第56話 アルバイト体験
今回の「魔法科バイト」の件については、一応パートナーであるクソキノコ(チーポ)にも報告を入れた。だが、その反応は極めて芳しくなかった。
「えぇ〜? 偵察型ぁ? あんなん倒してもポイントはスズメの涙やで? それを9対1で分けたら、ワイの利益なんてカスみたいなもんやんか! 割に合わんわ!」
サングラスをかけたキノコは、空中で手足をバタつかせて文句を垂れた。俺は無言でキノコの柄を掴み、台所からタコ糸を取り出した。
「……な、何する気や?」
「近所の公園に、野良犬が溜まる電柱があってな。そこにお前を縛り付けて、全身にドッグフードの粉末をまぶして放置してやろうかと思ってな」
「ヒィィッ!? わ、わかった! やる! 喜んでやらせていただきますぅぅ!」
俺の知的な交渉術でキノコを黙らせた俺は、数日後、指定された集合場所へと向かった。
――人気のない港湾地区の倉庫街。 変身を済ませた俺は、合流した刹那と共に、今回の作戦本部となる大型バンの前にいた。中に入ると、モニターの光に照らされた村雲雅が、扇子を片手に指揮を執っていた。
「おー、さいかちゃんに刹那も来はったな。今回の作戦は、さいかちゃんが重要やさかい、よろしゅうなぁ」
雅は糸目を細め、艶やかに微笑んだ。
「……?」
俺は首を傾げた。重要な役? ただの雑魚狩りバイトじゃないのか?
「……わたし?」
雅が不思議そうに刹那を見る。俺もジロッと横のヤンキー娘を睨んだ。
「ヒュ〜♪ ヒュル〜♪」
刹那は明後日の方向を向き、絶望的に下手くそな口笛を吹いていた。
(……チッ。こいつ、説明が面倒で忘れたフリしてやがるな)
最近、学校や放課後では「辰宮才牙」として、こいつ(刹那)とほぼ毎日つるんでいる。焼きそばパンを買いに行かされたり、授業中に隠れて読む用の漫画を貸したりする中で、こいつの「大雑把で適当な性格」は嫌というほど理解していた。任務は真面目にこなすが、肝心なところで説明を省くのは、こいつの悪癖だ。
「はぁ……」
雅もそれを察したのか、パチンと扇子で自分の額を叩き、深くため息をついた。
「しゃあない。ごめんな、さいかちゃん。ほな私から説明するけど……偵察型のアンヴァーに戦闘能力が無いのは、さいかちゃんは知っとるか?」
「うん。すぐ逃げる」
俺は頷いた。あいつらは見つかった瞬間、家庭内害虫『G』のように散り散りに逃げ出す。だから狩るのが面倒なのだ。
「せやな。逆に言うと、魔法少女でもない一般の魔法科職員でも、武装すれば安全に『追い込み』ができるんや」
雅はモニターを操作し、第七地区の地図を表示させた。
「それもあって今回は大規模に人員を投入できるんやけど……職員たちが四方から追い込んだ大量の偵察型を、さいかちゃんの『空間遮断』で一度に閉じ込めて欲しいんや」
地図上の赤い点(敵)が、青い点(職員)に追われ、一箇所に集められていくシミュレーションが表示される。そして最後、逃げ場のない行き止まりを俺のバリアで塞ぎ、袋のネズミにする。
「ふーん(空間遮断? 前のノーマッドもそんな大層な名前で呼んでたけど、要はバリアのことだよな。まあ、訂正も面倒だから呼ばせておくか)」
俺は納得した。つまり、一匹ずつ追いかける手間を省き、網で一気に掬い上げる作戦か。
「理解した。……やる(なるほど。『追い込み漁』ってやつだな)」
俺が短く答えると、雅は満足そうに頷いた。
「頼もしいわぁ。準備ができ次第、作戦開始や。」




