4-5(四)
地学部の展示のメインは春島ハザードマップだ。私が描いた絵地図に、六花先輩の解説文章。それに少しだけれど泉水ちゃんが書いた記事もついている。
ベースの地図は結構頑張って描いた力作だった。だから展示を見に来たパパとママに、
「ああ、これは四方子が描いたな」
「すぐわかるよね」
と言われたときには嬉しい気持ちにはなった。けれど、それでも気恥ずかしさの方が勝った。高校の文化祭、親ってどれくらい来るものなのだろう。
だから、来てくれてありがとうとは言いつつもさっさと二人を追い出してしまう。二人は吹奏楽の演奏を聴きに行くらしい。気恥ずかしさのごまかし半分、本当に気になる半分で、泉水ちゃんに尋ねる。
「泉水ちゃんは、家族が来たりする?」
パチリと琥珀色の瞳が瞬きをした。
「今のは、ご両親ですか」
「うん」
「あの、流鶯祭には大人の方も結構な数いらっしゃるのだなと思っていたのですが、それではあれは、生徒の保護者ということなのでしょうか」
「え?」
相変わらず斜め上だ。
「ううん、まあ親が多いんじゃないかな。卒業生とか、近所の人とかもいるとは思うけど」
「そうなのですね」
けれどそんな質問が出てくる時点で、泉水ちゃんの両親は文化祭に来るということはないのだろうと思う。
聞かない方が良かったのかなと思う。けれど、泉水ちゃんの表情は動かない。動かないままに、呟く。
「私の両親は来ません」
「あ、そうなんだ。忙しいとか?」
「それもありますが、そもそもこのあたりに来るということがないので」
「うん? どこか遠くに行ってたりするの?」
「いえ……あまり家から出ないというだけです」
それから泉水ちゃんは、無表情のまま付け足す。
「先ほどの話ですが。両親の判断です」
一瞬、泉水ちゃんが何を言っているのかわからない。
ああ、先ほどの話。どうして編入してきたのか、か。
ちょうど質問したところで私の親が来て、会話が流れてしまっていた。私はむしろ、もし泉水ちゃんが答えにくいことなのだとしたら好都合だと思ったくらいだった。けれど、泉水ちゃんはきちんと答えてくれる。
「親に転校しろって言われたってこと?」
「はい。どちらかというと、もともと通っていた学校が、私立の中高一貫校なのですが、そこに通うよう両親から言われていました。それが必要なくなったのです」
「必要、なくなった……」
私は戸惑う。
どうも、気軽に話す内容ではないのかもしれない。思い切って跳ぼうとしてみたけれど、着地先がわからずに私は困惑する。泉水ちゃんにとって話していい話題なのだろうか。
「この春から、弟が同じ学校に入ったからです」
琥珀色がパチリと瞬きした。
「泉水ちゃん弟がいるんだ?」
「はい」
「ええと、中学一年生っていうこと?」
「はい」
「それが泉水ちゃんのいた中学校に入ったから……?」
「はい」
入ったから、なんだというのか。
私は何度聞いてもその学校の名前が覚えられなかったけれど、ものすごい特殊な英才教育をする名門校だというのだろうか。弟の方が入ったから、もう姉はそこにいなくていいのか。
そんなことってあるのだろうか?
普通に考えて、おかしいとおもう。なにか家業を継がせるとかそういう話だろうか。だからといって、弟が入ったら姉の方を転校させたりするだろうか? 普通に考えると、おかしい。
けれど、食い下がってそこを聞いていいのかわからない。人の家の話に口を出して良いのか分からない。
泉水ちゃんのいまの無表情を私は読むことはできない。
やっぱり私は上手く跳べないみたいだ。だから私は、これだけは確実なことだけ言うことにする。自分が立っている足元を踏みしめる。
「でも、私は泉水ちゃんが地学部に来てくれて良かったよ」
それは本当。
「はい」
その「はい」は、少しだけ金色の味がした。




