5-3 デート?
「しかし、生徒にバレてしまったとは。まだ昼間なんだがな……」
俺がぼやくと白石先生が手を合わせた。
「すみません、つい気づかれちゃって……」
「ってか、波久礼先生、ボクたちと同じ日に補導の見回りするって言ってたじゃん」
「まあな」
「……先生たちも3人で来たんですか?」
「ああ」
俺が返事すると、秋雨がふいとそっぽを向く。
「いいな、白石先生。学生じゃなくて大人だったら……波久礼先生とデートできるのに」
「……」
そんな秋雨の声は、聞こえなかった振りをする。あくまでも俺は教師で、秋雨は生徒なのだから。
真田先生が持っていたチュロスを白石先生に渡すと、笑顔を見せてくれた。俺も白石先生も教師だが、それは同じ仕事をしているという同志だというだけだ。恋愛感情はないのだが、どうしたら生徒はわかってくれるのだろうか。
「……波久礼先生、ポップコーンどうぞ。ガーリックペッパーだそうですよ」
「あ、あぁ、ありがとうございます」
「……だから、そういうところでしょ」
俺たちの様子を見ていた真田先生が、ぽろっとこぼす。ポップコーンを勧められただけでいちいち変な疑いをかけられるとは、正直きついものがある。それでも俺は、ポップコーンをもらう。やましいことがないからだ。
ガーリックペッパーのポップコーンは、夏に不足しがちの塩分の補給にもなり、体にも悪くはないだろう。
「真田先生は、食べないんですか?」
「……いただきます」
俺ひとりだと誤解されるなら、真田先生も巻き添えだ。……なんて言うと申し訳ないが、白石先生は『俺たちに』買ってきてくれたんだ。俺だけじゃない。
ポップコーンを食べながら、真田先生は俺に話しかける。
「どうするんですか? 生徒にバレちゃいましたけど」
そう言うと、秋雨が手を挙げた。
「はいっ! 私、先生と一緒に遊びたいです!」
「えぇっ、宇月、本当に?」
外森が口を尖らす。すると秋雨は続けた。
「私ら3人で回ってきたけど、アトラクションってふたり一組じゃない? するとひとり余っちゃうじゃん」
「あー……確かに言われてみたら」
乾が人数を確認して、納得したような表情を浮かべる。
「先生たちも3人。合わせて6人で回れば、ひとり余らなくて済むでしょ」
「なるほどね」
真田先生もふむふむとうなづく。仲間はずれを作らないためーーそう言われたら、教師としても強く否定できない。
「ねっ、いいでしょ? お願い~!」
秋雨は乾にすがりついておねだりする。やれやれと見ていると、乾が俺に言った。
「波久礼先生、宇月のわがまま、聞いてもらえますか?」
「……しゃーねえな。わかったよ」
「やった! じゃ、次のアトラクション、行こう!」
まったく。今までごねていた秋雨だが、変わり身が早い。先頭を切って歩き始める。
「次、何乗ります?」
白石先生が聞くと、秋雨が答えた。
「ゴーストライドはどうですか?」
「いいねぇ! 暑いからお化けを見て涼もうってことか」
真田先生も乗り気だ。
「ゴーストライドはふたり乗りでしたっけ。2人組に分かれますか」
そう言って、グーチョキパーで分かれることになった。
「グーチョキパー! ……ん」
「……おっ! 僕は波久礼先生とかな?」
「えーっ! そんなぁ……」
秋雨ががっくりしていると、白石先生が声をかける。
「秋雨さん、ペアだね。よろしくね?」
「はぁ……」
「それで? 乾は外森とか」
「つまんなーい。波久礼先生が女子とペア組んだら、からかおうと思ったのにー!」
「そうは問屋が卸さねえよ……」
女子と組んでも何か言われるなら、真田先生で妥協する。だが、その真田先生はサキュバスなんだよなぁ……。ゴーストライドで襲われたりしないだろうか? 少し気をつけながら、乗り物に乗る。
「先生、段差がありますよ。お手をどうぞ」
「……あぁ、ありがとな」
微妙にエスコートされて、ゴーストライドに乗り込む。俺たち男子ペア、乾、外森ペア、白石先生と秋雨の順で乗り込む。
ゴーストライドは、乗り物に乗って進むお化け屋敷だ。確かに真田先生が言う通り、お化け屋敷で涼むというのはアリだ。室内のアトラクションなので、クーラーも効いているのがありがたい。
「……」
俺と真田先生は、無言のままだ。特に怖いとかそう言う感想はないのだが、真田先生とふたりきりでも話すことがないのだ。
「……先生」
「なんだ?」
真田先生から声をかけられる。普通に返事をしたところ、体を固定するバーに置いていた手に、手を重ねられた。
「……マジで波久礼先生、いい香りしますね」
「盛るなよ、サキュバス」
「僕、いつも波久礼先生を見るたび、おいしそうだなと思っていて……」
そんな同性からの告白、いらん。もしこれが生徒や白石先生でも困るがな。
「食うなよ?」
「ちょっと精気を吸うだけなんで。……いいでしょ?」
ったく。真田先生から言い寄られたのは2回目だ。これが女性だとしても困るが、男性でしかもサキュバスとなると、ほいほい簡単に体を許すことなんてできない。
重ねられていた手を離してもらうが、今度はあごに添えられる。……だから、正直男同士でラブシーンがあってたまるか。
「真田先生、もう少しで出口ですよ?」
「唇だけでも……ダメ?」
「ダメに決まってるだろ。せめて女性になってから出直してくれ」
「……っ! 本当に波久礼先生は……」
「嫌になっただろ?」
「全☆然。むしろ燃える」
……厄介なやつに目を付けられたな。俺たちが乗り物から降りると、乾と外森、秋雨と白石先生を待つ。
「はーっ、楽しかったあ!」
「乾、また尻尾……」
「んっ! 先生、ありがとう」
注意して、降りてくる人数を確認してしまうところは、やはり教職員魂なのだろう。降りてくると、秋雨が口火を切った。
「もう1回! もう1回乗らない? 私、波久礼先生と乗りたい!」
「……グイグイ来るな、秋雨」
俺が呆れていると、白石先生がくすくす笑う。
「秋雨さん、私に波久礼先生を取られないか不安みたいで。ゴーストライドに乗っているとき、ずっと先生のかっこいい話をしてたんですよ」
「っ! み、深雲ちゃん! 言わないでよ」
白石先生にバラされた秋雨が、ぽかぽかと殴る。しかし、平和だな……。乗り場から降りると、また夏の日射しを浴びる。生徒や教師たちと親睦を深めるーー今日遊園地に来たのは悪くなかったなと、俺はふと思った。




