7-3 デビルズミニパンケーキ
いよいよ文化祭は明日だ。クラスの生徒たちは、衣装合わせしたりメニュー確認したりと忙しなくしている。
俺はくるくると動いている外森たちに声をかけた。
「どうだ? 進捗は」
「まずまずだよ」
外森と乾はヴァンパイアや狼女の衣装を着て、接客の準備だ。結局ふたりともそのまんまの衣装を選んでいる。
「秋雨は接客じゃないのか?」
聞くとふたりは首を振った。
「宇月は衣装デザイン担当したからね。接客じゃなくて、裏方をお願いしてるんだ」
そんな話をしているところに、タイミングよく秋雨が現れた。
「先生、調理室って借りられます?」
「調理室? ……今の時間なら空いているかもだけど、何をするんだ?」
俺がたずねると、秋雨は自分のノートを見せた。
「実は、カフェで出せるいい感じのスイーツを考えたんだよね」
「へえ。でも材料は買ってあるのか?」
「今から買ってこようかと……」
ふん、スイーツか。モンスターカフェだから仮装だけでも集客できそうだけどな。俺はどんなスイーツか、秋雨に聞いた。
「デビルズミニパンケーキだよ」
「名前から想像つかん」
「ははっ、まあ作ったらわかるよ。先生、買い物に行ってきていい?」
秋雨に言われると、俺は外森に声をかけた。
「ちょっと買い物に付き添うから、現場を頼んでいいか?」
「あ、うん。わかったよ。宇月とデートね?」
「ちょっ、令来! そんなんじゃないから」
外森にからかわれるが、ただの買い物だ。俺は今日はただの財布だからな。あとでレシートを計上して、金をもらわないと。
「じゃ、行こうか。秋雨」
「は、はいっ!」
何だか秋雨は少し緊張しているみたいだ。普段モンスターふたりと一緒に3人セットで絡まれることが多いが、今日は秋雨とツーショットね……。
俺は財布を尻のポケットにねじ込むと、秋雨と一緒に学校を出た。
「ーーそれで、スーパーで何を買うんだ?」
「えっとね、ホットケーキミックスと牛乳、卵、あとココアとチョコレートってところかな」
その材料を聞くと、パンケーキかな? と思う。甘そうだが、なかなかにおいしそうだ。
「これ、カフェでも出すのか?」
「うん、まずは試食してもらってからだけどね」
レジで会計を済ますと、袋を持って学校に戻る。秋雨と一緒に調理室へ行くと、さっそく試食用のスイーツを作ろうと、手を洗った。
秋雨はエプロンをすると、パンケーキの種を作る。ホットケーキミックスに卵と牛乳、ココアを混ぜて、種を小さくフライパンに落とす。
焼いている途中、チョコレートを湯煎で溶かすと、焼き上がったパンケーキを溶けたチョコレートでコーティングする。そして冷蔵庫で固めたら出来上がりだ。
「……ふうん、案外簡単にできるんだな」
俺がつぶやくと、秋雨はお皿にパンケーキを乗せた。
「先生、味見をお願いします」
教師の特権だろうか。なんだか1番にスイーツの味見ができるなんて、役得だな。俺はフォークでパンケーキを切り分けると口に運ぶ。
「ん、うまいな。チョコレートの苦みが効いている」
「本当? 私も味見したい。あーん……」
秋雨が口を開けるが、フォークを持った俺は食べさせなかった。
「食べるなら自分でフォークを持ってこい」
「……ちっ。はぁい」
秋雨は小さく舌打ちした。なかなかのタマである。俺たちが調理室で味見していると、外森と乾が訪れた。
「どう? モンスターカフェの特別スイーツは」
聞かれると試食していた俺は、軽くダメ出しする。
「これだけでも美味いけど、盛り付けに生クリームとバナナがあったら最高だな」
「ふむふむ、生クリームとバナナね。1000円くらいにしないと、元が取れないかも」
「手間を考えると、難しいかな」
フォークを持ってきて、自分も味見する秋雨。じっと見ていたら外森と乾もあーんしてもらって口に入れる。味は最高なんだけど、地味に手数は多いからな。
俺はひとつ提案した。
「手間が多くてあまり出せないなら、裏メニューにしたらいいだろう。モンスターにじゃんけんで勝てたらオーダーできるスイーツみたいな」
「それ、面白そうじゃん!」
乾が俺の提案に乗る。外森と秋雨もうなづいた。
「せっかく考えたレシピだもんね。実際おいしいし」
乾が秋雨の頭をなでる。ナチュラルにいちゃいちゃする女子たちを見た俺は、視線を背ける。仲がいいのは悪くないんだけどな……。
「よしっ、じゃあこのデビルズミニパンケーキは裏メニュー決定ね」
「生クリームとバナナも買ってこないと。先生、行くよ!」
「お、おい」
秋雨に腕を取られると、また外へ買い出しだ。俺はちょうどいい財布兼荷物持ちだな。
そんなことを考えながら、再びスーパーで食材を購入する。
「明日が楽しみですね」
秋雨が俺に微笑みかける。……こいつ、地味にかわいい顔をしてるんだよな。仕草も小動物みたいだし。って、生徒にかわいいとか、そう言う感想を持つのは、やはり教師として失格だろうか。
荷物を持つと、学校に戻る。俺は調理室に食材を置くと、秋雨たちに言った。
「……明日のモンスターカフェ、成功するといいな」
「そう言えば! クラス対向で売上の競争もあるんだっけ」
「負けられないじゃん!」
外森が思い出したように手を叩くと、乾も鼻息を荒くする。
「優勝したらどうなるの?」
秋雨が外森に聞くと、外森はにっこり笑った。
「やっぱ目指すなら優勝だよね。宇月が衣装デザインして、スイーツを考えてるんだもんなぁ」
確かに、今回のモンスターカフェは、秋雨がいなかったら進んでなかったと思う。秋雨なしだったら、ここまでお洒落な出し物にならなかっただろう。
乾はパンケーキを食べながら、秋雨に言った。
「確か優勝したクラスは、ピザだよ」
……ふうん、ピザか。それは楽しそうだが……。
「誰がその金を払うんだ?」
俺が聞くと、生徒たちはにんまりて笑う。
「えぇ~っ! それは聞くだけ野暮でしょう!」
野暮ってことは、やっぱり担任のポケットマネーか……。俺はがっくりと肩を落とす。そりゃあ担任のクラスが優勝するなら嬉しいけどさぁ。
「ともかく、明日楽しみだね。優勝目指して頑張るぞー!」
乾が音頭を取ると、ふたりも拳を振り上げる。いよいよ文化祭は明日だ。




