19-27.それぞれのレスキュー1
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
19-27.それぞれのレスキュー1
武道でもなんでも、達人と言う域に達している人に助太刀は無用。
それどころか、応援も邪魔になる。
なので俺たちはマーリンと破滅の魔女との超古代から続く戦い(超古代では両者とも別の名だった様だが)を見守るしかない。
いや見守るはおこがましいなあ。
「シェフのおまかせ」
と言う感じかな?
そういう訳で、俺たちは俺たちの仕事を粛々と準備していた。
投網組だが、成功のチャンスはワンチャンしかないのだ。
例えば後数日あれば、近くに頑丈な足場を組んで上から投網を投げれば成功率は上がるだろうが、その時間はない。穴周辺の亀裂はどんどん大きくなり、穴同士が繋がって、ドーム全体が奈落に落ち込むまでに筋肉兵全員を救出しなくてはならない。
ただ現状の熟練度では救出に失敗して奈落に落ち込む蓋があっても、それは仕方ない。
「出来るだけの事はやった」
と思うしかない。と言うのがギリギリの感情だった。
俺の
「なんと無く」
で、先に善人化した事は、その面ではチームに不要なプレッシャーを与えてしまったのは否めなかった。
善人化した後、師匠がすぐ催眠魔法をかけたので、直接筋肉兵とは話をしていない。
だが寝顔が良いのである。
いい悪人達で、髭面だったり顔に大きな傷があったりするのだが、なんとも安らかで可愛い寝顔だった。
なんか某千葉の東京遊園地で、普段眉間に皺を寄せてガンを飛ばしまくっている修学旅行ヤンキー達が、きゃあきゃあとアトラクションを楽しむ(周囲に威圧感を与えながら、ちゃんと行列に並ぶ)様を思い出した。
各県で伝説の様に伝えられる
「うちの高校が修学旅行であの遊園地行かなくなったのは、最悪だった学年の先輩が人気鼠キャラを池につき落としたから」
と言うエピソードは、実際には作り話だそうだ。
彼らはVIPなので、同時に別場所に現れないシフト管理(ランドとシーにはそれぞれ一体)始め、インカムを付けた体育会系SPが遠巻きで監視しているし、幼児が誤って沈んでしまう様な低い柵の池はない。
あのガワは重装備で(中の人などいない!)、簡単に頭上高く持ち上げて池に放り込む様な不良はウエイトリフティング部にスカウトされるだろう。出禁になる学校は、実は万引きが原因らしい。
「こいつらを奈落に落としたら、後悔するだろうなあ…」
と考えると訓練にも身が入るし、プレッシャーに押しつぶされそうにもなる。
ビッグ7の中でもオコと社長は嘉門の様な牽引魔法がないので投網を借りたが、オコの方は飛び道具全般大得意なので、100%失敗はないだろう。
捕まえた蓋を引き挙げるフィジカルも心配ない。
社長は真上から投網を投げ、真上に引き挙げる。と言うワタリガラスにしか出来ない技を持っている。
もう一個、別の穴も担当して欲しかったが、残念ながら動員出来るワタリガラスの数が足りなかった。
俺、師匠、コンコン、パピーズは牽引系魔法が使える。
パピーズのは俺直伝の嘉門なので引きが弱い。
なので2人が牽引し、左右一人づつ横70度から姿勢制御。と言う事で4人でチームを組む。
念のために投網も貸与しておいた。
コンコンのは嘉門じゃなくて、昔の友人から習ったと言う技だと言う。
見せて貰ったが、物を浮遊させるだけでなく、自由自在に操る事が出来る。まるで糸がついている様に。
片手を握って
「クイッ」と手首を上下するだけで、面白い様に蓋に見立てたお鍋がクルクル回る。
鍋?
なるほど、コンコンの旧友って鍋島のあの御方か。
上警の逮捕術が失敗する訳がないが、新人の姉妹はちょっと気になる。
エールの方は最悪結界を蓋に築いてしまい、蓋の落下を防ぐ。と言う手があるが、レイラの見鬼のチートは特に今回は役に立たない。
ずっと才蔵に従って哨戒活動を続けてきた体力でなんとか切り抜けて欲しい。
俺はレイラ達を発見したあの驚異的フィジカルの幼児、テケを早めにカマイタチ(四娘)の傘下に組み入れて置けば良かった。と少し悔やんだ。養い親であるルディンのおばば(長老)が高齢な事もあり、もう少し大きくなってから村を出る方が良かろう。と思ったのだ。
エールとレイラの姉妹は肉蓋の中に父どころかあの義賊村の住民が一人もいない事を確認し、マーリンが電池兵の電池切れ(つまり死)前に破滅の魔女を倒してくれる事を祈るしか無かった。
あと御供がどれくらい成長しているかも気になったのだが、パリトネカビルで現れた御供は凛々しい少年剣士に成長していた。
メルファも含めて二娘仕込みの
「下段膝切り、からの突き上げ切っ先止め」
と言う古武道みたいな技(近代剣道には戦国時代には有効だった"足を歩行不能にする技"がない。薙刀にはあるので三〜四段クラスの剣士が高校女子薙刀部員にボロ負けする)を習得していた。
二娘が模範試技を見せてくれたが、最後は蓋(に見立てた盾)を剣の切っ先でクルクル回し
「いつもより沢山回しておりま〜す」
状態だった。
沙悟浄さんは心配ない。
彼は穴の様な空間を
「流砂河」
に見立てて自在に泳ぐ事が出来る。
沙悟浄は前世の日本では河童の化け物と思われているが、西遊記では流れる砂の底に潜む肉食妖怪。つまりアリジゴクの化け物だ。
捕まえて食った旅人の頭蓋骨を首飾りの様にしている姿で描かれるが、河童だったら尻子玉の首飾りだろう。
天帝の怒りをかってこの様な浅ましい妖怪に変えられたところ、釈迦如来の慈悲により三蔵法師の天竺行きに従う事になる。
その後三蔵法師が首尾よく天竺で経典を得たため復職する事が出来たが、結局心を病んで引きこもり、今は伎芸天の元で警備主任をやっている。
天上の貴人から人食い妖怪へ。この心境はリストラされてハローワークに並んだ元バブル経験者にしかわからないかもしれない(俺だよ)。
誰かが失敗して蓋が奈落に落ちた時、助けられるのは沙悟浄さんだけなのだが、彼は悲しい顔で首を横に振った。
「私の手が届くのはせいぜい10mまで、隣の穴まではとても…」
20個の穴でのそれぞれの決意。
そして俺たちの見えないところでのマーリンと魔女の戦い。
いよいよ正念場に差し掛かった。




