5-4 花火と狼女
6人で遊園地を堪能して、夕方。今日はうちのクラスの3人だけでなく、真田先生の2-Bの生徒も来ているらしいとは聞いていた。だが、よく考えたら俺たち教師と一緒に遊ぼうと声をかけた秋雨は正解だ。なんと言っても保護者代わりになるからな。
念のため、俺たちは3人に親御さんはなんと言っていたかを聞いた。
「うちは放任主義なんで……」
秋雨は頭をかく。乾と外森は、俺に聞かれて笑った。
「ボクも令来も夜行性なのは、先生も知ってるでしょ?」
「あぁ……」
狼女にヴァンパイアだもんな。っていうか、こいつらに親はいるのか? クラスの担任なのに、全然親御さんのことを知らないがーー。俺がうーんとうめいていると、外森が笑った。
「わたしたち、親はいるよ。もちろん人外だけど。名簿にあるでしょ?」
確かにこいつらは家も保護者もあるな。あるから学校に通えているわけだし。
「だけどお前らもさっさと帰れよ?」
俺が言うと、3人は時計を見る。
「花火が終わったら帰りますよ」
秋雨が代表して帰宅時間を告げる。花火は19時だったか? まぁ許容範囲だろう。
遊び疲れたから、俺たちはパレードが通る道で花火を楽しみに陣取っていた。キッチンカーで軽食を買ってきて、それを食べながらパレードや花火を待つ。太陽が落ちて暗くなってくると、園内放送がした。
『レディースアンドジェントルマン! ボーイズアンドガールズ! ただいまより夏の夜を彩るパレードが始まるよ!』
……ようやくか。結構熱中症気味なのか、疲れてへとへとだ。真田先生は、スマホをいじり始める。何をしているかをたずねると、画面を見せてくれた。
「ほら、生徒たちにメッセージを送ってるんですよ。もうそろそろ帰れって」
「ID交換してるんですか?」
「はい。手っ取り早いんで」
「あーっ、先生! ボクたちとはアドレス交換してくれてないのに!」
「……言ってくれたら教えるのに」
乾と秋雨が抗議するが、俺は生徒とID交換する気はない。プライベートまでごっちゃにはしたくないのだ。それに何度も言うが、俺は男だし、保護者にも変な想像をされたくないからな。
「真田先生、気をつけてくださいね?」
白石先生が笑顔で釘を刺す。すると派手な音楽が流れてくる。いよいよ夜のパレードだ。メッセージを送った真田先生は、俺の耳元でささやく。
「絶対今日みたいな日はビールがうまいっすよね」
「園内はアルコール禁止だぞ?」
「……生徒たちが帰ったら。ね?」
「真田先生、今日は車でしょう?」
白石先生がにこにこしながら注意する。きれいな人がキレると怖いと言うが、その通りみたいだ。
音楽に合わせてキャラクターが乗ったカートが、目の前をゆっくりと走って行く。秋雨、乾、外森は、無言で目をキラキラさせている。生徒たちが喜んでいるのを見るのは、教師として嬉しいものだ。
カートが通り過ぎると、今度はいよいよ花火だ。俺たちは中央の城の真ん前に立つ。
ーードォーン! 花火が打ち上がると、歓声が聞こえる。
「きれいだな……って、乾!?」
「あおーんっ!」
やばい。乾のやつ、狼女の本能ってやつか? 耳と尻尾はもちろんだが、花火の横に出ている満月を見たのかーー!
「あおーん! わんっ、わんっ!」
完全に狼女の血が騒いでるな、これ。俺は乾の顔を見ると、犬みたいになっていた。これは秋雨にバレたらまずい。
「ちょっと、乾を落ち着かせて来ます!」
俺は真田先生に告げると、乾の腕を掴んで人気のないゲートまで向かう。
「わんっ、わんっ!」
「落ち着け、乾!」
俺はそう言って、乾の目を手で隠す。そしてしばらくして落ち着いたら、そっと離した。
「……ん? 波久礼先生? みんなは……」
「やっと我に返ったか」
ふぅ、とため息をつく。俺は髪をかきあげた。夏だから暑いのだが、それ以外にも嫌な汗をかいちまった。
「お前、満月を見ると変身しちまうんだな。狼女なら気をつけなさい」
「……ごめん、先生。迷惑かけちゃって」
「いや、俺がいてよかった。帰るまで満月は見ないようにな?」
俺は真田先生にメッセージを送ると、乾とともに城の前に戻る。
「葉桜、どうしたの?」
「い、いやぁ、トイレに……」
「えっ、波久礼先生も?」
「俺は『気分が悪くなった』乾を落ち着かせていただけだ」
狼女になった乾をなだめていたとは言えないが、もし気分が悪くなった生徒に付き合っていただけで変な噂を立てられたら、マジで面倒くさいんだな。
「ともかく、花火も見られたし、そろそろ帰るぞ。お前たちは電車だろ? 気をつけてな」
「先生たち、また車なの? いいよなぁ、大人は」
何とでも言え。だが、真田先生には駐車料金くらい払わないとな。
「だけど、夜はこれからなのに、家に帰れだなんて……」
「お前らは未成年で学生だからな」
「……センセイは、わたしたちが本当に10代だと思ってるの?」
「っ!」
俺は外森のその話に一瞬たじろいだ。見た目は10代だけど、乾と外森はモンスターだ。見た目と年齢が合致していなかったりするのだろうか……? ヴァンパイアや狼女が10代……確かにもっと歳は行っているかもしれないが、学校に来ているのは『10代の外森と乾』だからな。それは変わらないはずだ。
「冗談だよ。じゃ、また登校日にね!」
外森たちは手を振って改札を抜けていく。まぁ、これで一応ひと段落だ。俺たち教師は、生徒を駅の改札まで送ると、駐車場へ向かった。
「……ふう、今日も疲れましたね」
「夏の日射し、きつかったですねぇ」
そういう白石先生をチラリと見る。白石先生はミイラなわけだけど、暑いとやっぱり問題なのだろうか。ミイラは、つまるところ死体だ。夏場、匂いとかあるかと思うが、そんなものはなさそうだ。
「白石先生、汗をかいたりしないんですか?」
「モンハラですよ! 波久礼先生」
「モンハラ?」
「『モンスターハラスメント』!」
「うっ……」
「あれ? 真田先生、私の正体知ってたんですか?」
白石先生が運転している真田先生にたずねる。真田先生は前から白石先生がミイラだと察していた様子なのだが、やはりそれはーー
「モンスターじゃないのは俺だけなのか?」
俺はつい、つぶやいた。




