6-2 合流
『今、屋台の前にいます』
そう返事が来ると、俺は焼きそばとたこ焼きをかっ食らった。屋台の前ということは、この辺だろうからな。食べたら一応、3人の様子を見るか。俺もメッセージを送る。
『今、俺も屋台の前にいる』
メッセージを送ると、返信を待つ。3人も屋台料理を楽しんでいるのだろうか? 俺は食べ終えると、辺りを見回した。それっぽい3人の女子……じろりと見ると、浴衣の女の子たちとすれ違う。
『お前らは浴衣なのか?』
『私服だけど、Tシャツとパンツだよ。何? 先生、私たちの浴衣姿を狙ってたの?』
『いや、聞いただけだよ』
秋雨のメッセージは軽かった。だが、制服から着替えてきた様子だ。制服なら目立つが、私服だと3人を探すのは難儀かもしれん。俺はそれでも彼女たちを探す。それ以外にも、うちの学校の生徒がいないか要チェックだ。主任に千円もらって頼まれたからな。
辺りをキョロキョロするが、生徒らしき影はない。見回しているとーー見覚えのある後ろ姿があった。秋雨たちだ。
「あ、おい。秋雨……?」
声をかけると振り返る。予想通り、秋雨たちだった。
「先生! まさか会えるとはね」
秋雨が嬉しそうに笑顔になる。一緒にいた乾と外森も喜ぶ。
「ナイスタイミング! センセイ、林檎飴買って~!」
そうなると思っていた。学生たちに声をかけたら集られるだろうと。俺ははっきりノーと答えた。
「自分の小遣いで買えよ。俺は今日も学生たちの補導をしに来たんだから」
「けち」
「何とでも言え」
乾がぶうたれるが、毎回生徒にごちそうしていたら財布が持たない。
「……そう言えば、今日は真田先生と深雲ちゃんいないね?」
「学校に来ていたのは俺だけだったからな。声をかけられたのはひとりだったんだよ」
しかし、いくら教師でも、何かと小間使いさせられるよな。今日は千円もらったからただ働きではないけども。
「私、かき氷買ってこようかな」
秋雨がいうと、外森と乾もうなづく。
「林檎飴じゃなくていいのか?」
乾が外森にたずねると、こくんと首を振った。
「暑いからさ。林檎飴も食べたいけど、まずは体を冷やしてからがいいかなと」
今夜も外は暑い。かき氷を食べて涼みたい気持ちはわかる。
「先生は何を食べていたんですか?」
秋雨に聞かれると、俺はちらりと空になった焼きそばとたこ焼きのタッパーを見た。
「俺は粉ものだな」
「ご飯系か……」
「お前らは夕飯食ったのか?」
聞いてみると、秋雨は否定した。
「私たちはまだ食べてないよ」
「屋台で済ます?」
乾がふたりに問い掛ける。お祭りならではの屋台メシでも腹は膨れるからな。
「駅前のデパートのレストラン街で食べたらいいかなと思ったんだけどね」
外森が言うと、乾はあごに手を当てた。
「まだお祭り満喫してないし、屋台でご飯食べない?」
「まぁ……」
外森も納得したようだ。俺たちは空になったタッパーを持って、ゴミ捨て場を探す。
屋台料理は様々あって、俺が食べた粉もの以外にも、牛串やとん平焼き、お好み焼きなどもある。そこから何か選ぶのは、なかなか迷ってしまうようだ。
「令来と宇月は何食べたい?」
乾が聞くと、外森が提案した。
「みんな別々なものを買って、シェアするのはどう?」
「そうだね。そのほうが色々食べられるもんね」
「じゃあ、何食べる?」
分けられそうな屋台飯を物色する。俺も食べたが、たこ焼きなら3人で分けられるな。あと、牛串も串を抜いたら食べられる。それとお好み焼きも、切り分ければいい。3品選ぶと、元にいた場所に戻ってきた。
「さ、買って来たよ!」
「たこ焼きはひとりふたつね」
「まだ箸使ってないから、お好み焼き切るね」
俺が座っていたベンチだが、3人に席を譲る。俺は食事が終わったので、さっき3人が言っていたかき氷が食べたくなった。立ち上がると、3人に言った。
「俺、かき氷買ってくるわ。お前らが騒いでたから食べたくなった」
「私たちはここで待っていますね」
「おう」
女子たちと別れた俺は、かき氷屋台へ近づく。しかし、3人とお祭りまで一緒に過ごすことになるとは……。まぁ、補導されるようなことをしていないのが唯一の救いか。
「はい、いらっしゃい」
「かき氷、ひとつ」
「はいよ」
氷を削ってもらうと、お金を払う。シロップは好きなものを好きなだけかけていいらしい。俺はコーラとメロンのシロップをかけた。スプーンですくって口に入れると、冷たさが広がる。夏の暑さに合ってうまい。
かき氷を持つと、3人のいるベンチへと戻る。3人は大人しくメシを食っているだろうか。
「おーい、戻った……」
声をかけようとしたときだった。ーー3人、絡まれてるな!? ったく、これだから夏の祭りは……。同じ人数の男子高校生らしき若者が、3人に絡んでいる。どうするーー? 教師として、ここは止めに入るべきだろう。
俺は男子高校生たちの前に立ちはだかった。
「ーー君たち。女子に何の用だ?」
「なんだてめえ。用も何も、一緒に祭りを楽しもうと言っているだけだ」
「そういうお前はなんだよ」
俺が3人を庇って前に出ると、男子高生たちがイキがる。だけど、俺は腕っぷしに自信がある訳でもない。3対1だと多勢に無勢だ。どうしようか。
「先生……」
秋雨が俺を見つめる。ここで戦っても、俺がボコボコにされるだけだ。
男子高生は俺を指さして笑った。
「こいつ、先公だと? そのセンセイが、生徒を庇ってるのか。たいそうなこった」
「センセ~イ、俺たちお金がないんだよね。ちょっと奢ってよ~」
男子に肩を抱かれて絡まれるが、金がないのは俺も一緒だ。きっぱりと俺は告げた。
「カツアゲされる金はない」
「おーおーセンセイ、生徒の前でいい格好見せたいんだろ?」
「金がないなら、女子がデートしてくれてもいいんだぞ?」
「……君たちはどこの高校だ? 学生証を出せ」
「出せって言われてほいほい出すバカはいないっしょ?」
男子たちは俺を取り囲む。参ったな……どうするか。ちらりとうちの生徒を見やる。秋雨は少し怯えているみたいだ。俺は視線を送ると、秋雨に言った。
「ビビってんじゃねえよ。女子だからって舐められてたまるか」
「先生……」
秋雨は俺を見て、小さくうなづいた。




