5-1 休み
試験が何とか終わり、休み前。そろそろ夏休みも近い。俺たち教師は、主任に呼び出されていた。
「ーー夏休みの補導、ですか?」
「ああ。遊園地とか行楽地に学生だけで行くという話が出ていてね。君たちに注意してもらいたくて」
「はぁ」
俺は軽くため息をつく。これって休み返上で遊園地に行って監視するってことか? やってられん。俺は腕を組んだ。
「そんなの、生徒の自主性に任せるしかないのでは?」
「まあまあ、遊園地の費用は学校から出す。君たちもリフレッシュしてくればいい」
「……でも、補導が目的なんですよね?」
真田先生もはっきり苦言を呈する。ただ遊園地で遊んでこいって訳じゃないからな。
「でも楽しそうですよ?」
「ははっ、白石先生は素直だな。ともかく補導、頼むよ」
俺たちに仕事を押し付けると、主任はその場を去った。
「……でさ、夏休みの遊園地なんだけど」
ロングホームルームが終わって教壇でプリントを確認していると、乾の声が聞こえた。遊園地だと? 主任が行っていたのは、こいつらか。確かにうちのクラスの3人は要注意だからな。
乾は秋雨と外森に、遊園地のパンフレットを見せる。
「ファストパスとか色々あるから、行き慣れてなければなかなか大変だけどね」
「最初にパレードの優先券を取る?」
「それより乗り物でしょ」
3人が楽しそうにはしゃいでいるところ、俺も加わろうとした。
「お前ら、夏休みのいつに行くんだ?」
「来週だけど」
乾が質問に解答する。夏休みだな。
「……俺たち教師も夏休みの補導として行くからな」
「えっ!? マジで!?」
「夏休みもセンセイと一緒~!? 勘弁してよ……」
「俺だって仕事だ」
学級日誌をパラパラと見ながら、外森の文句を受け流す。そんな中、秋雨だけは違った。
「先生も一緒だったら楽しそうじゃない?」
「宇月くらいだよ、そんなこと言うの」
文句を言う外森と対照的にのほほんとしている秋雨。でもそれなら最初から同行したほうがいいのか。
「お前らの自主性に任せたいところだけど、少し心配だからな」
「先生も一緒に行きましょうよ」
秋雨の呼びかけに、俺は少し考えてからうなづく。
「……まぁ、他の先生とも相談だけどな」
そう言うと、俺は学級日誌と名簿をトントンと重ね、職員室へ戻った。
「ーー波久礼先生のクラスも、あそこの遊園地に行く生徒、いるんですか?」
「2-Bもですか? やっぱり夏休みですからね」
真田先生がプリントの丸つけをしながらつぶやく。
「うちの生徒は、一緒に行けばいいって。のんきなもんですよ」
「それだけ波久礼先生が好かれているってことですよ。僕、妬いちゃうなぁ」
真田先生が軽口を叩いていると、白石先生も会話に混ざってきた。
「秋雨さんたちはいつ行くって言ってたんですか?」
「来週だって。俺たちもその日に行きます?」
「そうですね。学生に門限守らせないと行けませんから」
俺たち教師陣も来週遊園地に行くことを決定すると、白石先生がパソコンで遊園地のホームページを見る。目を輝かせるのを見て、俺は少し白石先生がキュートに見える。
「乗り物も乗りたいですけど、遊園地のご飯が楽しみで」
「あ、うまそうに見えますもんね」
俺がそう言うと、真田先生がちらりと俺を見てつぶやいた。
「ーーもっとおいしそうなのが、僕の目の前にあるんですけどね」
「え? もっとおいしそうなもの?」
白石先生が聞くと、真田先生は指を拳銃にして、俺を「バーンっ!」と撃った。それを見た俺は、背筋がぞわぞわした。
「と、ともかく! 来週に遊園地ですから。あと真田先生は自重しろ」
「ちぇっ、本音なのになぁ」
男のサキュバスに狙われるなんてごめんだ。まだ女だったらマシだったものを……。俺はともかく遊園地の日程を決めると、プリントを重ねて帰宅することにした。
ーーそして夏休みが始まり、俺たち教師陣は、本日車で遊園地まで行くことにしていた。
学校の正門で待ち合わせると、真田先生と白石先生はもう来ていた。今日も運転は真田先生だ。
「おはようございます。今日はよろしく」
挨拶すると、助手席に乗り込む。白石先生は後部座席だ。
「……ここから車だと、2時間と言ったところですね」
ナビを起動させると、さっそく出発だ。下道ではなく、リッチに高速を使う。ETCが自動で高速料金を払う。
「うちのクラスはいつもの問題児3人が行くって話でしたけど、2-Bも今日行く生徒はいるんですか?」
「あぁ、いるみたいですねぇ。でも僕としては補導ではなく、教師陣の親睦を深めるためのイベントだと思ってるんで!」
「……お前の言う親睦が、何を指しているか不安だがな」
「まあまあ、波久礼先生も今日は気楽に行きましょうよ。補導は親睦を深める会のついでってことで」
白石先生まで行楽気分だ。まるで真面目な俺だけが変じゃないか。俺は車を運転している真田先生のペットボトルを開けた。
「あ、ありがとうございます」
「いや。運転してもらってるからな」
「何だったら口移しでくれてもよかったのに」
「真田先生……?」
白石先生がぽかんとして前の運転席を見る。……ったく、真田先生め。白石先生に変な目で見られるじゃないか。
「と、ともかく、真田先生は安全運転でお願いしますよ」
「はぁ~い」
間の抜けた返事をすると、高速を降りる。そろそろ遊園地のゲートがあるはずだ。そこを通り過ぎると、だだっ広い駐車場がある。そこに車を止めると、俺たちは降りて伸びをした。
「はぁ、肩いてぇ……」
「真田先生、大丈夫ですか?」
俺が気遣うと、真田先生は調子に乗った。
「……波久礼先生、揉んでくれますか?」
「それなら保健医の私が」
「白石先生、気にしないでください」
何なんだよ。俺より白石先生に揉んでもらうほうがいいだろーーって、やはり白石先生がミイラだからだろう。
「……真田先生は、白石先生の正体、知ってるんですか?」
もし知らないとしたら、野生の勘……この場合は「サキュバスの勘」で気づいたってことなのか。だとしたらすごい。
真田先生は、首を傾げた。
「白石先生の正体?」
「……知らないならいいです」
「はぁ」
「先生方! 入場しますよー!」
白石先生が一足早くエントランスに向かう。俺たちも続いた。




