1-3 誘って
翌日の朝。俺は乾に職員室へ来るように、ホームルームが終わったあとに頼んだ。もちろん声をかけた理由は、外森のことだ。
本当にヴァンパイアかどうかは知らんが、ハイキングのときに一緒の班になってくれないか、お願いするためだ。
「先生、来たよ~」
「お、乾。悪いな、呼び出したりして」
乾は職員室に来ると、俺の目の前に立つ。そのまま話すのも何なので、奥の応接コーナーに連れて行き、ソファに座ってもらった。
「話ってなんですか?」
「外森のことなんだが」
「外森さん?」
俺は外森がヴァンパイアということは避け、ハイキングに行くのを渋っている話だけする。
「へぇ、外森さん、ハイキング行きたくないのか」
「だからお前からも誘ってもらいたいんだが……」
「ボクから? 別にいいけど」
「お、ありがたい。頼むよ」
俺がお願いすると、胸をどんと叩いた。
「いいよ、任せて! でも、ハイキングに行きたくないって……何か理由があるの?」
乾に聞かれると、俺はしどろもどろになった。外森がヴァンパイアだなんて、言っても信用しないだろう。気でも違えたかと思われるかもしれない。俺は「えーっと……」と口ごもってから、説明した。
「何でも夜型だから、日中歩いたら倒れるかもしれないって」
「はぁ? それは生活態度がよくないってことだよね」
「あぁ、その通りだな」
乾はあっさりと言う。ヴァンパイアだから日中は苦手なのはわかるが、外森本人に言った通り、昼がダメなら定時制で勉強するとか手段はあるのだ。全日制だと倒れるなら、定時制にすればいい。全日制を選んでいるのは、外森なのだから。
「ま、どんな理由があるのかは知らないけど、ボクから声をかけてみるよ」
「……乾はハイキング楽しみなのか?」
俺がたずねると、乾は笑った。
「うんっ! 授業もないし、ボクは体使ってるほうが好きだからね。自然の中をハイキングするのも楽しみだよ」
素直な乾の言葉に、少しながら救われる。外森は問題児だが、乾に任せたら大丈夫だろうか?
「ーーボク、お散歩好きだって言ったじゃん? ハイキングはお散歩みたいなもんでしょ?」
あぁ、確かに。乾はアウトドア好きなんだな。俺は乾に頭を下げた。
「……すまないが、外森のこと、よろしく頼むよ」
「はーい」
いい返事を聞くと、俺は一旦乾に外森のことを任せた。
ーーそして放課後。下校時間前のホームルームが終わると、乾が教室に残っていた。
「ねぇねぇ、いいじゃん! みんなでハイキング~!」
「わたしは行きたくないんだが?」
「波久礼先生に強制参加だって言われたんでしょ?」
「うっ……」
外森が乾に絡まれている。ま、原因は俺がハイキングに行くように告げたからだろうが。
「あっ、先生! 外森さんがうんってうなずいてくれない~! ボクたちとハイキング、いいでしょ!」
「わたしは気高いヴァンパイアなのだ! 人間と馴れ合えるか!」
「……ヴァンパイア?」
乾は外森の顔を見た。まぁ驚いたのか、どうなのか。いきなり自分がヴァンパイアだなんて言ったら、普通に驚かれて当然だ。
俺も何を言っているんだと思ったが、実際に血を座れている。はぁ、とため息をつくと、乾に説明した。
「外森はヴァンパイアなんだと。だから日中のハイキングは辛いらしい」
俺が言うと、乾は目を見開いた。やっぱりモンスターがクラスメイトだとびっくりするよな……。そう思っていたら。
「へぇ、奇遇だね! ボクも狼女なんだ!」
「…………え?」
俺は自分の耳を疑った。ーーなんだって? 乾が狼女? って、狼女ってなんだよ。俺が訝しんでいると、乾は俺に言った。
「今は満月じゃないけど、変身はできるよ。……ほっ!」
掛け声をかけると、ポンッと耳と尻尾が出た。
「マジかよ……」
「触っていいよ」
乾に許可を得たので尻尾を触ってみる。ふわふわだ。次に耳。触れると乾は声を漏らした。
「……んっ」
「あっ、悪い! 変なところ触ったか?」
「センセイ! アカハラー!」
「なっ! 俺は乾の耳と尻尾が本物か確認しただけだ!」
「どうだか?」
「俺にセクハラした外森が言うな」
「まぁまぁ、先生も外森さんも落ち着いて」
犬耳と尻尾が出ている乾が止めに入る。だけど、耳も尻尾も感触的に本物だ。……マジか。俺のクラスには、ヴァンパイアと狼女がいるなんてー……。
「なんでそんなモンスターがふたりもいるんだよ」
俺はがっくりと首を落とす。夜行性のヴァンパイアだけじゃなく、狼女までとは。
「……だけど外森、お前は人間と組むのが嫌だったんだろ? 狼女と同じ班ならいいんじゃねぇの?」
俺が言うと、外森はぶうたれた。
「狼女なんて、野蛮だからな……」
「もう、外森さん! ボクに失礼だよ?」
「ともかくお前らの班は、秋雨以外モンスターってことか。秋雨に迷惑かけるなよ?」
ヴァンパイアに狼女。ハロウィンはまだなんだがな? 俺は無表情で頭を抱える。
「だけど、乾の趣味が『お散歩』って意味、少しわかったわ」
「あっ! ボクのこと犬扱いしてる! 失敬な」
「犬は犬だろう」
「外森さんまで! ひっどぉ~!」
乾は頬を膨らませる。すると、俺の手を取って、自分の頭に乗せた。
「……なんだ? 乾」
「先生、なでて?」
尻尾と耳のあとは、頭をなでろか。だけどさっきも外森に言われた通り、セクハラと言われかねないからな。俺は乾に乗せられた手を離して、デコピンした。
「っ! 痛っ、先生ひどーい!」
「ひどいも何も、誤解されかねないからな。なでて欲しいなら、乾は外森に頼めよ」
「……外森さんっ♪」
「……なでないって」
「じゃ、令来って呼んでもいい?」
「わぁ~……ゾワゾワする」
「いいだろ、クラスメイトなんだから」
俺がふたりの中間に入ると、乾は外森を下の名前で呼ぼうとする。ま、同じクラスだし、同じ班なんだから、このくらい受け入れてもいいだろう。
「乾と外森は秋雨と同じ班だから、後で挨拶しておけよ?」
「はーい!」
「わたしは不本意だぞっ……人間風情と犬女と一緒に日射しの下歩くなんて!」
「ボクが犬女!? ちょっと、令来。失礼だよ」
ったく、外森は往生際が悪い。ハイキング、この調子で大丈夫だろうか。俺は目頭を手で押さえた。




