3-1 体育祭!
春のハイキングが終わり、今度はゴールデンウィークと体育祭の季節だ。次から次へと学校行事は行われる。
しかし、体育祭かーー。ハイキングでは外森が出席したくないとごねたが、体育祭は問題が起こらないだろうか。
そんな心配をよそに、ホームルームは行われる。今日の議題は体育祭の出場競技についてだ。
外森はまた、直射日光があるから文句を言うだろうか? でも、ハイキングは行けたし、体育祭は日傘でも差していれば平気だろう。
クラスを眺めていると、だるそうな外森が目に入る。だが、もっと俺の目を引いていたのは、目を輝かせている乾だった。
「宇月、どの競技に出る?」
前の席の秋雨には声をかける。秋雨はあごに手を当てて考えている。
「そうだなぁ、徒競走とか? ばっと走るだけだし、楽かも」
「ボクも徒競走がいいなと思ってたんだよね!」
……テンション高いな。俺はわいわい騒がしい教室内で、ノリノリの乾が気になった。秋雨は徒競走が気になるらしいが、乾は運動が得意なのか? 確かに、狼女だから走ったりするのは好きなのか。
出場競技は徒競走の他に、リレー、騎馬戦、棒倒し、パン食い競争などがあるようだ。
「センセイ! センセイはどの競技に出たいの?」
「……は? 教師も出るのか?」
「えっ、センセイ聞いてなかったの? 今年から教師組として学生と一緒に出るんだって、深雲ちゃんが張り切ってたよ?」
……マジか。俺ははぁとため息をついた。教師は学生の競技をのんびり眺めているだけでいいと思ってたのに……。
「だけど、先生も競技に出るんだ……。深雲ちゃんと同じ組で」
「俺は初耳だったけど、まあ出ろっていわれたらな」
「私、先生と競いたくない……」
そうぼそりと言ったのは、秋雨だった。その声を拾った俺は、軽く笑った。
「競うって、ただのゲームだぞ?」
「宇月、本当に波久礼先生好きだねぇ」
「っ! 葉桜!」
からかわれるが、種目か。教職員だから俺も出ないと怒られるよな。出るとしたらパン食い競争かな。パンももらえるし。
……と、俺はともかくだ。秋雨と乾は徒競走。外森はなんだ?
「ぐう」
「……外森~。寝てるなら勝手に決めるぞ?」
「令来は借り物競争でいいんじゃない?」
乾が勝手にエントリーする。借り物競争って以外に目立つし大変だから、立候補する生徒が少ないんだよな。
黒板に外森の名前を書いたところで、ようやく目をしぱしぱさせながら起きた。
「……令来、借り物競争だって」
「ん? 何が?」
「体育祭の出場競技」
「わたし、その日は休ーー」
「ハイキング行けたんだから大丈夫だろ。欠席は認めねぇぞ」
「ちっ」
外森が舌打ちする。だから、サボりをすると内申書が書けねぇんだって。これは愛の鞭だ。
次々に出場競技が決まると、ホームルームは終了だ。そのまま帰りの会が開かれ、今日の授業はここまで。
俺が出席簿と学級日誌を持つと、秋雨たちが寄って来た。
「先生、パン食い競争決定だね」
「まぁな。秋雨も乾と一緒に徒競走か」
「ってか、葉桜! わたしの種目、勝手に決めたでしょ!」
外森が乾をじろりと見つめる。
「授業中寝ているのが悪い」
「だって、令来」
俺が言うと、外森は頬を膨らませた。体育祭も面倒くさい。だけども学校行事だからな。
「玉入れはクラス全員出席か」
「ここまで来たら、絶対優勝しかないでしょ!」
乾が目をキラキラさせながら女子たちを見つめる。その瞳がきれいすぎたのか、秋雨は目を手で覆う。外森も大きくため息をついた。
「そんな学校行事なんか、毎回力入れるもんかな……。葉桜は本当に学校行事好きだよね」
「そりゃあ、学校生活を楽しく過ごすか、面倒くさそうにだらっと過ごすかだったら、楽しく過ごしたほうがいいじゃん」
乾が当たり前のことを外森に言うが、その言葉に俺は気づかされた。
教師としても、学校行事は面倒くさい。だけどもそれも気の持ちようなのだ。
ホームルームが終わり、夕方。クラスの女子に家へと帰るように促すと、俺は職員室へ帰り、今日決まった体育祭の出場者名簿を作り始める。
「……波久礼先生、体育祭の資料ですか?」
「白石先生。先生は初出場なんですよね」
「ええ。今から緊張しています」
白石先生はどの競技に出るのだろう。じっと見ていたら、自分から教えてくれた。
「私は借り物競争に出るんですよ」
「そうなんですか」
借り物競争か。外森と一緒だ。白石先生は嫌なことを断れなさそうだからだろうか。それとも立候補してーー? 新任だから、周りに打ち解けさせようと誰かがお節介を焼いたとか? ま、真偽のほどはわからないが。
「俺はパン食い競争に出るんですよ。体育祭だと弁当じゃ足りなさそうなんで」
「なるほど! そういう手もありますね」
白石先生は素直だ。俺はその素直さに照れてしまう。パン食い競争に出るなんて、やっぱり食い意地がはっているやつだと思われているだろうか?
「……ケガ人、少ないといいんですけどね」
白石先生がつぶやく。そうか、白石先生は保健医だ。自分たちが出る競技より、ケガ人が出ないことのほうが重要だ。
「棒倒しや騎馬戦は心配ですよね」
「そうなんですよ。女子高だから、そんなに荒々しいことにはならないと思うんだけど……」
「女子高のほうが血気盛んだったりして」
「もぅ、波久礼先生ったら」
俺が冗談を言うと白石先生もクスクスと笑った。互いの顔を見合わせていると、学年主任の先生が手を叩いた。
「皆さん、体育祭の事務、お疲れさまです。ひと息入れるように、校長先生からシュークリームの差し入れが来ています!」
その声を聞くと、主任がシュークリームが入ったボックスを冷蔵庫から取り出す。ちょうど頭を働かせていたので、甘いものが欲しいなと思っていたところだ。
白石先生と俺もシュークリームをもらう。
「カスタードとチョコレート、どっちにします?」
「えーと、カスタードで」
「はい」
白石先生に手渡しされると、俺はさっそくかぶりつく。
「あ~、うめえ」
「ふふっ、波久礼先生って素直なんですね」
「……」
それは俺の台詞だ。だから、白石先生のほうが素直だろーー。俺はそんな彼女をじっと見つめる。チョコレートが口の端についているのを見て、チャーミングだなとふと思った。




