19-17.詐欺師たちの憂鬱
転生したら転生してないの俺だけだった
~レムリア大陸放浪記~
19-17.詐欺師たちの憂鬱
「とにかく犯人のプロフュァーリングが出来てまったがね」
と今まで黙っていたパーサが、美味いとこ持って行く。
1:犯人はランプのジンをマーリンが持っている事を知っていた。
2:犯人は面倒くさがりである(千年かけて自分で作る事を嫌がった)
3:ジンを盗んだ犯人は、願い "同じ物をもう一つ"を使ってチケットを複製した。
→つまり犯人は大御所。もしくはその上の存在。
「でもさ。3:はどういう意味があるの?チケットをダブルブッキングさせるなんて、些細な嫌がらせじゃない?」
「"同じ物"の意味が、今回の一組のペアチケットではなく、 箱一杯に詰められた三万枚のチケットの耳だったら?」
ジンはレムリア語が余り上手くないそうだ。つまり単数も複数も一緒くた。
「もし当日、席数の倍の"正規のチケット"を持った客が押し寄せたら?」
つまり3万人が6万人。と言う事か。これはコンサートどころじゃなくなるな。
筋肉兵なら何千人来ても手は打てるが、これは巧妙に仕掛けられたテロ攻撃だ。サイバーと言うにはアナログだが。
「これは上警にも連絡し、全力を挙げて検挙せんと、3メタルの評判に傷がつくぞ、ワシも加勢するよって早期検挙じゃ!」
検挙って?
「無論ダフ屋じゃよ」
レムリアにもダフ屋はいる。前世ではイベントやコンサートで、彼女にドタキャンされたりして余ってしまった入場券を買い取り(行事の人気により上限は定額)、チケットのない客に高値で売る商売で、まあ街の券売屋と同じ仕事だが、当日の会場付近である所が違う。
大抵の自治体では条例で会場付近でダフ屋営業をする事は禁じられている。晩年、俺はそんなイベントに行く事もまず無くなったが、かつてはダフ屋と言えば、まるで制服の様に、
頭にはハンチング帽、革ジャン、サブバッグを小脇に抱えたおじさんで
「券あるよ。券あるよ」
または
「余ってる券ないか。余ってる券ないか」
と小声で呟きながら立っている。余り大声だとガードマンが飛んでくるからだ。
昔カーラジオを聴きながら帰宅途中、中日の木俣がホームランをかっ飛ばして逆転したので、慌ててナゴヤ球場(懐かしい)へ急行して、ダフ屋から内野席を買った事があった。安かった。確か7回超えると外野は無料で入れるかなんかで、ダフ屋も焦っていたのだろう。
結局その試合は再逆転されて負けたけど。俺がダフ屋からチケットを買ったのはこれ一回きりだったが、他のイベントでも制服を着たダフ屋軍団が必ず立っていたもんだ。
ダフ屋も転売屋も差額で儲ける原理は同じだが、ダフ屋の方は激減していると言う。それはコンサートのチケット等が事前販売制が多くなったからで、住所氏名を明記して購入するため、主催者側が入場に免許証等の身分証明書の提示を求めれば、転売ものはシャットアウト出来るからである。ヤフオク等でトラブルが多かったなあ。
今回のコンサートでも事前購入で、前世より便利な事にチケットに印刷された魔法陣に固有の個人情報が入っているため、一瞬で照会が出来るのだ。今回はグッズの事前予約の申し込みで、明らかに年齢のおかしい魔法陣情報の申し込みがあったため、事前にこの犯罪が露見した。
「韋駄天さん。例の若夫婦はダフ屋から買った、と言ってましたか?」
「いや、正規の韋駄天ポストにチケット予約申し込み書を投函したそうです」
韋駄天サービスとかワタリガラス運送とかは、言わば民営化された郵便会社もやっている訳で、前世日本だと赤いポストの様な、それぞれ特徴ある色や形の投函用ポストを街中に置いている。
韋駄天サービスのは、前身のクイックシルバー郵便サービスからの伝統で水銀にちなんだ鈍い銀色に塗装されたポストなのだが、若夫婦が見たのは街はずれに新しく立てられたポストで、少しテカっていたそうだ(ちなみに後で調べに行ったが無かったそうだ)。
おかしいな?と後で気づいて不安になったが、ちゃんとチケットが送られて来たので安心したとの事。
「いくら3メタルの人気が高こても、3万枚ソールドアウトの後で、またゾロゾロチケットが売り出されたら、みんなおかしいと思うやろ。これは金儲けやないな」
コンコンの推理である。
「どういう事じゃ?」
「つまり、大掛かりな偽券詐欺ダフ屋組織は存在しない」
俺が引き継いだ。
「なんじゃと!」
「相手は、当日の入場混乱でコンサートを中止に追い込むために、無料で複製チケットをばら撒いたんですよ。当然蛇の道は蛇で、詐欺師達が偽チケットをかき集め、詐欺ポストなどを用意して、若夫婦みたいな善良な人たちから実際には使えないチケット代を騙し取ろうとしたんです」
「じゃがそんな悪をのさばらせたら、3メタルの評判が」
「不幸にも引っかかった若夫婦以外にも、ソールドアウト前に間違ったポストに投函した人もいたでしょう。だがダブルブッキングの事実が露見した後は韋駄天サービスが新しい図案のチケットを再送しているので、被害は最小限だと思います」
「じゃが闇に隠れた偽チケットで一儲け。と言う者もまだおるのではないか?」
「少なくとも組織的な詐欺集団はもういませんよ」
「上警が動いたのか?」
「いえ、筋肉兵にされちゃったから」
「なるほどなあ、わっはっは。こりゃ一本取られたわい。大御所らは混乱を起こすのが目的であったのに、自らの別働隊がせっせと各地の悪者を狩ってしまい、せっかくの火種に火が付かなかった。と言う訳じゃな。自業自得とはこの事じゃ」
「でもひょんな事から偽チケットを拾い、詐欺に使える。と思った個人営業小物詐欺師もいるかもよ」
オコが指摘する。
「そこで二次犯罪を防ぐために、ファンクラブの力が必要なんです。新しい図柄のチケットが本物である事。バクロン公演、タリフ公演ともとっくにソールドアウトで、再販はない事。そこのところをファンクラブを通じて、レムリア中に広めてくれる有力者は、いないかなぁ〜?」
「呼んだか?任せておけ。忙しくなってきたぞ。ワシはこれで失礼する」
マーリンはさっさと姿を消す。
「3メタルの話になると、ちょろいな」
師匠がつぶやく。
「でも若夫婦は良かったけど、引っかかった人達も多少はいるんじゃないの?海賊盤の時に良心的な対応しちゃったから、無下にすると評判が落ちない?」
オコが心配する。
「そうだなあ。事情によっては次回ツアーの優先予約券でも渡すか…。だけど多分金銭的な損害はないと思うよ」
「どうして?」
「きっと善人化した詐欺師さん達が、反省してお金を返しに行きそうな気がする」




