表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
8/27

抜け駆け

「おい想空(そら)! 抜け駆け禁止って言っただろ!」

「は? 何の話?」

「しらばっくれんなよ!」


 しらばっくれてなんかない。

 抜け駆けするだけの勇気、むしろ欲しいくらいだ。




 朝から、クラスの奴に詰め寄られている。


 岩佐(いわさ)先生は、男子の間では早くも大人気。誰かが抜け駆けでもしようものなら、当然こうなるだろうけれど……


「マジで、何の話だよ。心当たりないんだけど」

「お前さ、今朝しっかり見られてたぞ。岩佐(いわさ)先生に、手紙渡してただろ」




 今朝…… 手紙……


 そういう事か。ようやく理解できた。

 でも、あれはそういうのじゃない。


「分かった! ちゃんと説明するから、聞けって」







 あれから考えた。

 何か、岩佐(いわさ)先生を手伝える事が無いか。




「おはようございます」

「おはよ。藤澤(ふじさわ)くん」


 学校で岩佐(いわさ)先生を見かけたら、何でもいいから話しかけるようにしている。もし自分が先生の立場だったら、そんな風に接してもらった方が、嬉しいと思うから。


岩佐(いわさ)先生、おはようございます」

「おはようございます」


 クラスのみんなも、先生に話しかけるようになった。こうやって、少しずつクラスに馴染んでいってほしいと思う。




「……ごめん、今の子、名前何だっけ?」

島本(しまもと)です。島本(しまもと)夏来(なつき)

「そっか、ありがと」


 その為には、クラスの奴らの顔と名前を、覚えなければならない。でも、いろいろと忙しい中で、全員の顔と名前を一致させるのは、大変だと思う。


 だから、考えた。




「あの、もし良かったら、これ使ってください」


 俺は、バッグから取り出した紙を、先生に手渡した。


「え、何?」

「うちのクラスの座席表です。全員のフルネームの漢字と、読み仮名も書いてますんで」


 一晩考えて、そして思いついたのが、これだった。

 慌てて作ったので、手書きで、字も綺麗ではないけれど。




「わざわざ作ってくれたの? ありがとう!」

「あ、いえ、全然……」

「実はね。名前の漢字の読み方が分からなかった子もいるから、助かるよ」

「僕らだって、似たようなもんですしね」

「フフフ…… 本当だ」


 先生に喜んでもらえて、素直に嬉しい。


 自分にできる事なんて、大した事じゃないかもしれない。でも今回は、下心抜きで、少しでも役に立ちたかったから。







「だーかーら! それを『抜け駆け』っつうんだよ。自分ばっか、点数稼いでんじゃんよ!」




 全然、納得してもらえなかった。

 でもこうなる事も、実は想定内だったりする。


「いや、だってほら、俺の部活の先輩だし。体育会系なんだからさ、先輩を手伝うの当然だと思わね?」

「ん…… まあ、それはそうなんだろうけどよ……」

「だろ? それだけだって!」




 もし、先生との事で何か言われたら、「先輩後輩の関係」を言い訳にする。


 あらかじめ考えておいた作戦だ。これなら、周りの奴らもそれほど文句は言えないはずだし。それに、いろんな場面で使えそうだし。


 我ながら、いい作戦だ。


 ……なんて思っていたら、また聞き覚えのある声が。


「ちょっと想空(そら)! なんか聞いたんだけど、岩佐(いわさ)先生にラブレター渡したってマジ!?」


 実夢(みゆ)、そんな大声で言うなって!

 みんながこっち見てるだろ!


 あぁ…… また最初から説明しないと……







「……なんだって。慧介(けいすけ)くんどう思う?」

「ん…… 想空(そら)らしいっちゃ、らしい」


 結局、実夢(みゆ)にもいろいろと言われてしまった。


 岩佐(いわさ)先生と仲良くなるには、越えなければならないハードルが、予想以上にたくさんある。


 そんな事を考えながら、部活に向かう放課後。




「あれ? 見て見て想空(そら)、どうしたんだろ?」

「なんか、ざわついてるな」


 何やら、武道場の中が騒がしい。先輩方は、どこか怯えたような表情で、ただ事ではないことが俺にも分かった。




「あ、藤澤(ふじさわ)くん。実は、ちょっと大変な事になっちゃってさ」


 そんな中、この人だけは自分のペースを崩さない。


 笹本ささもと先輩が、穏やかな笑みを浮かべながら近づいてきた。どうしてこの人は、いつもこんなに落ち着いていられるのだろう。


「大変って、何かあったんですか?」

「それがね。明日、卒業した先輩が来ることになったんだけど、みんな怖がっちゃって」

「え…… 誰が来るんですか?」




 先輩方が、そこまで恐れるOB。


 とても厳しい人なのだろうか。

 あるいは、とても気難しい人とか。


赤井(あかい)先輩。岩佐(いわさ)先輩が来てるって聞いて、じゃあ自分も顔出すって」




 赤井(あかい)先輩。

 「赤」




 それが何を意味するか、すぐに分かった。

 にわかに、俺の心にも不安が渦巻き始める。


 「赤鬼」が来る、ということだ……

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ