表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
16/25

あと1週間

 あと1週間しかない。


 目の前に突きつけられた現実が、俺の心を急かし続ける。このまま何もしなければ、あっという間に「その時」が来てしまうのだろう。




「なぁ、慧介(けいすけ)ってさ…… 彼女さんの連絡先、どうやって手に入れたの?」

「え、どうした、急に?」

「いや、なんか興味が」

「何だよそれ」


 学校から一歩出てしまえば、俺と青晴(あおば)さんとの繋がりは、今のところほぼ無い。


 何とかして、連絡先の交換だけでもできないだろうか。彼女持ちの慧介(けいすけ)なら、何か参考になる話が聞けるかもしれない。




「いつの間にか、知ってた感じかな。同じグループで、よく遊んでたし。ずっと一緒にいたら、自然とそうなるんじゃね?」

「そっか…… サンキュ」

「あんまり参考にならなかったか?」

「あ、いや、そういうわけじゃないけどさ……」


 俺の場合、もうそれほど時間が残されていない。


 それに、クラスでも部活でも他の人の目があるから、なかなかチャンスも無い。誰かに知られたら、またいろいろと言われるだろうし。




「まあ、まだ時間あるし。じっくり考えりゃいいんじゃね? どうするのか」

「何だよそれ」

「ん…… 何つうかさ……」


 相変わらず慧介(けいすけ)は、全てお見通しのような言い方をしてくる。誰の連絡先なのか一切聞いて来ないのも、よく考えれば不自然だ。こいつは一体、どこまで気づいているのだろうか。


 慧介(けいすけ)に味方になって欲しい、とまでは思っていない。さすがにこんな事は相談できないし、相談された方も困るだろうし。


 こいつの言う通り、これは俺が考えるべき事だ。




「あー、難しいわ。どういうポジション取るべきか」

「だから、何だよそれ」






 教育実習も2週目に入り、今週から青晴(あおば)さんが授業を担当するようになった。


 あらかじめ学習指導案を作り、森村(もりむら)先生のチェックも受けるらしい。こちらが想像していた以上に、忙しくなるようだ。




「今日は、岩佐(いわさ)先輩来てないね」

「今、かなり大変みたいだしな……」


 当然、部活に顔を出す事も少なくなる。仕方のない事だけれど、ただでさえ少ない青晴(あおば)さんと話せるチャンスが、もっと少なくなってしまう。




「……気になる?」

「え、何が?」

「何でもない」


 本当は気にしている事が、実夢(みゆ)にもバレてしまっているのだろうか。そうやって周りにバレてしまうと、ますます動きづらくなるし、どうすれば良いのだろう。







藤澤(ふじさわ)くん、ちょっといい?」


 練習後、笹本(ささもと)先輩が、声をかけてきた。


押忍(おす)、また隅っこ行きましょうか?」

「アハハ…… 今日は行かなくても大丈夫だよ。もうみんな知ってる事だしね」




 俺が次期主将に選ばれた事は、もう空手部の誰もが知っている。建前上、代替わりの日までは秘密、という事になっているのだけれど、俺も含めてみんな平気で喋っている。


岩佐(いわさ)先輩の教育実習、今週末が最終日だよね」

「そうですけど…… 何かあるんですか?」

「うん、その日になったから。代替わり」







 また1つ、現実が目の前に突き付けられた。


 あと1週間しかない。

 主将になるまで。


押忍(おす)、分かりました」


 身体の奥から、プレッシャーが湧き起こってくる。それを隠しながら、俺は答えた。もう今から、周りに見られていると思わなければならない。


「その日は、岩佐(いわさ)先輩と赤井(あかい)先輩も来てくれるって」

「本当ですか?」


 青晴(あおば)さん、それに赤井(あかい)先輩まで。

 こんなの、緊張するなという方が無理だ。


「じゃ、代替わり組手の相手を誰にするか、考えといてね」

押忍(おす)




 緊張する一番の理由は、これだ。


 うちの空手部の代替わりでは、次期主将が自分で相手を指名し、組手をするという伝統がある。主将になる為の、儀式のようなものだ。




「あの…… 相手は、誰でもいいんですか?」

「誰でもいいよ。誰か戦いたい人がいるの?」

「あ、いえ、いろいろ考えてみたいと思って……」


 相手を自由に決めて良いからといって、自分が勝てそうな相手を選ぶ人はまずいない。なぜなら、自分より強い相手に挑戦し、主将としての覚悟を示す事が目的だから。


 だから多くの場合、前主将を相手に指名する。

 でも、俺は……


「ま、時間はまだあるし、ゆっくり考えるといいよ」

押忍(おす)、ありがとうございます」




 本当は、相手として頭に浮かんだ人がいる。 


 心の中で、ずっと引っかかっていた事。

 決着をつけなければ、前に進めない気がするから。


 でも、それを口にしていいか迷っている。


 俺なんかが、戦いたいと言って良い相手なのだろうか?

 笹本(ささもと)先輩にも、失礼にならないだろうか?

 何より、俺にその勇気が出せるのか?




 いろんな考えが頭に浮かんで、そして溢れ返って。


 あと1週間。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ