのむ。
「綺麗……」
ヴィオレッタは静かに頷く。
「フェリシアドレスとも違います」
ふんわり軽やかなスカート、明るい色――
光の可愛さを持つフェリシアドレス。
「ですが――私のドレスは、夜の美しさを持たせます」
縦のライン、控えめなフリル、白いレースの輪郭。
長く静かに広がる黒いスカートは、パニエに支えられながらも重くなく、静かな存在感を放つ。
侍女は思わず呟いた。
「可愛いのですが…」
「……少し怖いほど美しいですね」
ヴィオレッタは微笑む。
「それでいいのです」
机の上の白いレースが、夕暮れの光を受けてゆっくり影を落とす。
「可愛いは光のドレス」
「私のドレスは――夜のドレスです」
ふんわり広がるパステルカラーのスカートの少女たちと、静かに影を落とす黒いドレス。
光と影――二つの美しさが、王都に新たな彩りを加え始めていた。




