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第49話 うさちゃんパーカー

屋上。 心地よい風が吹く中、俺、辰宮才牙は今日も今日とて、「深窓の令嬢スケバン」の手作り弁当を貪っていた。


今日のメインは豚肉の生姜焼き。タレの染み込み具合が絶妙で、白飯が無限に進む。 俺が夢中で箸を動かしていると、向かいで自分の弁当をつついていた刹那の携帯がピロン、と通知音を鳴らした。彼女が箸を止め、画面を覗き込む。


「――はぁ? どこだよここ?? 訳のわかんねえ場所に呼び出しやがって!!」


刹那は眉間に深い皺を寄せ、スマホの画面を睨みつけている。


「どうしたー?」


俺は、白々しく尋ねた。 もちろん、その通知を送ったのが目の前にいる俺だということは一番俺が良く知っている。


「あのガキンチョ(サイカ)だよ! 定期連絡で会うのはいいけどよ、よりによってこんな変な場所に呼び出しやがった。……おい才牙、ここが、どこだか分かるか?」


刹那が突き出してきた画面には、地図アプリのピンが表示されている。

俺は画面を見ながら答えた。


「んー、どれ? ……あー、昨日アンヴァー狩った近くにある廃工場だな」

(悪いな。人目につきたくないんで、あそこくらいしか思いつかなかったんだよ)


人気のない廃工場なら、変身しても誰にも見られないし、万が一戦闘になっても被害が出ない。


「あー、あそこか。……ちっ、しゃーねー、行くかー。あーでも、一回しか通ってねーからいまいち覚えてねーんだよなー。……そうだ!おい才牙、放課後案内してくれよ!」

「……すげー今更だけどよ、『サイカ』との待ち合わせ場所の情報、一般人の俺が知ってていいのかよ?」


その瞬間、刹那の動きが止まった。 箸からミニトマトがポロリと落ちる。


「ん? あー……うー……」


彼女の目が泳ぐ。彼女は数秒のフリーズの後、逆ギレ気味に俺の胸ぐらを掴んだ


「き、機密情報だからな! 知っちまったからには、今後も俺のサポートをしないと指名手配だ!」

「こ、こいつ……」


俺は呆れた顔を作ったが、内心では苦笑していた。


「はいはい、協力しますよ。んでいつ頃呼ばれてるんだよ?」

「うむ!ああ、時間なら放課後で大丈夫だ! 」


刹那は満足げに頷くと、落ちたミニトマトを「3秒ルール!」と言って口に放り込んだ。


「ちなみに……近くまで案内はしてやるけど『サイカ』と会う時は、俺は行かねーからな」

「は? なんでだよ」


刹那は箸を止め、不満げに眉をひそめた。 「協力者なんだから、そこも付き合えよ」という顔だ。 だが、こればかりは譲れない。俺が俺と会うことなど、分身魔法でもない限り物理的に不可能なのだから。

俺はもっともらしい理由を並べ立てた。


「あたりめーだろ! 話を聞くに、『サイカ』って魔法少女は警戒心が強いんだろ?」

「まあ、そうだな」

「そんな奴が、わざわざお前を『指名』したんだ。それなのに、お前が他の奴をゾロゾロ連れて行ってみろ。……ましてや、俺の様な強面こわもてが来たらどうなると思う?」


俺は自分の顔を指差した。 第七地区の不良たちが裸足で逃げ出す、この兇悪な面構え。 幼女からすれば、トラウマレベルの恐怖映像だろう。


「裏切られたと思って、二度と出てこなくなるぞ」


俺の指摘に、刹那は空を見上げてシミュレーションをした。 「サイカ」の前に、ヌッと現れる「才牙」という巨漢。


「うーん……確かに、逃げるな。間違いない……」


彼女は深く、あまりにも深く頷いた。


(こいつ……肯定するにしても、もっとオブラートに言えよ! )


俺は心の中で盛大にツッコんだ。即答で「逃げる」ってなんだ。


「……だろ? だから、待ち合わせ場所の近くまでは付いてくけど、俺は絶対に会わねえからな。先に帰ってるぜ」

「うーん、確かにそうだな」


刹那は納得顔で、残りの卵焼きを口に運びながら言った。


「才牙はさ、こうして話せば良い奴だって分かるけど……初対面のガキには、まあ無理か……いきなり、こんな強面のヤンキーが出てきたら、そりゃ泣くわな」

「……飯食ったら戻るぞ」


放課後となり、刹那を廃工場の近くまで案内する


「んじゃ、また明日なー才牙!」

「おう」


刹那と別れるとすぐに変身して、バリアで透明化し、刹那より先に廃工場に身を潜めて待機する。しばらくすると刹那が姿を現したので、待っていたかのように姿を現す


「おー、いるじゃん。早く来といて良かったわ」


刹那は周囲を見回し、呆れたように言った。


「てか、もっと子供らしい場所にしろよ。なんだよここ、お化け屋敷か?」

「……目立つの、嫌」


俺は短く答えた。 この姿で街中にでも出てみろ、あっという間に人だかりだぞ


「あ? 服装とか変えればいいだろ? 変身状態でも私服くらい変えられんだろ?」

「……服、ない」


俺は視線を逸らした。 (俺の部屋にあるのは、学ランとジャージと骸骨柄のTシャツだけだ。この幼女ボディに合うサイズなんて一枚もねえよ)


俺の答えを聞いた刹那は、目を見開いて絶句した。


「ま、マジかよ……。服も買えないほど貧乏なのか……?はー……仕方ねえ。ちょっと待ってろ」


刹那は溜息をつくと、虚空に手を突っ込んだ。 『異空間収納』だ。なんでも普通の魔法少女は使えるらしい。無骨な武器が出てくるかと思いきや、彼女が引っ張り出したのは――。


「ほらよ!」


パサッ、と俺に投げつけられた布切れ。 広げてみると、それは白を基調として、ピンクや水色が散りばめられた、うさ耳が付いたファンシーなパーカー(子供服)だった。さらにヒラヒラがついたスカートとウサギのアップリケ付きの靴下付きだ


「……なにこれ?」

(めちゃめちゃファンシーじゃねえか! 俺にこれを着ろってか!?)


俺がドン引きしていると、刹那は慌てて顔を赤らめて弁解した。


「お、俺のじゃねえぞ!! 勘違いすんなよ!?」

「じゃあ誰の?」

「……い、妹のだ!! サイズアウトしたやつが何着か入ってたんだよ!」

「妹、いるの?」


俺は素で驚いた。 (へー、知らんかった。あいつ、妹いたのか。……ってことは、家じゃお姉ちゃんやってんのか?) 普段のガサツな言動からは想像がつかない。


「……ま、まーな」


刹那は少しだけバツが悪そうに視線を逸らした。 その横顔には、いつもの強気なスケバンとは違う


「と、とにかく! それやるから着とけ!」

「……うん」


俺は不承不承、そのファンシーな服を受け取った。


(まじかよ、これを着るのか)


予備の服があるのは助かるが。 俺の尊厳と引き換えであった。

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