第28話 ヴィオレッタ宣言
王都の貴族街。
午後のティーサロンには、令嬢たちの楽しそうな声が響いていた。
「見てください、このドレス!」
一人の令嬢がくるりと回る。
ふんわり広がるスカート。
裾にはたっぷりのフリル。
胸元には大きなリボン。
淡いミント色のドレスが、光の中で柔らかく揺れる。
「素敵ですわ」
「とても可愛いです」
別の令嬢も頷く。
その場にいる令嬢たちは、ほとんど同じようなドレスを着ていた。
パステルカラー。
たくさんのフリル。
頭には大きなリボンカチューシャ。
スウィートロリータ。
あるいは――
落ち着いた色合いのクラシカルロリータ。
どちらも今、王都で人気のドレスだった。
その様子を、少し離れた席から静かに見つめる令嬢が一人いた。
ヴィオレッタ。
彼女は紅茶を口に運び、慎重に周囲を観察する。
「……可愛い……か」
小さく、けれど明瞭な声。
隣の侍女が静かに尋ねる。
「ヴィオレッタ様?」
ヴィオレッタは窓の外に目をやる。
街を歩く小さな令嬢たち。
ふんわり広がるスカート。
淡い色のフリル。
フェリシアが作ったスウィートロリータ。
「確かに……可愛いドレスですわね」
侍女は控えめに頷く。
「はい。王都ではとても人気だそうです」
だがヴィオレッタの瞳は、揺れるフリルや可愛らしいリボンに留まらない。
彼女の心には、もっと深い美への欲求があった。
静かに、確かに。
「ですが――」
ヴィオレッタは紅茶のカップを置いた。
「可愛いだけでは、物足りなく思いますの」
侍女が首を傾げる。
「物足りない……ですか?」
窓の外のパステルカラーに目を細め、ヴィオレッタは低く、落ち着いた声で言った。
「可愛いのは、誰でも作れます。
でも、可愛いだけでは、心を奪うことはできません」
その瞬間、彼女の表情が少し変わる。
柔らかい光の中、黒いベルベットのドレスに身を包んだ自分自身の姿を意識しながら、静かに微笑む。
「次は――」
その声は小さいが、誰の耳にも届くような確信に満ちていた。
「私の番ですわ」
侍女が驚きの声を漏らす。
「ヴィオレッタ様も……ドレスを?」
ヴィオレッタは頷いた。
「ええ。可愛いだけではない、ドレスを作ります」
窓の外では、淡い色のドレスを着た少女たちが笑っている。
フリル。
リボン。
パステルカラー。
だが、ヴィオレッタの目に映るのは、全く異なる光景だった。
黒いドレス。
深みのある色。
繊細なレース。
そして静かに凛とした美しさ。
「可愛いだけではない――もう一つの美しさ」
その言葉は、まだ誰も知らない未来のドレスを指していた。
やがて王都に現れる、もう一つのロリータ。
可愛いだけではない、美しさ。
ゴシックロリータ。
その始まりは――
ヴィオレッタの、静かで確かな宣言だった。




