19-28.それぞれのレスキュー2
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
19-28.それぞれのレスキュー2
「ええ感じに割れてきましたで。そろそろ蓋が落ちるやろ、みんなキリキリシャンとお気張りやす!」
老舗の女将が告げる。
「「「「「「おー!」」」」」」
いよいよ戦いだ。
「隙間が出来たぞ!」
実際には穴によって状況は異なるので、同時進行ではないのだが、投網組が一斉に網を投げる。
「頼む、掛かってくれ」
投網の周囲には分銅がいくつも付いており、それがうまく隙間を通って穴と蓋の間に潜り込んでくれれば、蓋を包み込む事が出来る。
上警の捕縛魔具であるこの投網には、更に分銅に想夫恋の魔力が込められており、二つでも上手く蓋の下側に分銅が潜り込めば、お互いが引き合って網を閉じる事が出来る。
「3、2、1よし!もんだどんだい!」
懐かしい噛み方をして、隣の穴のオコが上手く蓋を釣り上げた。
「ここ、置いとけばいい?」
「うん」
「じゃあ他の人、手伝ってくる」
やけにせっかちだと思ったら、そう言う事か。
おっと、オコに気を取られている内に自分のが、えらい事に!
殆ど落ちかかっていた蓋を嘉門で引っ張り上げる。
嘉門の難しいところはこの力加減で、自分の前に立ってる相手の向こう側の重量物を全力で引き寄せれば、
俺の様に不殺どころか不殴、不蹴の呪いが掛かっている元ボンでも、あっさり相手を
「不幸な事故で」
殺傷する事が出来る。
俺の回収が済んだのでドームから少し離れた広場に蓋を運んだ。
これは土魔法で作ったゴーレムで簡単に出来た。
ドームの周りを回って各穴の進捗を確認する。
三つ並んだ穴で、二娘と弟子たちの居合いが始まった。
「御供より始めよ」
「はっ」
パーサへの優しいお母さんぶりを見ていると、このあたりの女将軍二娘とは結びつかないが、姉弟子メルファ共々御供が失敗したら直ぐにフォロー出来る様に見守っている目は優しい。
「ええい」
裂帛の気合いで御供の刀が鞘走る。
いつもは二刀だが、今日は両手でしっかり長刀を握っている。
日本でも古武道では下段からの脛切り技は継承されている。
巌流島の決闘の絵によく描かれている様な、相手の剣を避けて高く飛び上がる様な剣法は、今の剣道には見られない。
有効打で一番低いのが横に薙ぎ払って胴を撃つ物なので、それを避けて跳ぶにはハイジャンパー並みの跳躍力が必要。
幕末の薩英戦争のきっかけとなった生麦(現:横浜市)事件では、薩摩藩の大名行列を見物していた英国人が馬を降りようとしないため、薩摩藩の役人が英人に馬を降りて帽子を取って一礼せよと、何度も交渉(通訳もいたらしい)したにも関わらず、全く無視し挑発的でさえあったので、やむなく護衛の武士が馬の背より高く跳び、薩摩示現流で鮮やかに英国人の首を斬り飛ばしたと言う。
「跳ぶ」
と言う剣法が、当時の示現流にはしっかりあったのである。
ただ御供の剣法は、下段から真横に払う。と言うよりむしろ更に切っ先を下に向け、えぐる様な軌道を描いた。
レムリアでは蓬莱の忍者しか使わない
「畳返し」
だ。屋敷の中で囲まれた時、畳を立ててその隙に逃げ延びる忍法。
蓋は広がった穴の中に落ちて行くので、掬い上げる様な軌道で刀が走った。そして
「せいっ!」
の掛け声のもと、御供の頭上に蓋が跳ね上がった。
人間50人分の重さである。
切っ先を支点として回る蓋は、不安定にぐらついたが、姉弟子のメルファが
「カチン」
と縁を剣で叩くと見事に立ち直った。
綺麗に回さないと2t以上の重量が切っ先にかかり、剣が折れる。
「姉者、かたじけない」
「未熟者め、練習が上手くいっても本番でしくじれば、至上はお護り出来ぬぞ!」
「ははっ」
「よい。回しておれ。メルファ」
もちろんメルファは一発で成功した。
「ウラナ殿、蓋はどこへ?」
俺が場所を教えると、二娘は穴と蓋間に両手の指を差し入れ、掛け声もなしに、蓋を持ち上げ肩に担ぐ。
あっけに取られている俺に、にっこり微笑み
「剣術は弱い人間の技。我らナンバーズの七つの威力の一つ『アイアンクロー』なら、剣は使いません」
と言ってのけた。
七つの威力が詐欺的に多いパーサじゃなくても、ナンバーズにはベーシックな七つの威力はあるんだな?
六娘にも、この腕力は必要か?
ああ、りんごジュースとか、簡単そう。
パーサとか四娘の事は全く心配してなかったが、この腕力なら心配ないわ。
他も見回ってみたが、投網組は苦戦はしたものの、ナンバーズ組の支援も入って無事に回収出来ていた。
ただパピーズが固まって、シクシク泣いていた。
彼らには投網も渡していたが、俺が教えた嘉門を使う事にこだわって、一生懸命引っ張った。
元々マジックポーチから、瞬時に武器を取り寄せるために覚えた技なので、威力は弱めに練習している。
そうでないと飛んできた武器で親指を折るからである。
どうも頑張って四人で嘉門をかけて引っ張ったのだが、足を踏ん張った穴の縁が崩れ落ち、危うくオコが風魔法をかけて助かったが、その隙に蓋は奈落に落ちて行った。らしい。
「使った風魔法って、こう言うの?」
メルファが小さな竜巻を出す。竜巻の内側が螺旋階段になっており、上に上がって来れるのだ。
「はい、それの大きいので駆け上がったんです」
「凄いね。私でも独鈷杵がないと、これ以上大きいのは作れない」
元"暴風の魔女"は驚嘆していた。
「仕方ないさ。足元の崩れやすい穴を担当させた、俺の落ち度だ」
「でも最初から投網を使っていれば…」
ウラナαβが泣き声で言う。
「それよりさ、穴の奥からなんか聞こえるよ?」
19個の肉蓋の硬化魔法を解呪し、950人の善人兵を広場に眠らせた師匠が戻って来て言う。




