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第39話 VS魔法少女

「あは! サイカちゃん、こんにちは! やっと会えたね❤️」


キリカは、自らの衣服に付着した刹那の返り血を、気にもせず無邪気に笑いかけた。その背後では、巨大なB級アンヴァーが自由を謳歌するように雄叫びを上げているが、彼女は一切の関心を示さない。


「今日はね、貴方をスカウトに来たの! 私たちの組織のボスが、どうしても貴方が欲しいんだって。あんなA級を一人で片付けるなんて、まさに『お宝』だもんね」


彼女は長い睫毛を揺らしてウインクをし、その可憐な唇から、甘い毒をたっぷり含んだ提案を吐き出した。


「だから、大人しく私たちについてきてくれれば、そこの瀕死のスケバンと、この第七地区は見逃してあげるよ。……ね? 悪い話じゃないでしょ?」


人質交換。サイカという「規格外の個体」を手に入れるためなら、街一つ分の被害すら取引材料にするという、倫理を根底から踏みにじる提案。


「…嫌!」


銀髪の幼女の唇から、一切の躊躇もなく放たれたのは、短く、しかし明確な拒絶。


「……あーあ、可愛くないなー。じゃあ、お仕置きかな?」


キリカの瞳から、それまで装っていた擬似的な光が消え、底なしの闇が覗く。


「自分の我儘で、この街がどんどん破壊されてくのを見てたら、少しは考えも変わるでしょ?」

「……向こうには、刹那がいる」


サイカは、視線すら動かさず、戦場を指し示した。そこには、止血されたとはいえ、未だふらつきながらアンヴァーの元へと向かおうとする刹那の背中があった。


「無理だよ! 傷は塞いであげても、魔力ガソリンは私の鎌でだいぶ頂いちゃったもん」


キリカは手に持った大鎌の刃に溜まった紅い魔力を、卑しく、そして恍惚とした表情でペロリと舐めとった。


「私のこの『吸魔の鎌』はね、斬った相手から強制的に魔力を奪うの。

あの雑魚、もう立ってるだけで精一杯。戦う力、ましてやB級アンヴァーを相手にする魔力なんか残ってないはずだよ?」


魔力の欠乏。それは魔法少女にとって、死を意味する致命的な状態だ。しかし、サイカの瞳は揺るがない。


「……刹那は、絶対に勝つ。あんなヤドカリに、負けるような奴じゃない」


根拠はない。だが、才牙は知っている。あの女の根性は、この程度でへし折れるような、安っぽい代物じゃない。


「ふーん、キモ…。ま、いいや」


キリカは飽きたように吐き捨てると、死神のような低さで大鎌を構え直した。


「さっさと戦闘不能にして、お持ち帰りしてあげる❤️」


ドッ!!


アスファルトがクレーター状に弾ける踏み込み。キリカの姿が黒い疾風となり、一瞬でさいかの懐へと潜り込んでくる。


(速えな……!)


才牙は反射的に手をかざし、自身の代名詞――と魔法科が勝手に認定している防御魔法を展開した。虹色に輝くシャボン玉のような球体が、さいかの周囲を瞬時に包み込む。かつてA級アンヴァーの猛攻すら無傷で無効化した、鉄壁の盾。

だが、キリカは減速するどころか、さらに加速して狂気的な笑みを深めた。


「ははは! なんで私が、貴方みたいな『化け物』の担当になったと思う?」


黒い刃が、禍々しい紅の輝きを放つ。


「――あんたにとって私の相性が、最悪だからだよ!! 穿て!!」


パァァァァンッ!!


路地裏に、乾いた破裂音が虚しく響いた。先ほど刹那を襲った際には弾き返されたはずの鎌の刃が、今度は虹色のバリアを、まるで加熱されたナイフでバターを切るように容易く切り裂いたのだ。 魔法科が「最高峰の強度」と定義し、空間そのものを断絶しているとまで噂したその盾が、ガラス細工のように無惨に砕け散る。


「……!?」

「あは、私の鎌の『本気の刃』はね、魔力で構成されたものなら、全部斬っちゃうの」


キリカは、無防備になったさいかの可憐な鼻先へと鎌の先端を突きつけ、勝利を確信した優越感に浸っていた。


「貴方のその、傲慢な『空間断絶魔法』もね❤️」


魔力そのものを断ち切る概念の刃。いかなる高位防御魔法も無効化する、魔法少女の天敵。彼女が自分を「対サイカ用最終兵器」と自信満々なのも頷ける。

だが。 刃を突きつけられた当の本人は、絶望に沈むどころか、内心でひどく困惑していた。


(空間断絶? なんだそれ? 何の話をしてるんだ、この女?)


才牙は、目の前の「魔法殺し」の鎌を、冷めきった目で見つめ返す。


(いや……ただの『うっすい魔力の壁』だし、そりゃお前、思い切り斬られたら割れるだろ。シャボン玉だぞ? 何をそんなに得意げになってんだ?)


魔法科の分析班が勝手に「空間を切り離す絶対防御」と過大評価しているだけで、才牙にとってこれは、「ちょっと強めの魔力の膜」に過ぎない。「斬られれば壊れる」。それは、叩けば物が壊れるのと同じ物理法則として、才牙の中に当然の帰結として存在していた。

自身の「バリア魔法」が破られた衝撃など、彼の中には一ミリも存在しない。あるのは、「防御が抜かれたなら、次はどうするか」という、喧嘩屋としての冷徹な計算だけだった。



「――逃がさないよっ!!」


キリカの振るう大鎌が、暴風となって襲いかかる。 バリアを破られ、丸裸同然となったはずのさいか。 しかし、その刃は幼女の肌を裂くどころか、髪の毛一本触れることができなかった。


ヒュンッ! ブンッ! ザシュッ!


縦、横、斜め。変幻自在の斬撃を、さいかは最小限の動き――首を傾ける、半歩下がる、上体を反らす――それだけで、紙一重ですり抜けていく。


「ちっ! ……『未来予知』かよ!」


キリカが焦り混じりに舌打ちをする。


「本当に厄介な魔法……。空間断絶に加えて未来予知までとか、『隔絶魔法』の二個持ちとか本当卑怯!」


彼女の中で、サイカの評価は「隔絶魔法を複数操るチート魔法少女」として確定していた。 攻撃が当たる前に動いているように見えるのは、未来が見えているからに違いない、と。

だが、回避している当の本人の内心は、至って冷ややかだった。


(……未来予知? なんか『隔絶魔法』とか言ってるけど、んな魔法知らねえよ)


才牙は、、目の前の少女の筋肉の収縮、重心の移動、視線のわずかな先、そして肌を刺す殺気の揺らぎを読んでいるに過ぎない。 『喧嘩の場数が違う』。 相手がどっちに鎌を振るおうとしているか、次にどこを狙いたいのか。それは魔法などではなく、 長年のストリートファイトで培われた「経験」であり、見ればわかる「当たり前」だ

それを魔法だと騒ぐこいつの方が、才牙には理解不能だった。


「――でもね!」


キリカが一旦足を止め、大きく距離を取ると、唇を吊り上げてニヤリと笑った。


「未来が見えていても、逃げ場がなけりゃ意味ないよね?」


彼女の体がブレて、瞬時に三人に分裂した。 逃げ道を塞ぐように三角形の陣形を組み、魔力を帯びた大鎌を凶悪に構える。


「未来予知っていっても、回避不能にまで詰めれば攻撃が当たるのは、あのA級アンヴァーとの戦いで実証済み!」


彼女は、ニュース映像や解析データでサイカの弱点を予習していた。A級アンヴァーの八本首による同時攻撃に対し、サイカが傷を負い、回避しきれなかった記録を彼女は知っている。


「さーて、今度はかわせるかしら? 私の鎌は防御不能だよ?❤️」


三人のキリカによる三方位からの同時攻撃。絶体絶命の状況で、才牙は静かに相手を見据えたまま、眉一つ動かさなかった。


(……なるほどな。数で圧殺する作戦か。まあ、間違っちゃいない)


才牙は、だらりと両手を下げたまま、心の中で毒づく。


(俺は、魔法科の連中が言うような高尚な魔法なんて、一個も使えねえ。魔法少女としちゃ三流以下だろうよ。……だけどよ、『見えてる』攻撃に当たってやるほどマヌケじゃねえんだよ)


未来予知などではない。 ただの「超一流の喧嘩勘」が、死神の包囲網を突破する道筋ルートを既に描き出していた。


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