2-3 弁当作り
さて。秋雨と白石先生と別れて帰宅すると、買い物の袋の中身をキッチンにあるテーブルに並べる。
ひき肉、鶏肉、春巻きと焼売の皮、ブロッコリー、パプリカ、竹輪、きゅうりとトマト。春雨、筍の水煮、ピーマン。
何から作ろうか?
俺は鍋に水を張って、まずはうずらの卵を茹で始めた。その横で野菜の下準備だ。パプリカとピーマン、筍の水煮、きゅうりとミニトマトを刻む。春雨は水で戻す。
うずらの卵が茹で上がると、今度はブロッコリーだ。茹でている間に肉の下ごしらえをして、鍋に油を敷く。
まずひき肉は、焼売用。筍の水煮も半分入れて混ぜ、焼売の皮で包む。鶏肉はフォークで刺してから、ビニール袋に調味料と片栗粉を入れて下味をつける。
焼売をレンチンして、唐揚げは油鍋で上げる。ふつふつと油が泡立つまで待つ。
春雨がもどると水を切って、残りの筍と刻んだピーマンを入れて、フライパンで炒める。これで春巻きの中身は完成だ。春巻きの皮に包んでこれまた油で揚げる。
切ったきゅうりは竹輪に入れて、ミニトマトと一緒に爪楊枝に刺す。
ブロッコリーとパプリカもおかかで和えるとできあがりだ。
あとは米を炊いて、梅干しやおかか、ツナマヨのおにぎりを作るだけだ。
「……ふう、かなりしっかり料理すると、時間がかかったな」
ため息をついて、大皿に置いた弁当の中身をつまみ食いする。ーーうん、味は問題ない。あとは明日のハイキングのために弁当箱に詰めるだけだ。
「しっかし、疲れたな……」
俺は独り言を言うと、目指し時計をセットする。明日は7時半に、学校だ。風呂に入ると俺は、早々と休むことにした。
ーー翌日。ハイキング初日。
プラスチックのタッパーを5つ用意する。お弁当というか、みんなが箸を伸ばせるような大皿だ。発案は白石先生だが、秋雨の言葉に乗せられたような気もするが、せっかく何だかんだで作ったんだから、持っていくしかない。味もうまいので、ちょっと自慢したい気持ちもなきにしもあらずだしな。
ーー弁当を持つと、俺は学校へと向かった。
「おはよう、来たな?」
校庭に集まっていたら、外森を見つける。外森は乾と秋雨に捕まえられていた。
「……仕方ないじゃん。クラスメイトにお世話になったらさあ」
「ま、結構楽しいと思うけどなぁ、ボクは」
「令来、先生を困らせたらダメだから」
「あっ、波久礼先生、おはようございます! お弁当は……」
白石先生に挨拶される。お弁当もしっかり持ってきたことを告げると、白石先生は微笑んだ。
「楽しいハイキングになるといいですね!」
ハイキングの先は、高尾山だ。学校から山のふもとまではバス停で2時間半か? 生徒をバスに乗せて、人数を確認すると出発だ。
バスの中ではお約束のように、カラオケ大会が始まる。生徒たちが歌う中、俺は軽くうたた寝をする。弁当作りの疲れが出たのだろうか。
そんなこんなでバスに揺られてしばらく。高尾山のふもとに着くと、俺たちは下ろされた。
「これから登山を開始する。一列になって着いてくるように!」
俺が音頭を取り、先頭を歩く。クラスの最後尾は白石先生だ。
山道のルートはいくつかあるのだが、比較的緩やかなコースを選んでいる。それでも足元には注意だ。
「うわぁ、滝だ!」
「……落っこちるなよ」
俺の後ろの歩く乾が、楽しそうに声を上げた。まだ若いから元気が有り余っているのだろうか。乾とは違い、ヒーヒー言いながら歩く俺は、少しうらやましく感じる。
ちょうど12時くらいだろうか。木陰が少なくなり、視界が開けていく。2時間くらい歩いたら、山頂に到着した。
「お疲れー! ここで一旦昼飯だ!」
俺が告げると、2年A組の生徒は班に分かれる。秋雨と乾、外森がレジャーシートを敷いて座っている。
「センセイ! ここ!」
外森に声をかけられた俺は、白石先生と一緒に座った。
「……で、どんな料理をわたしたちに用意してくれたの?」
外森が俺に目をやる。秋雨と乾もどんな料理を出すか、キラキラしている。俺はレジャーシートの上に、おにぎりとタッパーを出した。
「わぁ、すごい! 宴会料理みたい!」
乾が嬉しそうに目を輝かせる。すると、尻尾がぶんぶんしている。ヤバい。狼女だってバレるぞ。俺は小声で乾に注意する。
「乾、尻尾」
「あっ! ごめんごめん」
何とか秋雨にはバレていないみたいだが注意しないといけないな。俺はじろりと外森に目をやる。始めはハイキングに行きたがらなかった外森だが、日射しはなんとか大丈夫そうだし、元気もいい。やはり行楽は楽しいもののようだ。
「センセイ、これは自由に好きなものを食べていいの?」
「おう。食え食え! 召し上がれ」
「じゃ、いただきまーす!」
3人の生徒は最初に唐揚げを口に入れる。だがーー
「うっ! げ、げほっ……この唐揚げ、何入れた!」
外森が咳き込む。乾が外森の背中を叩きながら、俺に聞く。
「波久礼先生! この香り……唐揚げにニンニク入れたんじゃないの?」
「あ」
言われてから気づいた。そうか、いけない。外森はヴァンパイアだ……。
外森は、持参したらしいトマトジュースを飲んで落ち着く。俺はパンっと手を叩いて謝った。
「外森、悪かった! ……大丈夫か?」
「センセイ! これ、アレルギーのある生徒だったらヤバいんだからね!? わたしに耐性があるからよかったけど!」
「外森さん、気になるようなら脈測ろうか?」
白石先生も外森を気遣う。唐揚げはすぐに吐き出せたのでなんとかよかったが……。これだからイレギュラーな事案は苦手なんだ。ともかくこれは始末書かもだな。
「口直し! 春巻きや焼売はニンニク入ってないし、おいしいよ?」
秋雨が外森に他の料理を勧める。外森は焼売を口にすると、ポツリと言った。
「ーー…おいしい」
「でしょ? 波久礼先生、料理うまいよ」
秋雨が気を使ってくれているのか、俺を褒めてくれる。それが少し嬉しいやら、恥ずかしいやら。
「ボクは唐揚げ気に入ったけどな」
「乾はニンニク、大丈夫なのか?」
「うん、食は人間よりだからね」
「おにぎりもおいしいですよ」
「ありがとうございます、白石先生」
俺の手製の弁当に舌鼓を打っていたが、乾が声を上げた。
「先生、ボクたちの弁当も見てよ。せっかく作ってきたんだからね?」
その声を合図に、各自リュックサックに入っていた弁当を取り出した。




