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 気持ちよく晴れた空の下、赤や黄色、ピンクの目にも鮮やかな薔薇の花が咲き始めた庭園で開かれたお茶会に、シルヴィアは参加していた。


 呪いの調査も重要だが、サンクタ伯爵令嬢としての社交をおざなりにするわけにはいかない。


「シルヴィア様とゆっくりお話できるのを楽しみにしておりましたのよ?」


 主催者のクローネ公爵令嬢ヴァネッサ様が悪戯っぽい笑みを浮かべた。派閥を率いる公爵家の令嬢とあり、彼女の身につける品はどれも高位貴族らしい上等なものだ。ネックレスやイヤリング、髪飾りに至るまで意匠こそ控えめながらすべてにピンクダイヤが嵌めてある。


「フフ……今日は女同士、気兼ねなくたくさんお話しましょう?」


 同じ派閥の、よく知る令嬢たちの会である。流行のドレスやアクセサリーの話、観劇の感想……。この日のために用意された、芸術作品のような飴細工を飾ったケーキ、カットフルーツとキラキラと澄んだジュレを乗せたレアチーズケーキ、本物そっくりに拵えた薔薇のマジパン菓子――目にも鮮やかなプティ・フールの数々を、令嬢たちは存分に楽しんでいた。


「ああ、皆様に紹介したい方がおりますのよ」


 給仕たちが紅茶のおかわりを淹れ始めた頃合いで、ヴァネッサ様が一人の令嬢を手招いた。濃い茶の髪をきっちりシニョンにした小柄な令嬢である。


「エロー子爵令嬢シャロン様よ。この春の夜会でデビュタントなさったの」


「エロー子爵が次女、シャロンと申します。以後、お見知り置きくださいませ」


 少し幼さの残る声で、デビュタントしたばかりの令嬢は初々しいカーテシーを披露した。


(テレーズ様の妹君……よね?)


 けれど、ゴージャス系美女の姉テレーズ様とは顔立ちがあまり似ていない。髪色も違う。シャロン様はどちらかというと真面目そうな印象の少女だった。随所に白いレースを縫い付けた水色のドレスは可愛らしいが、アクセサリーはとても控えめで、細いチェーンのネックレスにも滴型の色石が数粒並んでいるだけ。

  

「本日の茶器は、エロー子爵領の工房で作られたものですのよ」


 ヴァネッサ様が紹介したティーセットは、透明感のある白地に同色の泥漿(でいしょう)を細く絞り出してレースのように立体的な紋様を描いてある。なんとティースプーンまで陶器製だ。その繊細な美しさに、改めて幾人かの令嬢がほぅとため息を零した。

 どうやらこの会は、彼女を紹介する場でもあったようだ。


(テレーズ様からいただいた刺繍細工といい、エロー子爵家は芸術品の製作に力を入れておられるのかしらね)


 ちなみに、本日の茶会にはテレーズ様からいただいた花モチーフを繋げたチョーカーをつけてきた。手持ちのアクセサリーとも喧嘩しないし、けっこう気に入っているのだ。


 ヴァネッサ様からの紹介を受けて、令嬢たちが次々にシャロン様に話しかける。中でもあの白い芸術品のようなティーセットについて質問する令嬢が多い。


「あの、もしかしてそちらはロヴァンス刺繍ではありませんか?」


 令嬢たちの質問が途切れた頃、シャロン様がハッとしたようにシルヴィアのチョーカーを見た。


「ええ。先日、縁あってテレーズ様にお会いしましたの」


「まあ!」


 シルヴィアの返答に、シャロン様は目を輝かせた。


「姉にお会いになられたのですね! とっても美人で優しい、自慢の姉なんです」


 嬉しそうにシャロン様は言った。


「私も……姉みたいに美人ではないですけど、立派な淑女になりたいです。そして、我が領をもっとたくさんの人に知ってもらいたい」


 そして、頬を染めて少し恥ずかしそうにそう付け加えた。真面目系令嬢がそんな顔をすると、とてもかわいらしい。


「シャロン様はゆくゆくは家督を継いで、女子爵になられますもの。きっと素敵なレディになれますわ」


(……え?)


 ヴァネッサ様の言葉に、シルヴィアは危うく驚きを顔に出しそうになった。次女のシャロン様が家督を継ぐ? 長女のテレーズ様ではなく?


 普通は、姉の方に家督を継がせるのではないだろうか。


(それともテレーズ様では何か問題があるの?)


 少なくともシルヴィアが実際に会って話した限りでは、彼女におかしなところは見られなかったし、むしろとても領地を愛しておられるように思えたのに。


 けれど、さすがに他家の内情、それも継承についてなんて、おいそれと聞ける話ではない。




◆◆◆




「それで? 気になって眠れないって顔ね」


 お茶会を終えて屋敷に帰ってくると、荷造りをしている母に出くわしたので聞いてみたところ、返ってきたのがこの台詞である。


「エロー子爵家のお嬢様方のことよね。けっこう有名だけど」


「有名、なんですか?」


 問い返すシルヴィアに「表立って言う方はいないけれどね」と答えて母が教えてくれたのは、彼女たちの抱えるあまりに意外な「事情」で。


 そして――。

 すべてが、繋がった。

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