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第57話 新人魔法少女

「そして、今回の『追い込み漁』にあたり、もう一人。アタッカー担当の魔法少女を紹介するえ」


雅が扇子でバンの奥を指し示すと、影からおずおずと一人の少女が出てきた。


「つい最近……というても、さいかちゃんより少し前やけれど、魔法少女として認定された『小鳥遊風香たかなし ふうか』ちゃんや」


現れたのは、淡いグリーンの衣装に身を包んだ、少し頼りなさげな少女。年齢は中学生くらいだろうか。大きな杖を両手でギュッと握りしめ、ガチガチに緊張しているのが見て取れる。


「まだアンヴァーと戦うのに力が入りすぎてなぁ。コントロールが課題なんや。今回は動かない標的まとみたいなもんやし、少しでも経験を積ませてあげようとおもてな」


雅の紹介に、風香と呼ばれた少女はビクッと肩を震わせ、直立不動の姿勢をとった。


「た、小鳥遊風香です! よ、よろしくおねがいしましゅ!」ガリッ。


盛大に舌を噛む音が聞こえた気がした。  彼女は顔を真っ赤にして、涙目で口元を押さえている。


「…………」


俺はジト目でその様子を見ていた。先輩。キャリアで言えば俺より上らしいが、このポンコツ具合はどうだ。『力が入りすぎる』という雅の説明も、このガチガチ具合を見れば納得できる。

多分、素振りでバットごと投げるタイプだ。


「ぷっ、お前、挨拶で噛むとかベタすぎんだろー!」


隣で刹那が腹を抱えて爆笑した。デリカシーという概念はこのヤンキーには存在しない。


「うぅぅ……わ、笑わないでくださいよぉ……」


風香は消え入りそうな声で抗議するが、刹那には聞こえて内容だった。


「もうちょっと待っとってな」


 雅が一通り説明し、魔法科の職員と最終調整の会議をはじめると、おずおずと様子を伺っていた小鳥遊風香が、意を決したように俺との距離を詰めてきた。


「あ、あのっ! 伝説の魔法少女『ガーディアンエンジェル』の事、サイカ様でふよね!!」

「……は?」


俺は思わず半歩下がった。第七地区で付けられた二つ名で呼ばれてたじろぐ。誰だ、その痛々しい名前を広めた奴は。


「だ、大ファンなんです!! 動画サイトに上がってる戦闘記録、全部マイリストに入れてます! 憧れです! あ、あの、握手してください!!」


風香は鼻息も荒く、両手を突き出してきた。その圧は、アンヴァーよりも遥かに強烈だった。


「う、うん……」


俺は勢いに押され、渋々ながら小さな手を差し出した。すると、風香は俺の手を両手で包み込むようにギュッと握りしめ、ブンブンと上下に振った。


「わぁ……! 本物だぁ……!」


彼女の目はキラキラと輝き、背景に花のエフェクトが見えそうなほど感動している。そして、恍惚とした表情でとんでもないことを口走った。


「私、この手は一生洗いません! 家宝にします!」

「……洗わないと、汚い」


俺は冷静にツッコミを入れた。


すると、風香はハッとした顔をして、瞬時に真顔に戻った。


「じゃあ、めっちゃ洗います!!」

「そ、そう……」

「おーおー、相変わらず人気者だなガキンチョ」


隣で刹那が、ニヤニヤしながら俺の頬を指でつついてくる。


「……うるさい。」


「ほな、挨拶はその辺にして、そろそろ始めるでぇ。配置につこか」


彼女はテキパキと指示を出した。


「さいかちゃんはウチと一緒に、このバンで待機や。刹那と風香ちゃんは、追い込みの最終地点である『第三倉庫』で待機してな」


「……雅と、いっしょ?」


俺は首を傾げた。前線に出て暴れるのではなく、後方支援ということか?


「せや。さいかちゃんには、仕上げの『空間遮断』だけお願いしたいんや」

「…………」


俺の顔が露骨に曇った。空間遮断だけ。つまり、敵を閉じ込めるだけのおりになれということだ。


「……たおしたい」


俺はボソリと不満を漏らした。戦闘狂だからではない。


(アンヴァーをこの手で倒さねえと、システム判定でポイントが入らねぇじゃねえか! タダ働きは御免だぞ!)


俺の心の叫びは、100億ポイントへの執念そのものだった。自分以外が倒した敵の経験値など、一円にもならない。

すると、雅は「ふふふ」と艶やかに笑い、屈み込んで俺の頭を優しく撫でてきた。


「なんや、魔法ポイントのこと心配しとるんやろ?」

「……」

「安心しぃ。ちゃんと『バイト代』として、ウチの保有ポイントから色をつけて譲渡するさかい」


雅は扇子で口元を隠し、ウインクしてみせた。


「元々、偵察型は倒してもそんなポイントにならんさかいな。労力の割に実入りが少ないんや。やから今回は、風香ちゃんの戦闘経験レベリングに使いたいんや」

「……ふーん」


俺は撫でられるまま、大人しく頷いた。


(……まあ、ポイントが貰えるならいいけどよ)


—―大型バンのモニター画面では、無数の青い光点(職員たち)が、綺麗な陣形で赤い光点アンヴァーを第三倉庫へと押し込んでいた。逃げ場を失った赤い点が、一つの区画に密集し、真っ赤な塊となる。


「今や。さいかちゃん、よろしゅう」


雅が扇子をパチンと閉じた。それが合図だった。


「ん」


俺は気のない返事をすると、モニターに映る倉庫へ向けて、意識を軽く飛ばした。


(『空間遮断』とか大層な名前つけてるけど、要はいつもの『うっすいバリア』のことだよな? ほらよ)


俺は指先を軽く振った。それだけで、第三倉庫全体が極薄の魔力膜で包み込まれた。外からは入れず、中からは絶対に出られない、透明な檻の完成だ。


***


一方、バリアの内部。 天井の高い空間を、羽虫のような不気味な羽音を立てて飛び回る無数の偵察型アンヴァー。その数は百を超えているかもしれない。壁も天井も埋め尽くすほどの「赤黒い蠢き」は、生理的な嫌悪感を催すには十分すぎる光景だった。


「おー、ワラワラいやがるなぁ。こりゃボーナスステージだな」


刹那は、特攻服風の変身衣装のポケットに手を突っ込み、その地獄絵図を眺めてニヤリと笑った。彼女にとって、攻撃してこない敵など、ただの動くスコアでしかない。 だが、その隣で杖を構える風香は違った。


「こ、こんなにアンヴァーが……ひぃ……」


彼女は顔面蒼白で、ガチガチと膝を震わせていた。いくら無害な偵察型とはいえ、この異様な物量は新人にとってトラウマレベルの圧迫感だ。


「あん? ビビんなよ。コイツらの戦闘力なんてゴミだぞ」


刹那は呆れたように風香の背中をバシッと叩いた。


「いいか? 質より量だ。適当に撃っても当たるぜ? さあ、稼ぎ時だ。ド派手にいこうぜ!」

「は、はいぃぃ……! が、がんばりましゅ……!」


風香は涙目で杖をギュッと構え直した。袋のネズミとなったアンヴァーたちと、ポンコツ新人の、一方的になるはずの殲滅戦が始まろうとしていた。

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