8-2 仮装?
いよいよ明日がハロウィンだ。俺は先生たちにハロウィン当日にお菓子を持っているように忠告した。白石先生や真田先生もハロウィンのときにいたずらを狙ってこられたら大変だが、そうならないように自衛のためのお菓子だ。
えーっと、ミニビスケットとあめ玉、チョコレートの入ったジャック・オ・ランタンを職員室の机の上に置く。
「おっ、波久礼先生。お菓子の準備、バッチリですね」
「……教師って、地味に関係ないことに自腹を切らないといけないんですね……」
「ははっ、まぁね!」
真田先生が他人事のように笑う。お菓子の出費、地味にしたくなかったからな。残ったら、俺の軽食にしていいとは言え……。
「1個もらっても?」
「まだ本番のハロウィンじゃないですから、ダメでーす」
「手厳しいなぁ」
まだハロウィンじゃないのに、菓子をあげるわけには行かない。すると真田先生が、俺をじっと見つめて言った。
「波久礼先生、お菓子をあげたりいたずらされたくなかったら……先生も仮装すればいいんじゃないですか?」
「え? 俺が変装……ですか?」
真田先生と話していると、また白石先生も話題に入ってくる。
「波久礼先生も仮装するんですか? これで教師陣も晴れてモンスター勢揃いですね!」
「お、おいおい」
「でも、波久礼先生が仮装するとなったら、どんな衣装がいいんでしょうか?」
「うーん、そうですねぇ」
白石先生と真田先生が、俺本人の意見を聞かずに話す。しかし、仮装かぁ。ハロウィンで仮装なんて、小学校のときの英会話教室以来だぞ。
「あっ、そうだ! 『マッドサイエンティスト』はどうですか?」
白石先生が思いついたように手を叩く。マッドサイエンティスト……? 俺が不審な顔をしていると、真田先生もうなづいた。
「白衣を着るだけですし、悪くないですね」
「白衣……?」
まぁ確かに化学教師でなければ、白衣を着ているだけでコスプレになるかもしれないが……。
「じゃ、決まりですね!」
「おい、マジか」
ふたりのごり押しで、俺は白衣を着ることになった。果たしてこれが仮装かどうかは難しいが。
生徒たちを下校させた俺たちは、いよいよアフターファイブだ。明日はハロウィン。地味に忙しくなりそうだな。そう考えていたところ、真田先生に夕飯に誘われる。白石先生も一緒だ。
「ラーメン、行きません?」
夕飯にラーメンか。悪くない。俺はうなずくと3人連れ立ってラーメン屋に向かった。
ラーメン屋に着くと、俺は塩ラーメンとトッピングに卵、半チャーハンを選んだ。真田先生は豚骨ラーメンにライスを付ける。白石先生は味噌ラーメンだ。
「はぁ、明日ですね。ハロウィン」
「まぁ楽しめたらいいんじゃないですかね?」
「そうですよ。死者やモンスターと楽しむ日ですよ? ハロウィンは」
真田先生と白石先生はポジティブに言う。まぁ、そうだよな。こう言うイベントは、楽しんだほうが勝ちだ。
「そうそう、それより問題は、渋谷ハロウィンですよ」
「渋谷ハロウィン?」
「学校でハロウィンするだけならいいですけど、生徒が調子に乗って、渋谷に繰りださないかって」
真田先生が頭を抱える。……まぁな。学校帰りに渋谷ハロウィンに行く生徒がいたら、とんでもないからな。
「渋谷ハロウィンで補導するようには言われてないですよね?」
白石先生に言われる。確かに色々イベントがあるたび補導しに行くように言われていたけど、今回は特に何もない。
「……ってか、渋谷ハロウィンにたった3人の教師陣が補導しに行ったとしてもね」
「遊園地に行ったときは生徒、見つけられましたけどね」
だけど、遊園地は俺たちが最終的には保護者代わりになってしまったが、渋谷ハロウィンは繁華街だ。さすがに保護者代わりにはなれない。
「真田先生のクラスは、渋谷に行くって生徒はいなかったんです?」
「うーん、そうですね。学校から渋谷、帰り道ですけど、普通にアホみたいに混雑しているところなんて、行く気ないっすよ」
「まぁなあ……」
うちのクラスの生徒たちからも、渋谷ハロウィンの話は出ていない。その代わり、校内の教師がターゲットになったのだが。
「ところでおふたりとも、学校のある地区の町内会も、ハロウィンイベントするって聞いてますか?」
「えっ、町内会?」
「何です、それ」
俺と真田先生が首を傾げる。白石先生が言うには、町内会の子どもたちが、当日に「トリックオアトリート」と大人に聞いて回るらしい。もちろん、紋白高校も町内にあるから、子どもが学校内に入って、お菓子をせびってくる可能性があると言うことだ。
「学校内イベントじゃなくて、町内会もか……」
俺がラーメンをすすると、ふたりも続く。
「で、おふたりも仮装するんですか?」
たずねると、真田先生は笑った。
「僕はサキュバスですよ? 文化祭のとき言ったじゃないですか。性的なやつはよくないって」
「そりゃそうなんですけどね」
「ってことで、僕はお菓子配りに専念しますよ」
「……波久礼先生は、白衣なんでしょ?」
「まぁね。仮装のうちに入るかはわかりませんけど。白石先生は?」
髪をかきあげてラーメンを口にしている白石先生。指先には相変わらず包帯だ。
「私は、包帯巻いているだけですし……解けちゃったら透明になっちゃいますからね」
そうか。ミイラってつまり、まんまで言うなら死体を防腐処理したものだ。透明にになるのがどういうことなのかはよくわからないけどもな。
「文化祭のとき、白石先生はそのまんまで接客してましたよね」
確か眼帯を付けただけだったか。白石先生の包帯は、コスプレではないんだけどな……。
「でも、私、どんないたずらをすればいいかわからないですから」
「モンスターっぽくないですね」
俺がつぶやくと、白石先生は笑った。乾や外森がやんちゃなモンスターだとしたら、白石先生はおしとやかでセクシーなイメージだ。
というか、普通だったらヴァンパイアである外森や、サキュバスの真田先生のほうがセクシーなイメージなんだけどな。
そうは言いつつ、学生で未成年の外森や同性の真田先生がセクシーだったら、面倒くさいことになっただろうけど。
ずずっーー。
3人揃ってどんぶりを掲げる。ラーメンを堪能すると、俺たち教師陣は店をあとにする。
果たして明日のハロウィン、どうなることやら。




