5-2 迷子
エントランスを通過すると、俺たち教師陣は遊園地の中に入った。
「これからどうします? まだオープンしたばかりだから、補導しなくてもいいですよね」
「どっかでメシでも食ってます?」
「あっ、あそこにいるの、うちの生徒じゃないですか?」
メシのことを考えていたが、白石先生の指さした方向には、秋雨、乾、外森がいた。
「マジかよ、うちのクラスの3人だ」
開場したばかりで生徒を見つけるとは。白石先生は俺に聞いた。
「どうします? 尾行しますか?」
「うーん……そうだな。秋雨たちをつけていたら、他の生徒も見つかるかもしれない。また補導の時間には早いけどな」
「生徒に気づかれないように尾行しましょう。僕たちがいるってわかったら、また集られるかもしれないじゃないですか」
「確かに……」
ここの遊園地に遊びに来るような高校生だが、入園料もパスポートも高い。金は持ってきていると思うが、何か奢ってとか言われたら面倒くさいからな。
「ふふっ、尾行なんて、探偵みたい」
白石先生は乗り気だ。俺たちは秋雨たちを追うことにする。まず向かった先は、お土産屋さんだった。
「……何買うんですかね?」
真田先生が棚に隠れて学生を見張る。俺たちもお土産を物色している風を装う。
「あっ、カチューシャじゃないですか? 私も買っちゃおうかな」
白石先生は行楽気分だ。
生徒たちは、遊園地マスコットキャラクターの耳がついたカチューシャを購入する。白石先生も別のレジで清算してもらう。
「先生たちも! ほら、選んで!」
「ええっ!? 俺たちも?」
「まあまあ、ここは楽しんだもの勝ちですよ、波久礼先生。僕は帽子がついているやつにしようかなぁ」
20代後半の男たちが、マスコットのカチューシャとは。購入して、頭に付けると白石先生が手を叩いて喜んだ。
「おふたりとも、かわいい! 似合ってますよ」
「……大の大人がこんなカチューシャなんて」
俺がぼやくと真田先生は笑った。
「波久礼先生、褒められたんだから素直に受け取っておきましょうよ」
「むっ……」
「あっ、おふたりとも。生徒もカチューシャ買って、お店から出ようとしてますよ」
「はいはい、尾行継続ね。行くか」
俺たちはこっそり学生をつける。秋雨はリボンのついたカチューシャ、乾は狼女だから親近感があるのか犬耳。外森はプリンセスのティアラをつけて、遊園地に繰り出す。
最初に向かった先は、海賊船だ。
「あっちい……。夏だから、パーク内を歩いているだけでバテそうだな」
俺はぼやくと、白石先生を見た。
「……包帯、暑くないっすか?」
俺の質問に、白石先生は苦笑いする。
「暑いですけど、取れないんです」
「波久礼先生、センシティブ案件ですよ!」
「あ、あぁ、失礼しました」
真田先生にいさめられたが、気になってしまったものはしょうがない。だけど、ハイキングを渋ったヴァンパイア外森、何だかんだで今日の遊園地は自分から来てるよな。やっぱり友達がいなかったから嫌がっていただけなのか? ……ま、今は秋雨と乾と仲良くしてるからいいことだが。
列が進んで、奥へと進む。このアトラクションは室内だから、クーラーが効いていてありがたい。だけど、外を歩いていただけですごい汗。俺はタオルハンカチで首筋を拭く。
「いやぁ、暑っちい……」
「っ! ……波久礼先生、僕に見せつけてます?」
「え?」
「その首筋、反則です」
「お、おぅ……」
真田先生、危険だ。ただ汗を拭いているだけでそんな目で見られたら困る。俺は変に意識しないように、ペットボトルのスポーツドリンクに口を付けた。その様子にもごくりと喉を鳴らす、真田先生。まったく、参ってしまう。
学生3人に視線をやると、わいわい騒ぎながら前へと進んでいく。アトラクションの乗り場に着くと、俺たちも船に乗った。
ーーアトラクション自体は素晴らしいものだった。ジェットコースターみたいに船は進んだ。乗り物に乗っている間はあっという間だった。
「……ふぅ、涼んだ涼んだ。楽しかったですね!」
真田先生がはしゃぐと、俺もうなづく。また外に出ると楽しい灼熱地獄だ。
「あ、真田先生、何か食べます? チュロスがあるみたいですけど」
「お、いいですね。ポップコーンの車もある。白石先生もどうですか?」
真田先生がたずねると、白石先生は楽しげに笑った。
「じゃ、私はポップコーンを買ってきますよ」
「俺たちはチュロスと飲み物を」
そう言って、俺たちは二手に分かれる。俺と真田先生は両手にチュロスと飲み物を買って受け取る。しばらく先ほど分かれたところにいて待っていたが、白石先生が戻ってこない。
「あれ? どうしたんですかね?」
「待ち合わせ、ここでいいんですよね?」
俺と真田先生は顔を見合わせり。もしかしてーー
「迷子ですか!? いや、波久礼先生、どうします!?」
俺は頭をかく。生徒の監視ということで教師が来ていることは内緒にしたいのだが、まさか教師が迷子になるなんてーー。
「どうするかな。ここの遊園地、迷子放送しないって有名なんだよ……」
「じゃあ、僕らが探さないとダメってことですよね」
「とりあえず、ポップコーン売場をまず見てきましょうよ」
俺と真田先生は、ポップコーンのキッチンカーへと向かう。列になってはいたが、白石先生の姿はなかった。
「ここにいないってことは……そうだ、電話してみましょうか」
「あぁ、そうだな」
真田先生がスマホを取り出して電話する。しばらく待っていたが、電話が通じない。
「メッセージ、残しておきましょうよか」
そう言って、スマホに打ち込むと、あとはここの待ち合わせ場所に来てもらうのを待つだけだ。
俺と真田先生は、待っている間にチュロスを口にする。シナモンが効いていてうまいのだが、白石先生はまだ来ない。
「メッセージ、気づきますかね?」
「気づくさ。子どもじゃないんだから」
俺がつぶやく。そしたらそのとき明るい声が辺りに響いた。
「あーっ! いたいた! 波久礼先生と真田先生だ!」
その声の主は、乾と秋雨、外森だった。3人の生徒の後ろにいたのは白石先生だ。
「すみません、波久礼先生。生徒に見つかっちゃった」
テヘペロと笑う白石先生。生徒が一緒なら迷子になったことを注意できない。俺たち教師陣は不本意ながら、学生たちと一緒に遊園地を楽しむことになった。




