4-3 テケテケ
「学校の怪談って、他に何があったっけ?」
「乾、ちょっと」
「なーに?」
「尻尾」
「っ!」
学校の怪談でわくわくしているのか、乾はまた尻尾が出ていた。俺が注意すると、バッと尻を隠す。……何とか秋雨にバレてはいないようだ。
「葉桜、何か知らないの? 怪談について」
「えっ、ボク?」
「言い出しっぺだろ」
こうなったら仕方ない。好きなようにさせて、納得してもらったほうが早いだろう。俺は施錠しながら生徒たちに付き合う。しかし、乾はうーんと首を捻る。
「そうだなぁ、テケテケとか。知ってる?」
「何、それ」
外森が秋雨の背後からたずねる。乾がその説明を始めた。
ーーテケテケ。上半身だけで、下半身のない化け物だ。手には鎌を持っていて、学校の廊下を走って追いかけてくるらしい。花子さんよりはメジャーではないので、俺はあまり知らなかったけども。
「ふぅん、そんな学校霊がいるんだな」
俺たちは下駄箱へ向かって歩き始める。テケテケねぇ……。花子さんは一応、風の仕業か何かはわからないが、気配はした。花子さんがもし本当にいるなら、テケテケも存在するのかーー?
俺たちは日が暮れた校内を歩く。相変わらず、3人は手を繋いでいる。外森は学校霊が怖いらしいが……まぁ確かに気味が悪い話だ。
「でもさ、花子さんがいるならワンチャンあるっしょ?」
「乾は霊とか怖くないのか?」
浮かれる乾に俺はたずねる。するとくすっとチャーミングな笑顔を見せた。
「ボクが怖いわけないでしょ」
「それもそうか」
俺たちは明るい自販機の前に立つ。秋雨はいちごオレを買った。
「せっかくセンセイいるんだから、ごちそうしてくれてもいいんだよ?」
さっきからビビっていた外森が、図々しく俺に集ろうとする。俺はそれを軽くいさめた。
「教師は薄給なんだよ。毎回毎回金がなくなるわ」
「ははっ、それもそうだね」
乾もコインを入れて、バナナオレを購入する。外森はトマトジュースだ。それを見た俺は、秋雨には気づかれないように小声で聞いた。
「外森、また血が足りてないのか?」
「ううん、そういうわけではないけど……なに、センセイごちそうしてくれるの?」
「ちげーよ。倒れられたら困るってだけだ」
外森はトマトジュースを飲み、ぷはっと息を吐く。俺もアイスコーヒーを買い、口にした。早く職員室でテスト問題を作りたいのだが……って、生徒の学校の怪談話に付き合わざるを得なかったんだが、これってもしかして、試験問題作りの妨害されてるーー?
ハッとした俺は、生徒たちに言った。
「俺はやることがあるから、ここでーー」
「っ!? 先生、後ろにいるのは……」
「後ろ?」
振り向いた先にあったのは、上半身だけの鎌を持ったお化けだった。
「なっーー!」
「て、テケテケだっ!」
外森が叫ぶ。すると乾は両手を上げ、構えた。
「よーし! 生け捕りにするぞ!」
「はぁっ!? テケテケを!?」
「おっけー、わかった!」
乾と秋雨が、テケテケにじりじりと近寄る。
「……」
テケテケはじっとその場に佇んでいるが、襲ってきたりはしない。というか……自分を捕まえようとする女子高生を警戒しているようだ。それはそうだろう。生け捕りにするとか、物騒だ。
「ほら令来も!」
「あ、相手は鎌を持ってるんだよ! 危ないじゃん!」
「ほら、乾、秋雨。テケテケの生け捕りは危ないからよしなさい!」
俺は教師らしく手を叩いてふたりを止める。だけど、膠着状態は変わらない。テケテケはというと、何故か俺のほうへ近寄ってきた。もしかして、俺が生け捕りを止めさせようとしていることがわかっているのか? 俺は別に庇っているわけでもないのだが……。
「でもさぁ、テケテケをふん捕まえて、生態についての論文を書いたら良さげじゃない?」
「葉桜、ナイスアイデア!」
「……」
「秋雨。悪ノリするな」
テケテケは無言で俺の顔を見る。なんだよ、学校の怪談が教師に助けを求めるって。ともかく俺の使命は、生徒たちをさっさと帰してテスト問題の作成をすることだ。このテケテケか何なんだかわからない生物と遊んでいる場合ではない。
俺はテケテケに声をかけた。
「……テケテケとやら。俺はお前に興味はない。だが、生徒たちを下校させないといけなくてな」
「!」
……なんだ。俺の言いたいことがわかったのか? テケテケはじっと俺たちを見つめると、逃げた。
「あっ! 行っちゃった……。先生、なんで逃がしちゃったの?」
乾が俺に詰め寄る。だが俺はのほほんとコーヒーを空にする。
「逃がさなかったら、お前らテスト勉強しなくなるだろ」
「でも、本当に学校の怪談ってあるんですね……」
秋雨もぽそりとつぶやく。それは俺も信じられなかったが……。何なんだ、うちの学校は。
「花子さんもテケテケも見られただろ。もう気は済んだか? だったらそろそろ下校してーー」
「えぇっ! まだ怪談はあるのに?」
「怪談よりテスト勉強だろ。さっさと帰れ」
俺がはっきりと言うと、乾と秋雨はうな垂れた。
「ちぇっ、楽しかったのになぁ」
「私も本物の学校霊って初めて見た」
秋雨は当たり前のことを言った。そりゃあ学校霊なんて見るほうが珍しい。
「……だけど、こんなにタイミングよく、学校霊に居合わせるかな? なんか引っかかるんだけど」
外森が疑問を呈す。確かに一理ある。まるで、テスト前の人気のない学校の放課後で誰かが遊んでいるみたいな……?
「先生、これで終わりにするから、最後にもうひとつ学校の怪談調べたらダメ?」
「うーん、本当に最後か?」
「先生だって気にはなるでしょ? 花子さんやテケテケが本物かどうか」
確かに俺も気にはなっている。この誰かの悪ふざけか茶番だが知らないが、学校の怪談が本当にあったら、一番迷惑なのは教職員だからな。変に気味が悪かったりしたら怖い。 だったら最初からその怪奇現象のタネを明かしておきたい。学校で、仕事以外のことに気を取られたくないのだ。
「ともかく、ラスト! 音楽室の怖い話の確認! さ、行こう!」
乾、また尻尾が出てるぞ……。俺は顔を手で覆う。楽しそうにはしゃぐ乾と、やれやれと言ったような秋雨。そして、意外にもビビりな外森を連れて、俺は音楽室の戸締まり確認へ行くことにした。




