7-1 登校日
夏休みが終わる前。登校日。夏休み前から話は出ていたが、いよいよ文化祭の出し物についての話が具体的になってきた。
「出し物について、希望はある?」
ホームルーム。日直の乾が司会を務める。
「まずは文化祭実行委員を決めなくちゃでしょ」
クラスの一軍女子が意見を言う。確かにまずは司会もやる、実行委員が必要だ。
「誰か、やりたいひとー!」
乾が挙手を求める。こういう派手な委員は、何故か人気がない。……まぁ、仕事が大変だからな。
誰も候補者がいなくて乾がため息をつくと、乾は提案した。
「じゃ、くじ引きにする? それなら平等じゃん」
そう言うと、紙をちぎり出す。『当たり』と書いてある紙を引いた生徒が委員だ。
「じゃ、出席番号順に引いていって!」
封筒に入れた紙を、出席番号1番の秋雨から引いていく。全員が引くと、結果発表だ。
「さて、当たりだった人ー」
乾がたずねると、しぶしぶ外森が手を挙げた。
「あー、マジでぇ? ただでさえ面倒くさいのに」
「じゃ、令来、司会頼むよ」
「……はいはい」
外森は苦々しく笑うと、乾からバトンタッチして司会進行を始める。
「はい。文化祭実行委員になった、外森です。……で、やりたい催しなんかはありますか?」
外森が聞くが、クラスメイトのやる気が微妙にない。外森は苦言を呈した。
「文化祭実行委員会とかやれば、内申書にも書いてもらえるのに、みんなやりたがらないからなぁ……。せめてすごい出し物をしようとか、ないの?」
内申書と聞いた学生は、耳をぴんとして手を挙げた。
「それなら話は別でしょ」
「確かに、言われてみたら……」
生徒たちはようやく真面目に考え始めた。しかし、文化祭の出し物ね……。どんなのがいいんだろう? 俺は教壇に立つ司会者・外森の隣で座りながら、生徒たちが発案するのを待つ。うーんとうめき声が聞こえそうだ。
「とりあえず、候補を出してみようよ」
外森がやれやれと言った様子で提案すると、ようやく生徒たちは手を挙げた。
「ファッションショーとかは? 手芸部と提携して」
「手芸部は手芸部でやるでしょ。クラスの出し物なら、食べ物関係がいいんじゃないの?」
「うーん……」
食べ物関係なら出店か、喫茶店か。
「9月だから、アイスクリーム屋とかはどう?」
「冷蔵庫どうするの?」
「クレープは?」
「上手く焼けるかな。それにクレープを焼く機材も必要じゃん。どこから借りるの?」
食べ物関係と言っても、そんなに簡単なものではなく、色々調理道具が必要なのだ。それならもっと気楽なほうがいい。
「……たこせんは? たこ焼きをせんべいで挟むやつ。たこ焼きの鉄板なら、借りられるところわかるでしょ?」
「調理する手間なないほうがいいよ。9月だけど、食中毒が怖いし」
言われてみたらその通りだ。まだ気温は暑いから、衛生面を見るなら屋台とかじゃないほうがよさそうだ。
「……ってことは消去法としてカフェかな?」
「そうだね。一応多数決を取ったらどうだ?」
俺が外森に聞くと、みんなに伏せるように言う。
「はい、じゃあアイス屋がいい人ー!」
順番に聞いて行く。俺は伏せないで生徒たちの様子を眺める。すると喫茶店が1番人数が多かった。
「……はい。喫茶店に決定ね」
外森が手を打つと、乾が挙手をした。
「普通の喫茶店じゃつまらなくない? みんなでお揃いのTシャツとか……ユニフォームを着るとかあるじゃん」
秋雨も意見を述べる。
「それだったらメイド喫茶とかあるじゃん」
「メイド喫茶店とか、古くない?」
他の生徒が苦言を呈する。まあ、確かにな。メイド喫茶は文化祭の出し物としたらあるあるすぎる。
「うーん、〇〇喫茶みたいで、メイド喫茶以外……つまり、コンセプトカフェがいいってことだよね」
外森があごに手を当てて考える。みんなで仮装してワイワイやるのは楽しそうだけどな。
「センセイ! なんかアイデアない?」
「俺~!? 急に振るなよ」
俺は外森や生徒を見る。こいつらがコンセプトカフェを開くなら……。
「……モンスターカフェとかは?」
「っ!」
外森と乾がこちらを見た。ヴァンパイアと狼女がいるからって、安直だっただろうか。ふたりは俺を見て、手を叩いた。
「いいじゃん、それ」
意外と当事者である外森と乾は嬉しそうだ。まぁ、本人たちは自分らがモンスターであると隠しているわけではないらしいんだがな。
「それってボクらが主役じゃん!」
むしろ乾ははしゃいでいる。また外森は多数決を取った。すると、モンスターカフェは大多数の生徒が賛成した。
……まぁ、色々アイデアを出す手間もあったからな。俺は生徒たちを見た。乾と外森がモンスターなのは知っているけど、もしかして他にもうちのクラスにモンスターがいたりして。いやいや、それは言いがかりか。
「じゃ、出し物はモンスターカフェで決定ってことで」
外森が仕切ると、秋雨がたずねた。
「モンスターカフェも、仮装したりするんだよね」
「うん。それはメイド喫茶とかと同じ、コンセプトカフェだね」
「服とか衣装も作らないといけないじゃん?」
秋雨が言うと、クラスの生徒はまたうめく。モンスターカフェの衣装も作るなり買うなりしなくてはいけないのか。
「買ってもいいけど、それじゃイメクラみたいじゃない?」
「イメクラって?」
秋雨に乾がたずねる。……こいつ、純粋だな。秋雨も答えに窮す。
「え、えっと……つまり、コスプレしたお姉さんのお店だよ」
「ふぅん」
適当に答えると、乾は納得してくれたようだ。
「じゃ、コスチュームは手作りってことね。夏休み中に作るってことで」
外森が告げると、生徒たちは「は~い」と返事した。
「だけど、手芸部でもないのに、衣装とか作れるかな……」
生徒がぼやく。衣装を作るなら、布も買ってこないといけないし、デザインも考えないといけない。なかなかに手間だ。
「ってか、うちのクラス、手芸部いる? 手伝ってもらおうよ」
クラスの女子が放言した。確かに手芸部の生徒がいたら、鬼に金棒だな。えーっと、うちのクラスの手芸部は、確か……。
「宇月じゃん」
外森が気づくと、秋雨が照れくさそうな笑みを浮かべる。が、秋雨に仕事が集中しないだろうか。心配すると、本人が言った。
「衣装のデザインを考えるだけじゃなくて、服を作るまでするとなると、人手が足りないかも……」
「じゃ、トップダウンする形で、縫製するか係も作ろう」
外森が言うと、乾が手を挙げた。
「宇月だけじゃ手が足りないなら、ボクも手伝うよ」
乾だけではなく、何人かが服作りの手伝いに手を挙げた。
何だかんだ言ってはいるが、文化祭へ向けてしっかりと動いている様子を見て、俺はふぅと、安堵のため息を落とした。




