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幕間 とある異形のぼやき

 川沿いに大勢の人間が集まっている。貴族のご令嬢が転落して流されたからだ。空から見下ろすと、水中に明らかな異物――あの子が好むバーガンディーのドレスを見つけた。


 空から急降下したソレは首まで水に浸かりながら、なんとかドレスを引き揚げた。おかげで自慢の濡れ羽色の羽が本当にずぶ濡れの濡れ羽になってしまった。


「……はぁーあ。君も馬鹿だよねぇ」


 パチパチと爆ぜる暖炉の炎の前で、人ならざるソレはぼやいた。暖炉のそばには毛布でぐるぐる巻にされた何かが転がしてある。


「わざわざ自分で取らなくたって、誰かに命じれば済むじゃないか」


 流されたあの子の手に握られた毒花を見たときは「こんなもので」と心底呆れた。


(なぁ、アリステア。懐かしいな)


 異形がかつて、大聖女のお供で訪れた村では、水源の川底にあの毒花がびっしりと生えていて。既に抜いて駆除できるレベルではなかった。


(僕の魔法で川の水を空に全部吹き飛ばせば簡単なのに。君ったらそんな僕にただ羽根を寄越せって言うんだもん)


 当時を思い出して、異形はクククッと喉を鳴らした。


(ヤミヤミ様だっけ? (つぼみ)の時期に光を遮断したら毒を垂れ流す花が咲かずに脱落するからってさぁ)


 自ら真っ黒な衣装でコスプレまでして村人に居もしない神様を信じ込ませ。毒花が咲く時期にそのニセ神様に捧げる黒の長布で川面を覆うヘンテコ儀式を根づかせて。

 コスプレが恥ずかしい恥ずかしいとキャアキャア言いながらも、どこか楽しそうだった彼女。


「……仕方ないなぁ」


 ため息を吐く異形の手の中で、あの子の手から抜き取った毒花が(しお)れている。チラと毛布の塊に一瞥を投げた。


「君の服と身体を乾かすために僕の魔力はほとんど使っちゃった。温風出すのは苦手なんだよ……あーあ。(みじ)めだよ。ホント」


 足元に水たまりを作り、愚痴を吐く異形を慰めるみたいに、暖炉の中で太い薪が爆ぜてキラキラした火の粉を吹きだした。

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