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もんすたぁ☆すちゅーでんと  作者: 浅野エミイ


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2-1 包帯

 宿題のノートを見終えると、俺はハイキングのことを考え始めた。班はなんとか決まったが、外森がきちんとサボらず来るかどうかーー。引率するから、俺も体調を万全にしておかないと。

 だけど、外森のやつ、きちんと参加してくれるかな。俺が両手で頬杖をついていたときだった。

 先ほど自販機で会った白石先生が、俺の隣の席に座る。


「あっ、白石先生。お疲れさまです」


 気づいた俺が挨拶すると、白石先生は笑みを浮かべた。


「波久礼先生、先ほどはどうも」


 隣同士で座ると、話題は2年生のハイキングのことだ。 


「赴任後、初めてのイベントなんで、楽しみです」

「あぁ、そうなんだ。10kmも歩ける?」

「はい、健康のためでもありますからね」


 のんきにそう言って伸びをする。その自由さが少しうらやましい。


「俺は生徒を全員出席させるために必死ですよ……」


 苦笑いを浮かべると、白石先生がたずねてくる。


「休みたがっている生徒がいるんですか?」

「あぁ、まぁね……。しかもめちゃくちゃな理由で」


 ヴァンパイアだから火に当たれない。だから休みたいなんて、そんな都合よく欠席されてたまるか。外森をいかにして出席させるかーー。


「何かいいアイデアとか、ありますかね?」

「えーと……」


 白石先生は質問に窮する。外森は新学期早々の問題児だけど、特別扱いはできない。乾が誘ってくれているし、秋雨も声をかけてくれるとは言うがーー。


「ってか、ハイキングなんて引率である俺たちも面倒くさいと思っていますからね」

「波久礼先生、そんなこと言わないでくださいよ」


 白石先生はそう言うと、給茶機でコーヒーを注ぐ。ふたり分用意すると、一杯を俺に渡した。


「……ありがとうございます」

「いいえ。お砂糖ミルクはご自分で」


 さっそくコーヒーを口にすると、少し熱い。白石先生はコーヒーをデスクに置こうとしたら、手に少しこぼした。


「熱っ!」

「あ~あ~、大丈夫ですか? 熱かったでしょ」

「えぇ……」


 白石先生に俺はハンカチを渡す。それで手を拭いていると、ふと腕に巻かれた包帯に再び目が行った。ーーこの怪我、大丈夫なのか? 包帯が気になってしまう。自傷癖とかじゃないよな……? 俺は思いきって聞いてみることにした。


「……包帯、濡れちゃいましたね。一度取って新しいのを巻き直したほうがよいのでは?」

「っ! 新しい包帯……ですか?」


 どうしたんだろう、白石先生。なんか都合が悪いのだろうか。でも、コーヒーを吸った包帯だと、濡れているし熱いし、一度取ったほうがよいと思うのだが。


「……俺が巻き直しますよ。包帯、ありますか?」

「えっ、ああ、ありますけど……」


 白石先生はデスクの中から包帯を取り出す。


「巻き直していいですか」


 質問したら、こくんとうなづいた。乾は狼女で犬みたいなリアクションを取るからかわいいのだが、白石先生も小動物みたいな動作で愛らしい。俺は、今巻かれている包帯を取ると、新しいものを出して白石先生の腕に巻き始める。……あれ? 包帯を取ると、大きな傷がある。しかもそこは乾燥していて、言うなればまるでミイラみたいだ。


 俺がじっと見ていると、白石先生はふと傷を隠す。……じろじろ見て、失礼だっただろうか。こほんと咳払いをして包帯を巻き直す。


 すると、白石先生が小声で言った。


「こんな大きな傷、気味が悪いでしょう? ごめんなさいね、脅かしちゃってるみたいで」

「いいえ。でも、どうしたんですか? この傷……あ、差し支えない程度で」

「……実は私、ミイラで」


 俺は黙って包帯を巻く。ふぅん、白石先生はミイラ……。って、おい。何納得してるんだよ、俺。ちょっと待て。とんでもない暴露だぞ。


「ミイラ……?」


 ミイラって、包帯に巻かれた死体だよな? つまり白石先生は生者じゃないってことか? なんでそんなモンスターが教職に就いてるんだよ。


「ちょ、ちょっと待ってください。白石先生は人間じゃない……?」

「えぇ、まあ」

「マジかよ……」


 俺は頭を抱えた。生徒がヴァンパイアに狼女だから手を焼いているのに、保健医までもミイラだと? この学校は一体何なんだよ。


「……白石先生は、日中歩いても平気なんですか?」

「私? ええ、ミイラですけど、昼間は大丈夫です」


 本人が平気だと言うなら大丈夫なのだろうか。今度のハイキングは、モンスターが勢ぞろいだ。外森と乾ーーヴァンパイアと狼女、そしてミイラの白石先生。人間は秋雨だけか。


 包帯を巻き終えると、俺は白石先生にたずねた。


「あの、白石先生がミイラなのは、秘密ではないんですか?」

「いえ、別に。隠しているわけではないです。……ただ、モンスターが教職員だとやっぱり問題ですかね?」


 外森と乾は問題児というか、モンスターである。だとしたら、白石先生は問題教師になるのだろうか。だけど俺的には、モンスター教師だとしても、きちんと仕事をしてくれるなら文句はないのだが。


「仕事してくれるなら問題ないでしょ」

「はぁ……。波久礼先生って、あっさりしているというか、実力主義なんですね」


 白石先生は俺を見て笑う。実力主義というか、俺のクラスにモンスターがいようが、勉強したいのだから学校に来ているのだし。俺としては、勉強したいという生徒ならモンスターでも構わない。生徒にモンスターがいるから教職員にもミイラがいてもおかしくはない。


「ハイキング、白石先生も同行しますよね? 保健医だし」

「はい。だけど行きたがらない生徒を連れて行く妙案はなかなか思いつかないですね」


 ……白石先生もわからない、か。秋雨は食べ物で釣れと言っていたけど、いい案はーー


「……手作りお弁当とか、どうです?」

「は?」


 突然のアイデアに、俺はクエスチョンマークを浮かべる。手作り弁当?


「先生が生徒に作るんですよ」

「えぇっ! 俺がーー?」

「私だったらちょっと気になるし、ハイキングに行ってみてもいいかなと少し思いますけどね。もちろん行きたがらない生徒がそう考えてくれるかはわかりませんが」

「弁当ね……」


 食べ物で釣る訳ではないけども、俺が弁当を作ったら来るだろうか。聞いてみる価値はあるかもしれないな。


 白石先生に軽くお礼を言うと、俺は課題ノートをトントンと揃えた。


 

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