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もんすたぁ☆すちゅーでんと  作者: 浅野エミイ


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10/26

3-2 いざ勝負!

 ーーそしていよいよ体育祭当日。早朝には銃声。本日は決行。


 体育祭は、クラスごとに紅白に分かれる。2-A組は赤だ。俺たち教職員は『教職員組』に分かれている。

 本日の体育祭は、大学のキャンパスを借りている。生徒たちは体育の格好であるジャージで登校してきていた。荷物置き場のテントに生徒が集まっている中、俺はホームルームを始める。


「いいか! 水分補給をしっかりすること! 競技の間は適宜日陰に入っていること!」

「はーい」


 クラスの生徒たちは元気よく返事する。ホームルームが終わると、準備体操だ。集合して列になると、さっそくラジオ体操に合わせて体を動かす。教職員である俺たちもだ。普段体を動かしていないからか、体が固くなっている。ラジオ体操が終わると、パンフレット通りに競技が始まる。最初は徒競走だ。乾と秋雨が出るんだったな。


「ほら、そろそろ入場だぞ」

「うん、頑張ってくるね!」

「同じ組だけど、ボクも負けないんだからね!」


 秋雨はにっこり俺に微笑んで、手を振る。乾もはちまきを巻き直し、気合いを入れている。100m走、教職員のほうは主任が走るようだ。若い女の子たちと中年の、腹が出ている主任……。正直どちらが勝つかなんて想像つかない。若さだけなら生徒だけど、男のほうが早いというならわからないからな。


「あっ、宇月と葉桜出るんだ」


 俺の隣に外森が立つ。徒競走の列に並んでいる乾と秋雨に、外森が手を振った。


「ーーねえ、先生。どっちが勝つと思う? 賭けようよ」

「あのなぁ、サッカーのトトカルチョじゃねえんだから……」

「いいじゃん。勝ったほうが缶コーラ!」

「おい、何を勝手に……」

「楽しいお話ですか?」


 俺が苦笑いしていると、隣の救護テントから白石先生が顔を出した。


「外森が、乾と秋雨どちらが勝つか賭けようとか言ってきて……」

「それなら私も参加したいです!」

「ほら、深雲ちゃんもそう言ってるし!」

「……はぁ」


 俺はため息をついた。白石先生、何を考えてるんだよ。ここは賭け事するなって止めるのが教師だろ。その上、賭博罪は犯罪なんだが……。

 俺が抗議の眼差しを送っていたところ、白石先生は人さし指をぴんとさせた。


「私はーー主任に一票、かな」

「ふふん、おっさんに生徒が負けるわけないじゃん! ましてや相手は葉桜だよ?」


 乾は確かに野生児……というか、狼女だからな。まぁ速くない訳がない。秋雨と乾だったら乾が勝ちそうだ。


「秋雨って、足速いのか?」


 俺が外森にたずねると、首を捻った。


「宇月はわからないな。本人は脚力に自信あるみたいだったけど」

「主任、勝てるかぁ~?」


 俺が笑いながら白石先生に言うと、ぷんぷんと怒った。


「波久礼先生! 同じ教職員なんですから、信じましょうよ!」

「でもな……」


 よく言えば、恰幅のよい体型だ。腹をたぷんたぷんと揺らしながら走っても、一着は無理だろうよ。

 俺がそんな視線を向けていることも知らず、主任はアキレス腱を伸ばし、準備運動する。徒競走での勝敗より、俺は主任がケガをしないことのほうが心配だ。俺は白石先生の顔を見た。


「主任が優勝するかどうかより、ケガしないように見たほうがよいのでは?」


 白石先生は、「あーっ……」と声をあげて、手をぽんと叩いた。


「確かに言われてみたら……とは言え、それは主任に失礼では?」

「それを言うなら、主任を賭けの材料にしていること自体失礼ですから」

「うっ、確かに」


 白石先生は頭を垂れる。俺たちが駄弁っているうちに、生徒たちは並んでい徒競走がスタートし始める。

 何組か走った後、乾、秋雨、主任がレーンに入る。色々話していたが、一般的に見て優勝候補は、乾だろう。理由は外森が言うとおり、狼女だからだ。


「あっ、3人の番だよ」


 外森が小さくつぶやく。スターターが銃を空に向ける。


「位置について。よーい!」


 パァンッ! 大きい銃声がすると同時に、一斉に3人が走り出す。やはり想像通りにトップを走るのは乾だ。しかし、意外にも秋雨な乾と競り合っている。


「……嘘だろ。秋雨速いのじゃん」


 俺がつぶやくと、聞こえたのか白石先生と外森が俺の声に同調した。


「ホント、狼女と対等に走るって……」

「秋雨さん、陸上か何かやってたんですか?」「そんな話は聞いてないけど。それにしても、主任は予想通りだな」


 主任はというと、想像通りに腹をたぷたぷ揺らしながら、最下位を走っていた。心配していたように、転んだりはしなかったのがせめてもの救いだろう。


「ゴール! 一着は……葉桜! ってことで、深雲ちゃん、コーラね!」

「やっぱり無理でしたか」

「しかし意外だったのは秋雨だな。本当に頭ひとつ分遅れただけだったし」

「お疲れー! ボクたちの戦い、見てくれてた?」


 乾が俺たちに声をかける。秋雨も一緒だ。白石先生は、外森だけではなく、秋雨と乾にもコーラを買ってくれた。まぁ、外森だけだと賭博になってしまうからな。


「……このコーラは?」

「頑張ったしるし」

「だったら主任にも渡さないと」

「……教師はなしですよ」


 笑顔を向ける白石先生。意外とシビアだな。コーラをもらった3人の生徒たちは、ごくごくと喉を鳴らす。初夏の暑い中の炭酸は特にうまく感じるだろうな。

 それを見ていた俺も、釣られて炭酸ソーダを自販機で2本買う。ひとつを白石先生に渡した。


「白石先生、うちのクラスの生徒が悪いな。お詫びだ」

「えぇっ! いいんですか?」

「もちろん」


 ソーダを手にすると先生も嬉しそうに微笑む。それを見ていた生徒たちは騒ぎ出した。


「ひゅーっ! どさくさに紛れて何してんすか、センセイ!」

「よかったね、深雲ちゃん」

「あ、いえ、えーっと……」


 白石先生は口をもごもごする。だけどそのとき、白石先生がふわりと、透明になったように見え、俺は声をあげた。


「白石先生……? あの、透明に……」

「きゃっ! すみません。油断していると驚いたときについ……」


 俺は失礼して、白石先生の手に触れる。感触はあるし、一瞬の見間違いのようだった。生徒たちはコーラを飲んでいたから、気にならなかったみたいだ。


 しかしーー


「ーーえ、波久礼先生が深雲ちゃんに……?」


 白石先生の手をとっているところを、秋雨に見られていた。


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