2-4 Who
みんなどんな弁当を持ってきたんだろうか。俺はみんなでつつける内容にしたけど。
俺以外の4人が、弁当を出す。四人は、俺にひとり分の弁当を作って来てくれたようだ。ということは、4人分の弁当を食えってことかーー?
「俺ひとりで4人前は食えないぞ?」
「それならみんなでつまむようにすればいいのでは?」
白石先生がそう言うと、乾が秋雨の弁当にある卵焼きを箸で掴んだ。
「この卵焼き、形きれいだね」
「あ、ありがとう」
……4人の弁当はどんな内容だろう。見てみると、秋雨は言っていたように、卵焼きとたこさんウィンナーだ。卵焼きはただのだし巻き卵ではなく、しらすとわかめが入っている。
「ボクの卵焼きも食べてみてよ」
乾に言われて、外森が口にする。こちらは甘い卵焼きみたいだ。
「サンドイッチを作ってくれたのは?」
「あっ、私……」
白石先生が手を上げる。ツナサンドとタマゴサンドは、マヨネーズが効いていておいしい。外森は、揚げ餃子を差し出した。
「これ、ニンニクを使ってない餃子なんだけど」
「へぇ、揚げたんだ? おいしそう!」
秋雨が、外森の揚げ餃子に箸をやる。口に運ぶと香ばしい風味が広がる。
「……波久礼先生、もっと食べなよ」
「あぁ」
言われた俺は、全員の弁当を口にする。どれもうまいなと関心していると、乾が言ったた。
「ねぇ、先生。誰のお弁当が一番おいしい?」
「えっ、どれも甲乙つけがたいが?」
「ふふっ、波久礼先生は口が上手いんですね」
白石先生が口に手を当てて笑う。しかし、本当のことだ。それに誰かひとりひいきしてもよくないしな。生徒たちもお互いの料理に舌鼓を打っている。逆に俺は聞いた。
「そういうお前らは誰の弁当がうまいと思うんだ?」
「えっとねえ……」
乾が広げられた料理を眺める。外森がその様子を見て言った。
「じゃあ、一斉に誰のお弁当がいいか、指さしてみよう。せーのっ!」
ドンっと合図をすると、全員秋雨のしらす入り卵焼きを指した。
「えっ、私? そんなに目立った料理じゃないのに」
「味だろ? シンプルだけど、味もうまい」
「あっ、ありがとうございます!」
秋雨は照れくさそうに笑って、俺の唐揚げを食べる。みんなが弁当を食べ終えると、山頂に並んで記念撮影だ。
写真を撮ると、下山だ。俺たちはまた、列になって山道を進む。下山するときは下りだから行きよりはだいぶ楽だ。だけど、足を滑らさないように注意だが。
「……んー」
「どうした、外森」
俺のすぐ後ろを歩いていた外森がうめく。俺は一旦足を止めて、外森の横に立つ。
「まぶしい……あとフラフラする」
「大丈夫か?」
外森は太陽の光で弱っているみたいだ。それにさっきはニンニク風味の唐揚げも食べさせてしまったし……。俺は外森と伴走……いや、この場合は伴歩か? する。
生徒を先に進ませると、白石先生に外森の様子を告げた。
「こいつ、日の光に弱いんです。大丈夫かな」
「お日様に弱い? ……まるで吸血鬼みたいですね」
「いやあ、ははっ」
白石先生に指摘されたが、その通り。外森はヴァンパイアだ。今日は無理やり連れてきたけど、やっぱり日の光には弱かったか……。
俺は外村の腕を肩にかける。
「大丈夫か? あとは降りるだけだぞ」
「うん……。頑張るよ」
白石先生も俺たちの後ろからついてくる。俺が足を滑らせないように、注意してくれているみたいだ。下山は慎重に。ゆっくり歩いていくと、ようやくふもとだ。
「……ふう。やっと下山だ」
「センセイ、ありがとう。肩貸してくれて」
「いや、ハイキングに無理やり出席させたのは俺だし」
「まぁ、ケガとかなく終わってよかったよね!」
乾が器用に耳を動かす。ヴァンパイアである外森を山登りに連れ出せたのはよかったが……ニンニクはダメだし、日の光もきつかったみたいだ。生徒は外森だけじゃないけども、今後の行事についてもどうするか、要相談だな。
「……楽しかったか? 外森」
俺がたずねると、外森は頬を膨らませた。
「楽しいって……ニンニク食べさせられて、日の光に当てられたんだけど? わたしにとってはかなり危なかったんだけど!?」
「いや……その通りだけどさ」
「でも、令来もある程度自分で大丈夫かわかったでしょ? ボクはハイキング楽しかったけど」
「そりゃあ葉桜は犬だからね」
「ち、ちょっと! ボクは犬じゃない!」
乾が食ってかかるが、秋雨がそれを止める。
「まぁまぁ、葉桜は犬みたいに人懐っこいから……」
「フォローになってないよ、宇月」
高尾山のふもとで生徒の人数を確認すると、バスに乗せる。山登りは行って帰るだけなのに、集団行動だし、教師としての責任もあるから緊張していたかもしれない。
ともかく生徒を数えて乗せると、俺と白石先生はバスの最前列に座る。ーーあとは帰るだけだ。
バスは静かに発進する。……やけに静かだなと思い、生徒を見てみると。
「……寝てる」
まぁ、朝も早かったし、運動量も多かったからな。ふと、隣を見てみると。
「あっ、ちょっと。白石先生ーー?」
隣に座っていた白石先生も、うとうとと船を漕いでいる。まったく、困ったな。俺はそっと白石先生の肩を叩く。
「んっ……」
「白石先生、起きてください。教師が寝てたら責任問題ですよ」
「ふぁ……波久礼先生? ここは……」
「あと20分くらいで学校ですよ」
白石先生を起こすと、俺もあくびが出る。眠くなる理由はわかるけどな。俺たちも、生徒と一緒に山登りしてるんだから。だけど、責任者だから、生徒たちをしっかり引率していかないといけない。
俺はマイクで生徒たちも一緒に起こす。
『みんな、あと20分で学校に到着する。バスに忘れ物がないように、チェックしてくれ』
ごそごそと降りる準備をする生徒たち。乾と秋雨は目を擦っている。
「ふぅ、よく寝た」
「令来、いびきすごかったよ?」
秋雨に言われた外森が、少し照れた様子で頬をかく。
「色々あったから疲れてたの!」
「でも、みんなでお弁当作って食べたのは、おいしかったでしょ?」
「わたしはニンニク入ってたから、命がけだったけどね?」
でも外森も乾と一緒で、人間よりだからか大したことがなかったのはほっとする。
ーーそろそろ市街地にバスが入る。今日のハイキングに点数をつけるなら、46点くらいだろうか? 行きたがらなかった外森が出席してくれたのはよかったけどな。
俺は立ち上がると、バスを降りる準備を始めた。




