7-4 フィーリングカップル
翌日。接客担当の外森と乾らは衣装に着替えている。いよいよ文化祭だ。
「えっと……デビルズミニパンケーキは裏メニューなので、接客モンスターがじゃんけんに負けたら案内するメニューだからね」
秋雨が注意勧告すると、接客担当の学生たちは、メモを取る。俺は朝のホームルームに参加し終えると、一度職員室へ帰ろうとした。あとは学生たちの自主性に任せようと言ったところだ。
「あとは頑張れな~」
「ありがとうございます!」
3人は俺に手を振る。目標は売上トップだ。
職員室に戻ると、教師は腕章を配られる。来客とごっちゃになると困るからな。
「あ、波久礼先生。腕章つけますよ」
「おぉ、悪いな。頼む」
真田先生が俺のシャツに腕章をつけてくれる。俺もお礼に真田先生に安全ピンで腕章を固定した。
「どうでした? 生徒たち。気合入ってます?」
「……まぁな。割とセンスのいいものを作ってるんじゃないかな」
俺が当たり障りのないことを言うと、真田先生は笑った。
「ははっ、そんな弱気だったら優勝狙えないっすよ?」
うちのクラスが優勝を狙っているのは知っていたのか。俺はこほんと咳払いした。
「俺としては、他のクラスと張り合うより、楽しい思い出を作ってくれたほうが嬉しいんですけどね」
そんな話をしていたら、白石先生も入ってきた。
「波久礼先生、私もモンスターカフェに行ってもいいですか?」
「おっ、俺も! サキュバスはいないみたいですが、学生の衣装とかも気になるんでね」
「いや……別にいいですけど」
「やった!」
真田先生と白石先生、いつの間にかそんなに呼吸が合うようになったんだ? モンスター同士だからか? ふたりは互いの両手をパンっと重ねた。
「うちのクラスに来てもらってもいいですけど、他にどんな出し物があるんですかね?」
「あっ、パンフレットありますよ」
真田先生が文化祭のパンフを渡してくれる。パラパラと眺める。
「……あの、今どきフィーリングカップルをやるって……」
「まぁ確かに時代錯誤……ですかね」
真田先生も苦笑いする。フィーリングカップルなんで、俺たちが学生時代ならギリ許されていたけど、今はこんなことして大丈夫なのだろうか。
「一応、見に行ってみます?」
「そうだな。フィーリングカップルって、学生同士なら不純異性交遊の元凶にもなるからなぁ」
俺はパンフを眺めながら伸びをする。うちは女子高だから。フィーリングカップルなんてやって、学校外の男子とくっつくとか……親御さんからクレームが来る可能性もあるからな。
俺たち教師3人は、まず、フィーリングカップルを出し物にしている3年のクラスに行くことにした。
人混みがすごい。3年の教室には人が集まっていた。
「なっ、そんなにフィーリングカップル、人気なんですか!?」
俺が慌てると、真田先生が肩をすくめた。
「すごいっすよね……」
「あっ、波久礼先生?」
俺たちが入口にいたら、秋雨たちの声がした。秋雨も結局着替えたのか、クラシカルなメイド服を着ていた。
「お前ら、カフェのほうはどうしたんだ?」
俺がたずねると、ホットパンツにセーラー服の狼女・乾が説明する。
「ボクたちは呼び込み! ……で、先生たちはフィーリングカップルに出るの?」
「え? あ、いや……」
「波久礼先生が出るよ」
「はっ!? 真田先生、お前!」
「いやいや、真田先生、白石先生もどうぞ!」
「なっ!?」
勝手に出場者にされた俺たちは、入口にいた生徒に引っ張られて席に座らされる。俺だけじゃなくて、真田先生と白石先生もだ。そして入口にいた秋雨も、人数あわせで連れて行かれる。……ったく、強引だな。
俺たちが席に着くと、さっそく司会者がマイクを使って仕切り始める。
「さあて、先生方も出場してくれることになりましたが、まずは女性側から話を聞いてみましょう!」
そう言って、マイクを白石先生に渡す。白石先生は照れながらぼそぼそ話し始めた。
「え、えーっと。私は真面目な人が好み……かな。素の私を好きでいてくれるような……」
白石先生は当たり障りのないことを言う。次は真田先生だ。
「僕は元気よくて、精気がある人が好きですね」
……精気がある人って、吸う気満々じゃないか。俺は頭を抱える。こんなイベントに出されても、俺たち教師は無難なことしか言えねえよ。
そして次は秋雨だ。乾と外森が待つ中、顔を赤らめながら好きな異性のタイプを述べる。
「私は……いつも優しく私たちを見守ってくれる、大人が好きです」
「ひゅーっ! 宇月、言ったれ!」
乾が茶化すとまた照れたように肩をすくめる。俺をチラリと見ると、秋雨ははっきり言った。
「そのっ、波久礼先生みたいな人が、私は……」
「お、おいおい!」
「先生、私は先生みたいな人が……」
秋雨が告白しようとしたところ、外森のスマホが鳴った。
「えっ、わかった! 今戻るわ」
スマホをポーチにしまうと、外森は俺たちの間に入った。
「2-A、今人手が足りなくて回らないみたい。宇月、葉桜、帰るよ!」
「ちぇっ、いいところだったのになぁ……」
乾はがっくりしているが、俺としてはタイミングに救われた。生徒から告白なんて、教師としてまずいって話だからな。
「じゃ、お邪魔しました!」
3年の教室から、2-Aの生徒たちが撤収していく。残った俺たち教師たちだが、3人だけでフィーリングカップルなんてな……。
俺たちも、3年の生徒たちに頭を下げて、その場から去ろうとした。
「男ふたり、女ひとりでも人数足りないしな。俺たち教師は辞退するよ」
「えぇっ!」
3年生から異論が出るが、教師にやらせるのは正直……。
「俺たちの婚期が遅いっていう文句かよ」
「はははっ、確かに!」
「真田先生、笑わないでください……」
白石先生が少し悲しそうにつぶやく。そうなのだ。うちの学校の教師たちは、俺たち3人を含めて『婚期が遅れている』のだ。
俺たち3人もフィーリングカップルの会場から抜け出す。担任の教室が回っていないなら、一度俺たちも見回りに行ったほうがよさげだ。
そんな言い訳をして、俺たち教師も2-Aのモンスターカフェをのぞきに行くことにした。




