6-4 盆踊り
公園のベンチを立つと、俺たちはどこに行こうか迷った。先ほど俺はご飯ものやかき氷を食べたし、生徒たちも屋台料理に舌鼓を打っていた。
「先生、何かごちそうしてよ~」
乾が俺の腕を叩く。外森も俺の反対側の腕を自分の腕と絡める。両手に花だが、この姿を他の生徒や教師に見られたら、ちょっとまずい。
見ていた秋雨が、後ろから俺の肩に手を置いた。
「先生、鼻の下伸びてましたけど」
「なんでがきんちょにデレデレすると思うんだ?」
「だって……」
「ま、乾と外森は逆にセクハラになるから気をつけろよ? しかもお前らはモンスターだから月夜に弱いだろ?」
「弱いって言うか、テンション上がっちゃうんだよね」
乾はようやく俺の腕を放す。それを見た外森も渋々離れた。
「でも、ナンパを自力で追っ払ったことに敬意を表して、わたしたちに何かごちそうしてくれてもいいと思うんだけど」
外森が無理強いする。確かに俺がいたのにナンパされて、絡まれた。俺ひとりで追い出せなかった。それは悪いと思うけど……はぁ、また集られるのか、俺は。
「あ~っ、わかったよ。何食いたいんだ?」
頭をわしゃわしゃかくと、3人に何が食べたいかたずねる。一斉にせーので何を食べたいか答えた。
「かき氷」
「クレープ!」
「林檎飴かな」
3人バラバラ。こいつら仲はいいけど、協調性はないのか? だが、俺は仕方なく3人にひとり500円渡した。
「お釣りは返してくれよ」
「はぁい!」
……元気だけはいいんだけどな。俺は結局またベンチへと戻る。食い物買ったら食べるところがないからな。
先に食事を終わらせていた俺は、持っていたガムを口に入れた。腕時計を眺めて十分後。
「センセイ! 買ってきた~!」
外森が手を振る。他のふたりも一緒だ。3人はデザートを持ってくると、ベンチに座る。俺は立ち上がると、屋台のある大通りのほうを見た。なんだかわいわいと賑やかだ。
「何かやるのか?」
「あっ、なんだか法被を着ていた人たちがいて、盆踊りをするみたいですよ」
秋雨に説明を受ける。……盆踊りか。夏らしくていいな。
「食べ終わったら見に行こうよ!」
ようやく狼女から元の人間の姿に戻った乾が、俺たちを誘う。悪くない。
「なんか、飛び入りもいいみたいだったよ?」
秋雨が言うと、外森が手をパンッと叩いた。
「わたしたちも出ようよ! 夏休みの思い出ってことで!」
林檎飴を持った外森が意外にも乗り気だ。夏の暑さに負けずに元気なのはいいが、やはりこれも夜行性故になのだろうか。クレープの生クリームが口の端に付いた乾が、ペロリと舌舐めずりする。秋雨もシャクシャクとかき氷を食べる。シロップは、ブルーハワイだ。
「じゃ、俺はカメラマンでもすっか」
「踊りたくないんですか? ノリ悪いなぁ」
外森に文句を言われるが、どちらにせよ夏休みの思い出なら、写真に残したいとは思うだろう。外森から俺を庇ってくれたのは、秋雨だった。
「踊ってるところの写真なんて、絶対あとで見返したら嬉しいやつでしょ。いいじゃん、カメラ」
「先生、かわいく撮ってよ~?」
乾も俺にちょんちょんと肘鉄する。
「任せとけ!」
胸をドンと叩くが、写真なんて素人なんだよなーー……。適当でも、被写体である生徒が写っていればいいだろう。
デザートを食べた3人と一緒に、盆踊りの列に加わる。ここからデパートのほうまでが通行止めで、歩行者天国になっている。
3人は横一列に並ぶと、さっそく見様見真似で踊り出す。動きがワンテンポ遅れているのがおかしくて、スマホを構えながらつい笑ってしまう。
「ちょっと先生! 笑わないでよ!」
乾が列から大声を上げる。その声を聞いた秋雨と外森が赤面する。……ナイス。俺はふたりの笑顔をスマホに収める。うん、いい写真だ。
「次は3人の揃った写真がほしいな」
ブツブツ言いながらカメラを向ける。すると背中に通行人がぶつかった。
「あっ、すみません! って……主任!」
「おお、波久礼先生。それは……」
「あっ、えっと、生徒の写真を撮っていて」
「ははっ、仲良くていいですね。だけど、18時半以降になる前に家に返してあげてください」
「はい」
挨拶すると、主任は手を軽く挙げてその場をあとにする。
「波久礼先生?」
「おっとすまない」
また踊っている生徒たちに向き合って写真撮影を再度始める。通行止めが終わると、盆踊り参加者は左右の歩行者通行路に別れる。生徒たちもはけて、俺のいるところに集まった。
「……センセイ、うまく撮れてる?」
「おう、まだ見返してないが、なかなかだと思う」
「見せて見せて!」
「のわっ、飛びつくな! 今スマホに送るから!」
俺は撮った写真をセレクトすると、3人のスマホに送る。
「わっ、よく撮れてるね」
「これ、文字とか描くことってできるよね?」
「インストに載せようっと」
よかった。3人は喜んでくれたようだ。
「……あれ、ちょっと待って。この写真……何?」
外森が何かに気がつく。それは外森と秋雨のツーショットだったのだが、秋雨の姿がぼやけている。しかももやもやとした霧のようなものが写っていた。
「え、何これ。もしかして、心霊写真とか?」
「……は?」
秋雨ではなく、俺がぽかんと口を開ける。いやいや、普通写真に写らなかったりするのは、せいぜいヴァンパイアである外森のほうじゃないか? それなのに、当の本人は人間に擬態しているからかしっかり写っているのに、秋雨が消えてるって……。
「……私、写真映り悪かったみたい。なんか気を遣わせたらごめん」
「大丈夫だよ、宇月。先生の腕が悪かっただけでしょ!」
乾は秋雨の背中をぽんっと叩く。ここは俺が頭を下げとけば丸く収まるだろう。
「秋雨、こっちの3人の写真はよく撮れてるぞ?」
「本当だ。私ら、ノリノリで踊ってるじゃん!」
外森も気を遣ってくれたのか優しく声をかける。
「……だけど、ボクらの写真は撮ってもらったけど、先生とは撮ってないよね」
「俺ぇ!? 俺はいいよ、カメラマンで」
「いやいや、そうはいかないでしょ。待ってて、人捕まえる!」
外森が適当に歩行者に声をかけ、スマホを渡す。
「はい、写真ね。行きますよ、チーズ!」
カシャッ。
俺たちは通行人にお礼を言う。写真を見ると、なかなか俺もいい笑顔だ。
こうして生徒と祭りに参加できて、なかなかよかったかもな。俺は送ってもらった画像を眺めながらそう思った。




