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もんすたぁ☆すちゅーでんと  作者: 浅野エミイ


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3-4 勝つために負けない

『もんすたぁ☆すちゅーでんと 3-4 勝つために負けない』


 弁当を食べ終えると、俺は伸びをした。午後のパン食い競争は勝ち負けではない。正当な方法で学校からパンをごちそうになる。俺は仕出し弁当を食べたあとでも、少し空腹だった。


「どんなパンがあるのかな」


 鼻歌交じりで、パン食い競争の準備をしている教師たちを眺める。えーと、カレーパンにジャムコッペパン、メロンパンにあんパン……種類が豊富だ。俺は何を選ぼうかな。弁当を食べたあとだから、デザート代わりに甘いものでもいい。となると、ジャムコッペパンかな。


『お知らせします。パン食い競争へ出場する選手は、集合場所にお越しください』

「おっ、出番だ」

「先生、頑張ってね~」


 乾が声をかけてくれる。弁当途中の秋雨と外森も手を振ってくれる。隣のテントから、白石先生もだ。これは頑張らないとな。勝ち負けではないけども。


「……教師をタダで競技に出そうという魂胆が気に入らねぇのよ」


 ぼやきながら、肩を回す。パン食い競争はタダではない。パンをもらえるからな。

 生徒たちに笑顔で送られると、俺は列に並ぶ。同じ列には数学の真田先生がいた。


「あっ、真田先生。……先生もパン目当てですか?」

「ははっ、波久礼先生もタダでは競技に出ないタイプですね」

「まぁね」


 真田先生も俺と同い年くらいの若い教師だ。真田先生は俺を横目でちらりと見て、クスッと笑った。


「だけど、結局借り物競争で目立ってたじゃないですか。生徒をお姫様抱っこしつゴールなんて」

「え? あ、あぁ……。目立ちたくはなかったですけどね」

「だから波久礼先生はモテるんだ」


 真田先生は少しばかりやっかんでいるのだろうか。見た目は正直、真田先生のほうがいいとは思う。身長は高いし、イケメンの類いだ。でも、『いかにもイケメン』と言うより、俺みたいに若干不細工なところがあるほうがウケるのか? まぁ、モテるとか、イケメンだとかそう言うのは、所詮周りが勝手に騒いでいるだけなのだろうが。


「僕は、あんな風に生徒をお姫様抱っこするなんてできないですよ」

「いや……俺だって普段はあんなことしませんよ』


 真田先生はかっこいいが、少しニヒルだ。やっぱり生徒を抱っこして運ぶのは、目立ちすぎたか。だけど、あのまま外森を放っておくわけにはいかなかったからな。


 しばらく話していると、いよいよ出番だ。俺の狙いはジャムコッペパン。ちょうど俺の真ん前にある。


「かっこいい教師ではないですけど、パン食い競争は負けませんからね?」

「……俺はパンが目当てなだけっすから」

「くっ……そういうところがモテるんですよ!」


 真田先生の意気込みはわかるんだが、それって逆恨みみたいなものだろうか。確か、真田先生は俺より少し年下だったような。若いとやっぱり、イケメンかどうかとかを気にしてしまうのか? 何度も言うが、真田先生のほうが見た目はいいのだが。


『位置について、よーい……』


 スタートすると、俺は真田先生を気にせずに、ジャムコッペパンの前へ走った。口をパクパクさせながら、コッペパンのビニールを歯で掴む。噛み付いたらくわえてゴールだ。

 距離的に100mぐらいだろうか。俺は運よくすぐにパンをくわえられたから走れたが、後ろを振り返ると、まだ真田先生がパンに飛びついている。ようやくくわえると、最下位でゴールだ。


「くっそぅっ! 僕の惨敗だ……」

「そうですかね? メロンパンとコッペパンだと、メロンパンのほうが高いですけどね」

「!」


 俺が軽く励ますと、真田先生は目を輝かせた。


「そうだっ! 確かにコッペパンよりメロンパンのほうが高い! パンの単価では、僕のほうが勝っている!」

「……ということで、勝負は引き分けでしょう」

「はいっ! ………あっ」


 嬉しそうに目を輝かせていた真田先生だが、何かに気づいたようだ。なんだろうと顔をのぞくと、真田先生は口を拭った。


「………ちっ、波久礼先生がモテる理由、わかった気がします」

「俺はともかく、真田先生だってモテてるんだから、あんまり深く考え込まないほうがいいっすよ。ただでさえ女子高だから、俺たちは気を遣わないといけないんだし」


 そうなのだ。女子高でモテても仕方ない。生徒たちは未成年だし、当然ながら手を出せない。若い男性教師だと、女子にモテやすいのはあるのだが、うっかりしていたら性犯罪者だ。


「そうですね。僕もさっさと彼女作りたいです……」

「言うなれば俺も彼女はいないんですけど」

「えっ? そうなんですか?」


 真田先生が驚く。その話を聞いていたのか、俺のクラスの三人官女が会話に入ってきた。


「先生、コッペパンにしたんだ。ちょうだい!」

「教師からカツアゲしようなんて、乾はいい性格してるな?」

「……それはともかく、センセイ彼女いないんだ」


 外森が俺をじとっと見つめる。秋雨はというと、視線を足元に落としている。ーー少し耳が赤くなっているように見える。こちらにちらりと顔を向けるとぼそりとつぶやいた。


「あ、彼女……深雲ちゃんじゃないんですか?」

「はぁ、お前なぁ…なんでそうなるんだよ」

「え、違うんですか?」


 うるうるした瞳をこちらへ向ける。俺は頭をかいた。秋雨、変な感情をこちらに向けるなよ……? 俺は鋭い視線を、秋雨に突き刺した。


「ここは女子高。俺は教師。恋愛は普通に考えて、ご法度だろ」

「でも深雲ちゃんなら教師でしょ?」


 乾も余計なことを言ってくる。同じ職場だったら余計に『ない』だろうよ。

 そんな恋愛談義をしているうちに、競技は最後の玉入れになった。


「波久礼先生、行きましょうか」


 真田先生に促された俺は、玉入れの準備をする。主任の先生が玉入れのかごを持つ。俺と真田先生は玉を入れる競技参加者だ。


「あっ、波久礼先生、真田先生」

「白石先生。お互い最後の競技、頑張りましょう」


 白石先生とのことを冷やかされるのも迷惑だ。俺もだけど、白石先生も。学生に恋愛感情は持てないし、教職員同士も変な噂が立ってしまう。ったく、だから教師の結婚は難しいのだ。

 

 生徒はいいよなぁ。勝手に根も葉もない噂話できゃっきゃっと喜んでるなんてずいぶん気楽だ。


 いよいよ玉入れが始まる。俺たち教師も玉を持って準備する。ーー学生に負けてたまるか。

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