第4話 馬車の密室で明かされる真実――“死”と“ループ”の告白
馬車の扉が閉まり、外の喧騒が遠ざかる。
ラースとセシリアは向かい合って座った。
馬車の揺れが、2人の間に流れる緊張をわずかに和らげる。
セシリアは深く息を吸い、ラースをまっすぐ見つめた。
「……ラース。あなた、どうしてここに?」
その声には、驚きと安堵、
そして“確かめたい”という強い意志が混ざっていた。
ラースは迷わず口を開いた。
「セシリア様。お伝えしたいことがあります」
「私は……あの戦場で死にました。
セシリア様の背後に、仮面をつけた者がいました。
それを見たのが最後です」
セシリアの表情が強張る。
「気がついたら、私は皇国の森にいました。
王都ではなく、まったく別の場所に……」
セシリアは息を呑んだ。
ラースは続けた。
「森で、仮面の集団が冒険者を襲っていました。
助けたのはレオン、ガルド、ミリア、エリス、
そしてシャーリーという少女です」
「シャーリー……?」
セシリアの眉が動く。
「十代半ばほどの少女でした。
回復魔法の使い手で……とても優しい子でした」
ラースの声がわずかに震えた。
「ですが、シャーリーは……仮面の集団に殺されました」
セシリアは目を見開いた。
「殺された……?」
「仮面の集団は、人の顔を剝ぎ、成り代わります。
ガルドが致命傷を負って連れ去られた後、洞窟で休んでいたら
――レオン、ミリア、エリスの“顔のない死体”がありました」
セシリアは震える声で呟いた。
「……顔が……ない……?」
「はい。そして、彼らに成り代わった“何か”に拘束され、私は殺されました」
馬車の中に、重い沈黙が落ちた。
沈黙を破ったのは、セシリアの震える声だった。
「……ラース。あなたの話を聞いて……確信したわ」
ラースは顔を上げた。
セシリアは、まるで胸の奥にしまっていた秘密を吐き出すように言った。
「わたくしも……死んだのよ」
ラースの目が大きく見開かれた。
「……え?」
セシリアは静かに続けた。
「あの戦場で、あなたの胸から剣が生えて……
驚いていたら、わたくしも同じように刺されたの。
そして気がついたら――王城の自室にいたわ」
ラースは息を呑んだ。
「……セシリア様も……?」
「ええ。王国歴521年。わたくしは10年遡っていたの」
ラースの胸に、言葉にならない衝撃が走った。
「……じゃあ……セシリア様も……ループを……?」
セシリアは頷いた。
「そうよ、ラース。わたくしたちは……同じ“異常”の中にいるの」
セシリアはラースの手をそっと握った。
その手は震えていたが、握る力は強かった。
「ラース。あなたが生きていて……本当に良かった」
ラースは言葉を失った。
セシリアは続けた。
「わたくしは……ずっと探していたのよ。
あなたに会える日を。でも、その日は訪れなかった」
ラースの胸が締め付けられる。
「……すみません。私は……森にいました」
「いいの。今、こうして会えたのだから」
セシリアはラースの手を強く握りしめた。
「ラース。わたくしたちは……運命共同体なのよ。
この“異常”に立ち向かえるのは、あなたとわたくしだけ」
ラースはゆっくりと頷いた。
「……はい。今度こそ、守ります。
セシリア様を……、仮面の者に奪わせません」
セシリアは微笑んだ。
「ええ。一緒に戦いましょう、ラース」
馬車は皇国へ向けて走り続ける。




