第27話 広がるシルエット
王都の仕立て通り。
石畳の道の両側には、仕立て屋がずらりと並ぶ。
窓には色とりどりのドレスが飾られ、通りを行く人々の目を引いていた。
その日も、一人の仕立て屋が窓の外を見つめていた。
「……またか」
通りを歩く小さな令嬢。
淡いピンクのドレス。
ふんわり広がるスカート。
裾にはたっぷりのフリル。
胸元には大きなリボン。
そして――
頭には大きなリボンカチューシャ。
仕立て屋は腕を組む。
「最近、あの形をよく見るな」
助手も窓の外を覗く。
「本当ですね……可愛いです」
仕立て屋は少し苦笑した。
「……そうなんだよ」
机の上には注文書がいくつも置かれていた。
「スカートはふんわり広く」
「フリルを多めに」
「色は淡いピンク」
「リボンカチューシャ付き」
助手が小さく言う。
「全部、同じですね」
仕立て屋はため息をついた。
「王都の娘たちが欲しがってるんだろうな」
窓の外では、別の令嬢が歩いていく。
落ち着いた色のドレス。
整ったシルエット。
上品なフリル。
「この形も増えてきたな」
仕立て屋は小さく頷く。
助手も頷き返す。
「どちらも同じ形ですね」
確かに――
装飾は違う。
色も違う。
でも形は同じだった。
ふんわり広がるスカート。
腰から自然に広がるライン。
優雅で可愛らしいシルエット。
仕立て屋は静かに言った。
「……この形は、流行るかもしれない」
助手は少し驚く。
「そんなにですか?」
仕立て屋は窓の外を指差す。
通りには、同じような形のドレスがあちこちに見える。
「もう流行り始めているんだ」
その頃――
王都の布屋でも、小さな変化が起きていた。
「ピンクの布をもう少しください!」
「ミント色もありますか?」
店主は目を丸くする。
「最近、その色ばかりだな」
棚には淡いピンク、ミントグリーン、クリーム色。
どれもよく売れている布ばかりだ。
店主は少し笑った。
「まあいい。可愛い布が売れるのは悪くない」
店の外では、小さな女の子たちの声が弾む。
「わたしピンクのドレス!」
「わたしミント色!」
「フリルいっぱいがいい!」
母親たちも自然と足を止める。
「あの子のドレス、可愛いわね」
「色がきれい……まるでお菓子みたい」
「フリルもいっぱいね!」
小さな手を引かれ、女の子たちはくるくる回ってみせる。
フリルがひらひらと揺れ、リボンがふわりと舞う。
「あら、カチューシャも素敵」
「ドレスとおそろいなのね」
街中の仕立て屋も、布屋も、そして通りを行く人々も、自然と笑顔になる。
小さな女の子たちの楽しそうな声が、石畳に響き渡る。
王都の街では、同じ形のドレスが少しずつ増えていた。
落ち着いた優雅さのドレス――クラシカルロリータ。
パステルカラーで、フリルたっぷりのドレス――スウィートロリータ。
装飾は違う。
でも、形は同じ。
ふんわり広がるスカート。
可愛らしいシルエット。
その形は、王都の仕立て屋たちの目にもはっきり映っていた。
職人たちはすでに気づき始める。
「この形は、売れる」
王都の街に広がり始めた、新しいドレスのシルエット。
女の子たちの笑い声。
母親たちの驚きと喜び。
石畳の道を行き交う人々の視線。
もう、誰にも止められない――
新しい可愛いの波が、静かに、しかし確実に広がり始めていた。




