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第189話 退路は無く

 

 朝食を終え、準備を終えた俺と山邉は部屋を出て、ホテルのスタッフにルームキーを渡す。渡されたルームキーを受け取ってから丁寧にお辞儀をした。

 

「ありがとうございました。行ってらっしゃませ」

 

 俺は会釈をして外に出る。

 外には何人かの生徒と、既に待機していた教師陣の姿がある。

 少しして、他の生徒が出てくる。

 

「では、これから大阪に向かいます」

 

 全員がホテル前に集まった事を確認したのか学年主任が告げ、バスに生徒がゾロゾロと乗り込む。先生が最後に人数を確認し、出発する。

 

「一〇時くらいに着くんだよな」

 

 山邉の質問に「そうだな」と俺はしおりを開いて答える。

 バスで向かうのは駅までで、終わった後は大阪のホテルに集合という事らしい。住所や名前はしおりに書いているから、それを確認する様にと。

 

「んじゃ、自由行動であそこ着くのが一一時なるちょっと前くらいだろ? そこで色々見て回ってってやったら昼にちょうど良い感じか」

「……かもな」

 

 俺は山邉と自由時間の動きたについて確認する。恐らくは他の生徒も似た事をしている筈だ。

 

「で、五時くらいまでで飯はホテルで……だよな」

「ああ」

「別に自由に食って良いってのでも良かった感じもするんだけどな」

 

 山邉が「そうだ」と何やら聞きたいことがあるのか、俺の方にズイと顔を寄せてくる。

 

「なあ。今日こそ、だよな」

「……」

 

 昨日は水戸部の事もあったから。

 だから、今日こそは。

 

「……ああ」

 

 完遂させる。

 

「オッケ。まあ、今日こそ上手くやろうぜ。俺の方も頑張る……って、何頑張るんだか知らんけど」

 

 山邉が笑う。

 

「結果、後で聞くかもな」

 

 振られたら慰めてやるよ、と。

 俺は「ありがとな」と返せば、山邉が腕を組みながら。

 

「俺が言っといてアレだけど……振られるつもりはないって言って欲しかったよ」

 

 俺は特に何かを返すわけでもなく黙ってしまう。

 

「あー、何か……俺まで緊張してきたし」

 

 身体を摩りながら言う。

 

「……何か、悪いな」

「いやいや。てか甲斐谷の方が緊張してんだろ。俺のは勝手になってるだけだし、謝る事じゃないだろ」

 

 そう言って山邉が笑い飛ばす。

 

「つーか……まだ時間あるんだし、それまでは大阪楽しもうぜ。緊張しっぱなしってのも疲れるし」

 

 山邉の言葉はその通りで、俺もそう考えたい。

 ただ。

 純粋に割り切るのは難しい。そこまで単純には考えられない。

 

「……で、今日は水戸部どうすんだ?」

 

 俺は山邉に聞かれて「どうするって……どういう事だ」と問い返してしまう。

 

「昨日みたいに来られたら困るだろ。なんだったら、俺から水戸部に言っとくよ」

「何て言うんだよ」

 

 どういう内容のメッセージを送るつもりか。

 

「流石に今日は勘弁してくれってな」

 

 連絡先は知っているらしい。

 学園祭実行委員という事で何度か連絡も取り合った事はあるのだと。

 俺は特にアプリを立ち上げた山邉を止める事なく見ているだけだ。

 とは言え、少し見えた感じでは山邉の方から返信した事もない様だ。

 

「……返信来ねぇし」

 

 送ってから数分。

 既読はついたらしいが、返信が来ないと山邉が悩ましげな顔をする。ただ、もうしばらく待っても山邉のスマホに通知は届かない。

 山邉は諦めたのか溜息を吐き出し、チャットのアプリを閉じる。

 

「────ここが、大阪」

 

 バスから降りて山邉が呟く。俺もその後に続いて外に出る。

 

「山邉くん」

 

 バスから出た所で水戸部が声を掛けてくる。

 

「あ、おい。水戸部。何で……」

 

 山邉が返信しなかった理由を尋ねようとしたが、質問の言葉を吐き出す前に、水戸部が近づき捲し立てる。

 

「メッセージ、どういう事?」


 スマホの画面を見せながら、山邉に近づく。


「なんで、今日はダメなの?」

 

 水戸部の疑問に山邉が答える。

 

「いや。俺と甲斐谷で大事な……まあ、色々あんだよ、男同士」

 

 だから、悪いけど。

 俺も水戸部に申し訳ないという表情を向ける。すると、水戸部と目があって。

 

「男同士で、大事な……」

 

 仕方ないと言うように、ふと笑う。

 

「まあ、分かった……そこまで食い下がる気はないし。無理にとは言わないよ」

 

 今日は友達と部屋で過ごすから。

 そう言って水戸部は話を終わらせて友達の元へ戻っていく。

 

「何か」


 山邉が腕を組み、去っていく水戸部の背中を見ながら言う。


「思ったよりアッサリだったな。もうちょい色々言われるかと思ったのに」

 

 元々、水戸部は俺が学園祭で抜けるという事も詳しくは聞かなかったのだ。今回の事もそこまでおかしくないか。

 

「ま、これで断念の不安もなくなったって、感じか」

 

 水戸部の介入が無くなる。

 これで、今日の夜。

 俺の計画がようやく。

 進んで。

 全てが終わる。

 

「…………」

 

 進むしか、ない。

 ここまで来たなら、倉世の記憶を取り戻すために。


「これで大丈夫だろ。なあ、甲斐谷」


 山邉に俺は「……ありがとな」と端的に感謝を告げる。

 

「取り敢えず。ほら、行くぞ」

 

 今は自由行動だ。

 他の生徒たちは既に動き始めているらしい。さっきまで居たはずの水戸部の姿もない。駅の中に入ったのだろうか。


「おう」


 俺は山邉の後を追って、駅の中に入る。

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