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19-19.亡霊兵

転生したら転生してないの俺だけだった

~レムリア大陸放浪記~


19-19.亡霊兵


肉の壁も亡霊兵も聞いた事がない。

「肉の壁とは?」

「古代のヴィドゥムの戦いで、愚劣王ラジタリが全国民を盾にして、敵の侵入を防いだ。と言うものじゃ」

「ぜ、全国民って!」

「当時はレムリアの人口も少なかったでのう。1万人程じゃったが」

都市国家の時代なのだろう。

ドラクエで街を出ると悲しい音楽が流れ、荒野をひたすら歩くと向こうにお城が見えてくる。と言う。あれだ。

米や小麦といった大勢の人口を養える作物が普及するまでは、城壁を巡らした都市だけが国で、次第に周りの荒野が開拓されると、城主は年貢を取って敵襲があった時は女子供を城壁の中に匿い、農民兵と共に戦う様になった。

都市国家から領土国家に変貌して行くには、豊富な炭水化物作物の増収が必要だったのだ。


「つまり筋肉兵を肉の盾にしたという事か」

「今迄の戦いで、筋肉兵が我々の電撃でたやすく戦闘不能に陥り、全く役に立たない事を大御所達も学習したのだろう。聖狐天の教義上、操られている。と分かっている筋肉兵を殺せない。と踏んで、彼らを壁代わりに使う事にしたんじゃろ。狭い峡谷にぎっしりと5千人程お互いに密着した兵士が並んでとうせんぼしておる」

うわっ、むさ苦しそう!

聖狐天教は非武装平和主義と言う訳ではないので、筋肉兵がもともと各地の悪人だとすれば、命を奪うに躊躇はない(特に二娘やメルファ)。だがナノ姫達が善人化出来、ましてや筋肉兵の中に義賊のエール、レイラ姉妹の村の者が居るとなると、無下に惨殺もできまい。


「別に電撃で倒れん?」

パーサが事も無げに言うが

「肉の壁は硬直・強化魔術がかかっておるので、ちょっとやそっとじゃ倒れる事がない。肉の壁が死体の壁になるだけじゃ」

「ではアシが近寄って片っ端からナノ姫に仕事させやいいがね。どうせ動けせんのだし」

「近寄らせないために亡霊兵がおる」


「亡霊兵と言うのはこの間の殭屍魔術師の様な者ですか?」

「違う。あれはナイラス魔法兵士の死体を死霊師(ネクロマンサー)が操るものじゃったが、亡霊兵の死体は既にない」

「おはかのおコツ?」

「ステルや、それもないんじゃ。亡霊兵は現世に強い思いを残して死んだ兵士の霊魂が、冥界に行かずにその地に留まり続けるものじゃ。なので死体や白骨などは特に不要なのじゃ」

地縛霊みたいなものか。


「じゃあ例えばあたしの中級浄化魔法ならば?」

「冥界に行く気がないのじゃから、浄化できないだろうな。これはセイコαの上級浄化魔法でも、聖狐天の神聖魔法であっても駄目じゃろう」

「ではどうしたら?」

「亡霊兵どもが納得すればいいのじゃが、何が彼奴らを現世に縛り付けているかが分からん事には、なんともならん」


「そんな厄介な相手を、どうやって大御所らは操っているんだろう?」

師匠が至極まっとうな疑問を呈した。精神支配魔術は生き物にしか効かないし、ネクロマンサーは霊を操る事も出来るが、この亡霊兵の様に堅い信念を持った霊を操る事など出来るのだろうか?

「操る事など出来んじゃろう。多分詐術を使っておるのじゃろうな」

「霊を騙す。と言う事ですか?」


具体的なものとしては、護符や御守がある。

トルコでは目玉の御守りが良く使われるが、これは悪霊が入らない様に見張る。と言う意味がある。

日本でも玄関横にヒイラギを植えたり、イワシの干物を飾ったりするのは、破邪の剣に似ているから。と言う意味らしい。そう言う意味では霊を騙す事になるのだが、騙して敵に向かわせるのは、上位の術師でも殆どやらない。嘘がバレれば霊は一挙に自分に襲いかかってくるからである。


「そんな事が出来るのは」

「霊が反撃して来ても平気な存在だけじゃな」

「じいちゃんならできる?」

「無理じゃな。5秒ももたんじゃろ。逃げられるかどうか?と言うところじゃ」

「世界一の大うそつきでもダメか〜」

「ステル、随分じゃな。これが出来るのは、この手の悪霊を扱い慣れている。いや、日頃美味しく頂いている奴だけじゃな」

「霊を?食べる?」

「破滅の魔女の主食は、人間の憎悪。デザートは悪霊じゃからな」


取り敢えず現場に行ってみる。

なんか肉の壁と言うのは、結構エグいものだ。

1mmの隙間もなく、大の男がぴっちりと体を寄せ合い、しかも上にも肩車の様に乗っている。

一部の嗜好の人には歓迎されそうな図柄、と思うかもしれないが、元々悪党どもは中年過ぎの油ギッシュなおっさんばかりで、体を密着させた美少年、などは全くいない。大体5千人くらいと言うから、まだ余力は残してあるのだろうが、やはり若くて使えそうな奴は残してあるのかな?


そして壁に近づこうとすると、突然黒い霧の様な塊が現れ、強く押し返される。

「おっと」

尻もちをついてしまった。

刺される。とか呪いを受ける。とかではなく、物理的に拒絶される。

「横から見るとねえ」

オコが面白そうに言った。

「透明な重武装兵が全力でメグルを槍で突いてるのよ」


試しにオコが矢を射かけても素通りし、後ろの肉壁が

「オウチ!」

と声を上げた。

「ごめん、痛かった?」

とオコが治癒魔法をかける。

誰が敵だか分からん。

興味深いのは、重武装兵の全力突きを受けているのに、押されて尻もちをつく位の衝撃しかなく、ミリグラムも反撃にでない。


「お互い物理攻撃も魔法攻撃も出来ず、相手は霊圧みたいなもので押し戻すのみ。か」

俺たちが突破しようとする力を反発させているだけ。と言う事なのだろう。

大御所側からすれば、俺たちを害する事は諦めているのだろう。

コンサートの準備が出来ない様に、荷車を足止めすれば成功なのだ。


「しかし、霊たちは何を欺かれているのだろうか?」

「ワシらを生前の敵と誤認させられておるんじゃろう」

生前の敵?あいつらは生前、誰の兵だったんだ?

「あいつら、『おのれタンラン、許すまじ』とか言っとるで」

七つの威力で聴覚の鋭いパーサが聞き取った。


タンランの敵か。

しかしこれは余り有力な情報じゃない。

最悪王タンランを恨んでいた国家・民族は、それこそ山ほどいたからな。

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