3-3 借り物競争
いくつか競技が終わり、お昼前の最後の種目になった。借り物競争だ。外森と白石先生が出場する。外森は面倒くさそうだったが、白石先生は俺たちに気合いを見せた。
「頑張って、1位取ってきます!」
「わたしは目立たないように……」
「いや、借り物競争で目立たないようにはできないでしょ」
乾がツッコむ。まぁ確かにな。
『借り物競争に出場する選手は、トラックの前方にお越しください』
呼ばれたふたりは列に並ぶ。
「あのっ、波久礼先生。ちょっといいですか?」
「ん? なんだ、秋雨」
呼ばれた俺は振り返る。秋雨はもじもじしながら俺にたずねた。
「あの……さっき深雲ちゃんの手に触ってましたよね? 何だったんですか?」
うっ。白石先生に触れていたところを見られていたか。俺は頭をかきながら、秋雨に言い訳する。
「い、いや、虫が付いていたんだよ。だから払った」
「……虫、ですか。なんだぁ。いちゃいちゃしてた訳じゃなかったんですね」
「いちゃいちゃって……俺たちは教師だぞ? 生徒の前でそんなことしないだろ」
「まぁ……そうですね」
よかった。秋雨は納得してくれたみたいだ。
前方に目をやると、白石先生と外森が整列して出番を待っている。
『位置について、よーい……』
パンッ! 発砲音がすると、一斉に出場者が飛び出して、札を取る。
「令来たち、借り物はなんだろう?」
乾がつぶやくと、外森と白石先生がこちらへ走ってきた。
「波久礼先生! 一緒に来てっ!」
「えっ、待ってください! 私も波久礼先生に来てもらいたい……」
「お、おい、ちょっと待て。ふたりが引いたのは何なんだ?」
外森と白石先生に腕を引っ張られるが、俺はそれを止めてもらって、借り物が何かをたずねる。
「わたしは『フレンドリーな教師』だよ」
「お、おう、フレンドリー……か?」
「私のほうは、えーと、その……」
「何なに? 白石先生、照れるようなものなの?」
乾が白石先生の札を見ると、大声で言った。
「かっこいい先生? ひゅーっ、波久礼先生やるじゃん!」
「あのな、大人をからかうんじゃない」
「かっこいい先生……」
「秋雨も復唱すんな」
ともかく、白石先生のほうはちょっと困るな。俺はフレンドリーでもかっこいいわけでもない。だけど、ふたりに選ばれちまったからな。行くしかないのか?
「先生! 令来と走って! 紅組優勝!」
外森に言われると、白石先生も声を上げた。
「ここは教職員組のために私と一緒にお願いしますっ!」
「あーっ、参ったなぁ、これ。他の教師じゃダメなのか?」
俺がぼやいても、外森は引かない。
「ハイキングでお弁当を分け合うようなフレンドリーな先生じゃん!」
「それはお前がハイキングに行きたがらなかったから、仕方なくだな……」
「波久礼先生は生徒思いですし、かっこいいですよ!」
「おいおい……」
白石先生も引かない様子だ。
「ともかく行くしかないのか……。しょうがねぇ、行くぞ!」
俺は秋雨と白石先生に声をかけると、一緒に走り出す。ふたりとともにゴールを目指すと、勢い余って外森がコケた。
「痛ったぁ……」
「大丈夫ですか? 外森さん」
白石先生が近寄る。ここはトラック内だから、危ないな。
「ったく、手を焼くな……」
「きゃっ!?」
トラック内で座っていたら邪魔だ。俺は仕方なく外森をお姫様抱っこすると、ゴールへと走る。外森は俺の顔を見上げると、ふいと視線をそらす。
到着すると、また銃声が。そして、審判の教師が外森と白石先生に声をかけた。
「ふたりの借り物は何ですか?」
マイクを向けられた外森は、引いた札を見せて言った。
「わたしが指示されたのは『フレンドリーな先生』でしたけど、白石先生の言うとおりかもしれないですね」
次の白石先生も札を見せる。
「私が引いた札は『かっこいい先生』です。転んだ生徒を抱きかかえて走るなんて、波久礼先生はやっぱりかっこいいですね!」
白石先生は満面の笑みで俺を持ち上げる。照れくさいし、そんなに褒めても何も出ないんだが。俺は外森をゆっくり下へ下ろした。
「ケガ、大丈夫か? 一応白石先生にも見てもらって、消毒してもらえよ」
「はいっ、ありがとうございます」
白石先生は外森を連れて、救護テントへ向かう。俺も付き添いだ。
借り物競争は、外森も白石先生も同着ということになった。どちらも俺を引っ張ってきたからだが、俺はひとりだからな。しかもよく考えたら、借り『物』じゃなくて、借り『人』だったわけだ。正解か不正解かの判断自体も微妙である。
「はぁ、借り物競争楽しかったね!」
外森がにっこり笑って言うと、手当をしながら白石先生も微笑んだ。
「同じ人を引っ張ってくることになったとはね……はい。消毒完了」
外森のひざにガーゼを貼ると、ぽんと腕を叩いた。
「ありがとうございます」
さて。みんなは競技に出場したけど、これで出ていないのはこの中では俺だけか? 午後の競技は俺が出るパン食い競争と全員出場の玉入れか。
「先生、パン食い競争に出るならパンちょうだいよ」
乾は図々しいな。俺は昼飯だけじゃ足りないかもしれないからこの競技を選んだのに。ってか、パンが欲しければ自分で出場しろよ、と俺は呆れた視線を向けた。
「俺が出るんだから、パンは当然俺のもんだ。俺がくわえたパンを渡すわけにもいかないだろ」
「ちぇっ、ケチ」
「それよりメシの時間だろ。腹が減ってるのか? 弁当だぞ」
「やった!」
体育祭はちょうど弁当の時間だ。秋雨たちも、レジャーシートを敷いて、持ってきた弁当をつつき始める。俺と白石先生は、今日は仕出し弁当だ。コロッケと天ぷら、のり弁となかなかに豪華だ。
学生は持参した弁当を広げる。俺はちらりとそちらを見た。
「……ん? なんだ、それ」
秋雨の弁当が視界に入った。油揚げの巾着? だが、中にはそばとネギが入っているようだ。
「そば巾着だよ。めんつゆにいれて食べるの」
「ふむ……珍しいもんだな」
「宇月の料理って、独創的だよね」
乾は自分の弁当に箸をつけながら、秋雨を褒める。初夏の日射しの中、こうして広い場所でのんびり弁当を食べるのも悪くないな。そう感じる俺だが、午後からは俺も競技に出る。さて、頑張らないと。
「……よしっ」
俺は軽く気合いを入れた。




