表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
21/24

負けず嫌い

藤澤(ふじさわ)くん。なんか、今日はスッキリした顔してるね」

「そう見えますか?」


 代替わりの日は明日に迫っている。

 でも、今の俺にはもう迷いは無かった。


 青晴(あおば)さんにも、それが見て分かるのだろうか。




 青晴(あおば)さんとは、適度な距離を保たなければならない。それは、今も変わっていない。周りの目があるし、俺のせいで迷惑をかけるような事は、絶対にできない。


 だとしたら、今やるべき事は何だろうか?




 青晴(あおば)さんに、ちゃんと見てもらう事じゃないだろうか。主将として、しっかり責任を果たす事ができるという事を。


 それが、今の俺が出した結論だった。







「今日終わったらさ、久々に自主練しようよ!」


 実夢(みゆ)が、笑顔で言う。

 昨日までの重たい空気が、嘘のようだ。




実夢(みゆ)、張り切ってんじゃん。慧介(けいすけ)はどうする?」

「え、俺?」

「どうよ、久々に」

「あ…… 悪い、今日はやめとく」


 そう言うと、慧介(けいすけ)が首にかけたタオルで汗を拭った。


 こいつが自主練の誘いを断るなんて、珍しい事もあるもんだ。そんな事を考えていた俺とのすれ違いざま、慧介(けいすけ)が囁くように言った。


「よかったな、ちゃんと話せて」




 そうだった。


 こいつも、俺と実夢(みゆ)の事を気にかけてくれていたんだよな。

 心配かけてごめん、もう大丈夫だから。


「そんじゃ、邪魔者は消えるわ」

「……? 別に、邪魔じゃねぇけど?」







 実夢(みゆ)と2人の自主練、昔に戻ったみたいだ。


 あの頃は、俺が教えてばかりだった。でも今では、お互いにアドバイスし合うようになって。




「明日の作戦とか、もう考えてるの?」


 いつの間にか、外は薄暗くなっていた。武道場の照明のスイッチを入れながら、実夢(みゆ)が俺に言う。


「一応は。やっぱ、勝ちに行きたいしさ」

想空(そら)さん、負けず嫌いだもんねぇ」




 正々堂々戦って、負けるなら悔いは無い。

 俺は、そんな風には思わない。


 正々堂々と負けるより、何とかして、勝つ方法を見つけ出したい。たとえ、変化球のような戦い方だとしても。


 その為に、頭をフル回転させて考える。

 どうすれば勝てるのか。




「あたしも、何か作戦考えなきゃ。このままじゃ、当たって砕けるだけかもだし」

「そうだなぁ……」


 俺は、もうすぐ主将になる。これからは、自分の事だけではなく、チームが勝つ事を考えなければならない。たとえ、どんな格上の相手だとしても。


 青晴(あおば)さんは、実夢(みゆ)にとって明らかに格上の相手。普通に戦っていたのでは、まず勝てないだろう。だからこそ、俺も実夢(みゆ)と一緒に考えなければと思う。


 「青鬼」に、立ち向かう方法を。




「あ」

「あ」


 2人の声が重なった。


「え、実夢(みゆ)、どうかした?」

「あ、ううん。なんか、入り口の所に誰かいたような気がしたんだけど……」


 俺も、武道場の入り口に視線を向ける。

 誰かがいる気配は無い。


「誰もいないみたいだけど……? え、なんか怖い」

「ちょっと、やめてよ想空(そら)! ……ってか、そっちこそどうしたの?」

「あ、そう、思いついた事があってさ」


 スマホで動画を探す。

 前に、偶然見つけた動画。

 そこに映っていたのは、それまで見た事の無かった技だ。




「この技、できる?」

「え、この技!?」


 実夢(みゆ)も、少し驚いた様子だった。


 俺には、とてもできない技だ。慧介(けいすけ)赤井(あかい)先輩でも、この技はできないかもしれない。でも、抜群の柔軟性を持つ実夢(みゆ)なら、もしかしたら……




 青晴(あおば)さんに勝つ為に、意表を突く。

 おそらく、まだ見た事の無い、対応できない技で。


 「初見殺し」


 これが、俺の考えた作戦だ。




「分かった。練習しよ」

「いける? ほとんど一夜漬けだけど」

「うん。せっかく想空(そら)が考えてくれた作戦だし、やるっきゃないじゃん!」


 実夢(みゆ)が、真っ直ぐな眼をして言った。




「本当に凄いよな、実夢(みゆ)は。格上相手でも逃げないし。」

「え…… そんな事ないよ」


 実夢(みゆ)が、少し照れたように笑う。


「あたしなんてさ、岩佐いわさ先輩に比べたら、強くもないし、機転も利かないし、それに……」


 不意に言葉が途切れて。


「ズルだって…… しちゃうけどさ……」


 実夢(みゆ)が、少しだけ俯いて。




「でも、負けたくないから! あたしも負けず嫌いだし!」

「俺と同じだな」

「へへへ…… 想空(そら)さん程じゃないですよ」


 そんな事は無いと思う。

 俺なんかより、ずっと負けず嫌いで、そして前向きだ。


 本当は、少し尊敬している。

 実夢(みゆ)のそういうところ。


「この技、絶対に決めてみせるから! 約束!」

「ああ、約束な!」




 その日の自主練は、遅くまで続いた。「早く帰れ」と怒られるまで残っていたのは、本当に久しぶりだ。


 やれるだけの事はやった。

 あとは、本番を待つのみだ。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ