4-2 学校の怪談
振り向くとそこには、いつもの3人ーー秋雨と乾、外森がいた。そういや図書館で勉強するって言ってたっけ。肩を叩いた秋雨に、俺は苦笑いして言った。
「脅かすなよ、びっくりしたぞ」
「ははっ、ごめんごめん」
少しも悪びれた様子もない秋雨。まぁ、俺が勝手にビビっていただけだしな。しかし、こんな遅くまで試験勉強とは、なかなかにまじめだ。だけどもあまり遅くになってしまうと、親御さんも心配するだろう。俺は3人を見た。
「ともかく帰れ。教室を閉めるぞ」
「っと、その前に。波久礼先生は学校の怪談って知らない?」
「学校の怪談ーー?」
俺は乾に顔を向ける。学校の七不思議と言うのは、よく話題になるアレか。トイレの花子さんとか、赤マントとか。学生のときは、それらをモチーフにした小説とかもあったっけ。だけども、紋白高校の校舎はまだ新しいので、怪談と言っても霊やお化けはいなさそうだ。
それでも乾は鼻息荒くして言った。
「確かに校舎は新しいけど、実際学校の怪談、あるかも知れないじゃん!」
「どうだかな。それより帰って勉強しろよ」
「波久礼先生はロマンがないよね。試験前だけど、ちょっとの息抜きになるじゃん?」
外森も乾の肩を持つ。早く帰ってくれないと、教室の施錠ができない。
「……ともかく、校門まで送っていく。ほら、歩け」
「ちぇっ」
3人は、しぶしぶ荷物を持って歩き出す。校舎を抜けて、正門前まて歩こうとした、そのとき。
「……ちょっと、帰る前にお手洗行ってもいい?」
秋雨が言うと、乾と外森もうなづいた。俺は居心地悪く、トイレの前で3人が出てくるのを待つ。するとーー
「きゃぁぁっ!」
「なっ、どうした、外森!」
外森の叫び声が廊下に響き渡る。乾と秋雨も驚いたようにトイレから出てくる。
「どうしたの、令来!」
「い、今……鏡の中に、おかっぱでジャンパースカートをはいた女の子が……!」
「花子さんじゃん!」
秋雨も騒ぐ。ったく、生徒たちの悪ふざけか? 俺は怪訝な顔をした。
「何かの見間違いじゃねーのか?」
「そんなことない! いたもん、女の子!」
外森は顔を真っ青にしている。……嘘じゃないのか? 乾は外森を見ると、提案した。
「嘘か本当か、花子さんがいるかどうか、呼び出してみたらいいじゃん」
「えっ、わたし、そう言うの苦手なんだけど……」
「大丈夫だよ。こっちは4人だよ?」
「4っていう数字も語呂が悪い気もするけどね」
張り切る乾に、渋る外森。秋雨が冷静にツッコむ。俺はと言うと、学生をさっさと家に帰さないといけないのだが、乾の表情から見て、この学校の怪談を突き止めないと気が済まなさそうだ。
「……しゃーねえ、付き合ってやるから確認したらさっさと帰れよ?」
「波久礼先生っ! 私は怖いの嫌なんですけど……」
秋雨がぼそりと言うと、乾が彼女の手を繋いだ。
「怖くないように、手を繋いで行こっか」
「あっ、わたしも! 波久礼先生、手!」
「乾と繋げよ」
俺はさっくり言った。3人は仲良く手を繋ぐ。仲良きことは美しきかな、だが、これから解明するのが学校の怪談とはな。
「しかし、女子トイレなら俺は入れないぞ。どうやって確認するんだ?」
「えっと……」
乾はスマホを取り出して、花子さんを呼び寄せる方法を探る。こう言うのって、ドアを何回か叩くとか、トイレの前で回ったりして呼び出すんだっけ。
調べ終えると、手を繋いでいる3人は、トイレの前に立った。
「葉桜、怖くないの?」
秋雨が聞くが、乾はうんとうなづく。ずいぶん楽しそうだ。確かに放課後の学校は何故かテンションが上がる。
俺はというとさっさと家に帰りたいんだがーー。
「トイレの前で10回ノックして、『花子さん、遊びましょ』って言うんだって」
「10回もノックしたら、うるせぇよね」
方法をネットで調べた乾だが、秋雨の冷静なツッコミを受ける。まぁ確かに、用を足しているときにトイレの前で10回もノックされたらたまったものではない。
「ともかく! やってみよう!」
乾たち3人はトイレに入っていく。入口のドアは開けっ放しなので、俺でも中の様子はわかる。
3人は手を一旦離す。代表として乾が花子さんを呼び出す係だ。
「よーし、行くよっ!」
10回ノックを始める乾に、見守る秋雨と外森。ノックが終わると、お約束のひと言だ。
「花子さん、遊びましょ!」
「……」
暗い校舎の中、乾の声だけが響く。やはり花子さんなんていない。高校生にもなって、学校の怪談を解明するなんてな。
「……やっぱり花子さんとか、いないか」
「葉桜! もう、勘弁してよね。わたし怖いの苦手なんだから」
「でも花子さん、いなかったんだからいいじゃん?」
乾が軽く笑う。そのとき、ギイ……とトイレの扉が閉まった。
「っ、お、おい!」
俺は焦って女子トイレの扉を掴む。今のーーなんだ?
「あっ、波久礼先生!」
「今、扉を閉めたの、誰だ?」
「えっーー自然と締まったの?」
「風の仕業じゃない?」
3人はまたしっかりと手を繋ぐ。……風か? だとしても、偶然とは言えないタイミングだった。
「まるで、花子さんがいたみたいだな」
「センセイ! 学校の怪談なんて信用しないんじゃなかったの?」
外森が泣きそうな顔で俺を見つめる。脅かしているわけではないのだが、本当に扉が自然と締まったことは事実だ。
「俺は自分の目で見ることが大切だと思っているだけだ。……で、実際ドアは閉まった」
「本当に花子さん? 花子さん、遊びましょ!」
「葉桜、騒がないよ?」
花子さんがいるかもしれないと思ったのか、乾が声を荒げる。それを見ていた秋雨が苦言を呈す。だけどもいくら乾が騒いでも扉が閉まった以外に、他の怪奇現象はなかった。
「……これだけじゃ、実際に学校の怪談が本当かどうかなんてわからないよね」
「気は済んだか?」
俺がたずねると、乾は首を振った。
「まだまぁ学校の怪談はあるでしょ? せっかくだから調べて行こうよ」
「えっ、ちょっと待てよ。さっさと帰ってテスト勉強だろうが」
「……でも、こんなことを調べられるのは、部活がないテスト期間中だけじゃない? だったら徹底的に調べておこうよ」
「おいおい……」
乾と秋雨が楽しそうにはしゃぐ中、外森だけが元気なく青ざめていた。




