2-2 手作り弁当
白石先生からのアドバイスを受けた俺は、翌日の放課後、図書館で弁当の本を借りてきた。
「俺が弁当を作るなら、外森も来るだろうか」
家に帰る前に、スーパーに寄ることにした。俺は独り暮らしなので料理は作れなくはない。だけど、男の手料理だ。図書館で借りた弁当の本は、彩りもよく、見た目もかわいらしい。
「俺がファンシーな弁当作るタマかよ」
ひとりでぶつくさいいながら、スーパーに売っている食材を見繕う。おにぎりに春巻き、焼売。ブロッコリーとパプリカのおかか和え。竹輪ときゅうりとトマト、うずらの卵の串刺し。唐揚げ。……こんなところだろうか。
スーパーで食材を選んでいたら、後ろから声がした。
「……波久礼先生?」
振り向くと、そこにいたのは秋雨だった。
「おう、買い物か?」
「はい。夕飯の食材を買いに。先生は?」
「俺は弁当を作ろうと思ってな」
「今度のハイキングのですか?」
「まあな」
俺とレジに並ぶ、秋雨。会計が終わると、ふたりで袋詰めだ。
「……外森さんをハイキングに連れ出す方法、考えついたんですか?」
「一応はな」
「どんな内容か聞きたいかも」
「あのなぁ」
俺は苦笑いするが、秋雨には話しておいてもいいだろう。駅近くのコーヒーショップに、秋雨を誘う。
「お前にも協力を頼んでいるからな。話しておくか」
「やった!」
喜ぶ秋雨とともに、コーヒーショップへ向かう。俺はアイスカフェモカ、秋雨はアイスココアを注文して、テーブルに着いた。
「……で? どんな手なんですか?」
「俺が手作り弁当を作るってやろうかと」
「先生が、手作り弁当?」
「ああ。それなら気になって来るんじゃないかって、白石先生が」
「白石先生? ……あぁ、深雲ちゃんか」
白石先生、着任してまだ日は浅いけど、あだ名で呼ばれているのか。少しうらやましいやらなんやら。同じ女子だから、打ち解けやすいのだろうか。
秋雨は、ストローでココアを吸いながら、頬杖をついている。
「どんなお弁当の内容なの?」
「ええと、春巻き、焼売、唐揚げにおにぎり、あと野菜かな」
「へえ! 結構おいしそうですね。ってか、波久礼先生、料理できるんだ?」
「まぁ……独り暮らしも長いしな」
「ちなみにそれ、私も食べられない?」
「えっ」
いきなり秋雨に聞かれて、俺は思わず声を上げた。少しだけ店内にいたお客が、こちらを見やった。
「あのなぁ、秋雨はハイキング、普通に出席してくれるだろ?」
「でも、私も先生のお弁当、食べたいもん」
秋雨は引かない。俺の弁当がそんなに食べたいかーー? そんなに料理上手じゃないのだが。
「男の料理だからな。茶色いし、しょっぱいぞ」
「だから食べたいんじゃない。……そうだ。私が先生の分のお弁当作るよ。交換こしない?」
秋雨の提案に、俺はすぐにうんとは答えられない。教師と生徒の関係性があるからな。外森に弁当を作るのは、理由があってのことだし。
俺が返事に困っていると、秋雨は手を打った。
「じゃあさ、葉桜にも料理作ってもらって、みんなでお弁当交換しようよ。令来と先生がふたりきりでやっても逆に問題になるでしょ?」
葉桜と令来ーーああ、乾と外森か。下の名前で呼ぶようになったのは進展だろう。だけどお弁当交換会か。何だか女子高らしいな。
「わかった。いいだろう。お前はアレルギーとかないよな?」
「うん。葉桜と令来にも言っておくよ。ハイキングのとき先生とお弁当交換しようって」
「ああ、助かる」
ここまでするなら外森も来てくれるだろう。行事の出欠は内申書にも関わるからな。
「ところで、秋雨はどんな内容の弁当を作るんだ?」
「そうだなぁ、卵焼きとたこさんウィンナーは入れるけどね。先生が茶色いザ・男の弁当ならば、私は普通の女子のお弁当だろうな」
卵焼きはともかく、たこさんウィンナーなんて思いつかなかった俺は、頭をかいた。弁当は見た目も関係あるのか。
「俺の弁当は期待するなよ?」
「ええ? 期待するなって言われてもな」
「……波久礼先生? と、秋雨さん?」
カフェで話していたら、タイミングよく白石先生が現れた。
「こんにちは、奇遇ですね」
挨拶すると、白石先生が座れるようにイスを持ってくる。飲み物を手にすると、白石先生はその席に座った。
「お邪魔じゃなかった?」
「いえ」
「今、ハイキングのことについて話してたんです」
俺と秋雨は、外森がハイキングに来るように、弁当の交換をしようと話していた。それを聞いた白石先生は、目をキラキラさせた。
「お弁当交換会ですか? 楽しそうですね!」
「深雲ちゃんもやる? 波久礼先生も作ってくれるって言うし」
「お、俺はそんなに料理はうまくないから期待されても困るんだが……」
俺がしどろもどろになっていると、白石先生は笑った。
「大丈夫ですよ。私も料理は得意じゃないですし……」
そう言った白石先生だが、俺はふと彼女を見て思った。ーー白石先生、ミイラなんだよな? メシって食うの? つい、先生をじっと見つめる。その視線に気づいた白石先生だが、にっこりと笑っている。
というか、失礼な話だが、ミイラが弁当を作るって、衛生面とか大丈夫なのか? ミイラの作る料理より、男が作る弁当のほうがマシだったりするのだろうか。
俺がうめきながら考えているのを見た白石先生は、秋雨に顔を向けた。
「波久礼先生、私が料理するのが不安と思ってるのかな? ひどいよね」
「あっ! そんなことないですよ。……失礼しました」
「ふふっ、冗談」
「……」
女子のノリにはついて行けなくてため息をつく。すると、俺は白石先生に聞くことにした。
「白石先生はお弁当に何を入れるんですか?」
「私? そうですね、アスパラの肉巻きとはんぺんのチーズはさみ……。サンドイッチもいいですよね」
「どちらかというと洋風ですかね」
だけど、ミイラが作るとわからなければおいしそうだーーやっぱりそう思ってしまうのは失礼なのだろう。
そのとき、秋雨がスマホの着信に気づく。乾と外森からだ。
「葉桜と令来も作るって。ふたりはどんな内容のお弁当を作るのかな」
……ミイラの弁当も気になるが、よく考えたら乾も外森もモンスター。狼女とヴァンパイアが料理か。どんなものを作るのだろうか。今から俺はそわそわしていた。




