7-5 モンスターズカフェ
クラスに戻ると、廊下のほうまで客人が並んでいた。
「おっ、本当にすごい混雑ですね!」
真田先生が口を開く。教室の中も来客でいっぱいだ。入口から様子を眺めていると、先ほど撤収していった3人がさっそく接客しているのが見える。
「……ホールじゃなくて、裏方……厨房のほうが手不足か?」
「わぁん、先生! どうしよ、入場まであ1時間待ちかも」
乾が泣きを入れると、両手にトレイを持った外森が活を入れる。
「葉桜! さっさとオーダー聞いて! あと、波久礼先生たちも手伝って!」
「え、教師も手伝うの!?」
「すんませんが、よろしく……」
「ふふっ、波久礼先生は生徒に頭が上がらないんですね」
白石先生がくすっと笑う。外森は包帯を巻いている白石先生を見て、手を引っ張った。
「深雲ちゃん! 接客お願いっ! 波久礼先生と真田先生はキッチン行って!」
外森に仕切られた俺と真田先生は、渋々調理室へ向かう。そこではサンドイッチやホットドッグみたいな軽食が作られていた。
「ケーキやスイーツみたいなのは、裏メニューのデビルズミニパンケーキみたいに作らなくても冷蔵庫にあるのか」
「ってことは、俺たちは裏メニュー担当ってことっすね」
……しかし、そんなに裏メニューが出ているのか? 確かホールのモンスターにじゃんけんに勝たないとオーダーできないはずなんだが。
「……なんか、じゃんけんめちゃくちゃ弱いホールがいてさ。ともかく先生たちは作って!」
「はいはい」
外森に言われて俺たちは、エプロンを借りてパンケーキ作りだ。
「僕は客人だったんだけどなぁ~。あれぇ?」
「細かいことは気にすんな。デビルズミニパンケーキ、2つ待ちだぞ」
俺は手早くパンケーキを作る。卵は片手割りだ。
「えっ、すごいっすね、波久礼先生。料理できるの?」
「まぁな。……ほらよっと」
フライパンを振ってパンケーキを裏返しにすると、真田先生から拍手を送られた。
「盛り付け頼むわ」
「へーい」
俺と真田先生は、手早くパンケーキを作る。しばらくバタバタしていたが、パンケーキを5皿出したらようやく落ち着いたようだ。
「オーダー止まったな。白石先生は大丈夫か?」
「見に行ってきましょうか」
俺と真田先生はエプロンを置くと、2-Aに向かった。
満員だった教室だが、今は人が引けたようだ。何でもステージのほうに芸能人が来ているらしい。だからか。
「ふぅ、お疲れさまです!」
教室に行くと、包帯姿の白石先生がいた。普段通りの包帯だが、仮装らしく眼帯を付けていた。
「私、そのままでいいんですけどね」
カラカラと笑う白石先生。ともかくようやく休憩だ。
「先生たち、お疲れー!」
外森、乾、秋雨がこちらへ寄ってくる。ともかく一山越えたらしい。
「このあと後夜祭があるらしいけど、波久礼先生、一緒にいられる?」
外森が俺にたずねる。乾が秋雨のことを肘で突く。……だから、そう言うのは困るんだが。
嘘と真田は使いよう。俺は真田先生の腕を引っ張った。
「俺は教職員だから、真田先生と後片付けだ」
「えーっ! ひっどぉ」
「後夜祭より後片付けなのが教師だ。お前ら生徒は楽しんで来いよ」
面倒くさいが、学生なら学生らしく、あとのことは教師に任せて、後夜祭を楽しんで欲しいというのが俺の本心だ。
「……わかりました。でも、私、負けないですから!」
「お、おう……」
「行こう、葉桜、令来」
……何とか3人はわかってくれたのか。しかし厄介なのは真田先生も変わらなかった。
「波久礼先生、そんなに僕といたかったんですか~?」
ニタニタしながら俺を見つめる。女子生徒に言い寄られるのと、同僚の男に言い寄られるの、どちらがマシかーー究極の選択だが、まだ同性の同僚だと言ったほうが生徒への害は少ないだろう。ま、ふたりきりではなく、白石先生もいるから大丈夫だとは思う。
ーーでも、真田先生はサキュバスなんだよなぁ。俺は眉間にしわができていることに気づいた。
外では花火の準備が始まっているようだ。俺たち教師は後片付けをしながら、2階の職員室から花火を見ることになりそうだ。
だけど、こんな文化祭も悪くはない。例年より慌ただしく、にぎやかだった文化祭。何だかんだで楽しかったな。
ーー俺はそう思うと、調理室の台を拭いて教室の鍵を閉めた。




